9 / 41
第1章 幼なじみに恋人ができた
09 知らなかった一面
しおりを挟む店内にはいると、列から想像はできていたが人でごった返していた。机と机の幅が狭く、椅子を引いたら後ろに当たってしまう距離にある店内は箱詰め状態だ。
ピンク色と水色のエプロンを着た店員に案内されたのは窓側の席で、ちょうど先ほど並んでいた列が見える場所だった。
メニューはタブレット式のようで、店員は説明を終えると足早に去っていった。飲食のバイトって大変だな、と思いながら俺はタブレットに手を伸ばす。すると、先に燈司がタブレットを手にし、俺に見えるように傾けてくれた。
「いいって。燈司も見るだろ?」
「大丈夫、俺さかさ文字見える特殊能力あるから」
「ほんとか?」
「嘘に決まってんじゃん。でもいいよ。俺、この店には来たかったし食べるもの決まってるんだよね」
燈司は「山かけイチゴのベリーベリーベリーワッフル」と呪文のような言葉を口にしていた。もうそれはベリーワッフルでいいのではないかと突っ込みそうになったがやめた。
「んー俺も同じのでいいや。ああ、でもシェア出来たほうがいいか。燈司は、他に食べたいのとかある?」
「しいて言えば、『山かけマンゴーパインのトロピカルフィッシュフルーツワッフル』は気になるかも」
「なんて?」
俺が聞き返せば、燈司は説明がめんどくさくなったのかタブレットをシュッシュとスライドさせ、山かけマンゴーなんちゃらワッフルを指さした。燈司が先に選んだベリーワッフルの隣にあり、真っ赤なベリーワッフルとは違ってまっ黄色なワッフルだった。
燈司は、もう一度「これでいい?」と聞いてきたため俺は首を縦に振る。それから、注文加護に入れて、送信のボタンを素早く押した。
燈司はひと仕事を終えたように水の入ったガラスのコップをゴクゴクと飲み、静かに机の上に置く。
「はぁ~なんか緊張した」
「緊張したって映画?」
「うーん、デート練習かな。張り切っちゃって、ようやく一息付けたかなって感じ」
「ああ、映画でずびずび泣いてたもんな。なくって案外体力使うらしいぞ?」
燈司の目の縁は少し赤くなっていた。もう涙がこぼれてくる心配はないものの、燈司は青春恋愛映画で泣けるタイプなのだと初めて知った。
中学生の時にいった映画は、洋画だったり、ミステリーものだったりしたため、恋愛映画を一緒に見に行くのはこれが始めてだ。
燈司は、コップの縁をなぞりながら時々ふふっと笑みをこぼす。
「恋愛映画でドキドキさせよう作戦だったんだけど、凛にはダメだったね」
「俺はあくまで練習相手だろ? 俺はその、好みじゃなかったけどお前の恋人はどうか分かんねえじゃん」
「でも、ダメ! 俺、恋愛映画で泣いちゃう人間だから、恋人にそんな姿見せたくない」
バンバンと机を叩きながら猛抗議する燈司。
コップに入った水がちゃぽんちゃぽんと揺れる。
まあ、確かにかっこいい姿を見せ続けたいなら、泣いてしまう映画はダメだろうな。
俺は、燈司の手がコップに当たりそうだったため、サッと横にずらした。
それからほどなくして、ワッフルが運ばれてきた。だが、それは想像を絶する大きさで、皿は俺たちの顔の二倍ほどの大きさだった。また、名前の通り山かけで、ベリーワッフルに関しては薬指サイズのイチゴがゴロゴロ乗っている。
「これ、一つでよかったんじゃね? 食べきれるか……?」
「の、残したら罰金」
「……そりゃ、食べなきゃダメだな。意地でも」
ごくりと喉を上下させる。甘党とはいえ、この大きさは予想外だ。
燈司も震える手でナイフとフォークを持って、ワッフルを見下ろしている。二人でいただきますをし、ワッフルに手を付ける。
「おっ、うまっ。量はあれだけどうまいな」
「凛、凛。このイチゴ、ちょうどいい甘酸っぱさ。いる?」
「ん、じゃあ、もらう。俺は、マンゴー……これはパイナップルか。マンゴーのほうが高価だからこっちやる」
ワッフルは口の中に入れた瞬間ほのかにメープルシロップの香りが広がり、モチモチとした生地は弾力がありつつも歯で噛みちぎれるほどの柔らかさだった。おまけに大量に盛られた生クリームも甘すぎず、とろみがあるため少し甘めなワッフルと相性がいい。フルーツは解凍したてか? と思うようなシャリっとした触感はあったものの味は悪くなく、マンゴーも大きめにサイコロ上にカットされていたため果肉が口の中ではじけた。
俺たちは同じタイミングで顔を上げ「美味しい」と相手の目を見つめる。
それから、フォークでフルーツを突き刺し相手の皿へ移そうと手を伸ばした。しかし、そこで燈司の待ったが入る。
「凛、デート」
「デー……ああ、そっか。じゃあ、あーん」
「何で!? 俺がやろうとしてたのに!!」
燈司はカッと頬を赤らめて苦言を呈した。だが、テーブルの大きさはそこそこあり、燈司の手では俺の口まで運べないだろう。俺は腕は長いから燈司の小さい口元に難なく運ぶことができる。
燈司は、ハッと自分の腕の長さに気づいたらしく、イチゴが刺さったままのフォークを皿の上に置いた。それから、むすっとした表情で俺を見上げる。
「俺が手本見せてやる。あーん」
「もー調子のいい」
そう言いつつも、燈司は口を開ける。白い歯は歯並びがよくて短い舌がちょ、と出ている。
俺はそんな燈司の口にマンゴーを持っていき、彼が口を閉じるまで腕をキープした。ぱくりと、燈司がマンゴーを口に含んだと同時に俺はゆっくりと彼の口からフォークを引き抜いた。
「ど? 美味しいだろ」
「美味しい……マンゴーって高級だし、でっかいすーぱでしか見たことないかも」
「だよなーあ、あれもそうじゃね。強そうな名前フルーツ」
「ドラゴンフルーツかな?」
「そ! それ! 今度二人で買って食べようぜ」
「ドラゴンフルーツ試食会? 面白そう。どっちの家でする?」
「じゃんけんだな。ま、どっちでも変わんねーけど」
燈司は口元に手を当てながらしゃべる。だが、その口元は緩んでおりとても楽しそうだった。
その笑顔だけで、このワッフルを食べきれそうな気がして、俺は幼馴染の笑顔をスパイスに顔の二倍サイズの皿に盛られていたワッフルをぺろりと平らげた。
11
あなたにおすすめの小説
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
だって、君は210日のポラリス
大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺
モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。
一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、
突然人生の岐路に立たされた。
――立春から210日、夏休みの終わる頃。
それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて――
📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。
エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。
【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ
鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。
勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。
仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。
恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。
葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。
幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド!
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています
前世が悪女の男は誰にも会いたくない
イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です
ーーーやってしまった。
『もういい。お前の顔は見たくない』
旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。
前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた
しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう
その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める
頑張って運命を回避しようとする話です
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる