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第4章
03 女の子になりたい◇
しおりを挟む「――っ、イグニス!」
「はあ、はあ……くそ、くそ……遅かった。おそか……」
「おい、イグニス!」
熱くなる体。内側から作り替えられていくような感覚に身を震わせながらも、確かにとらえたお兄様の体は赤く染まっていた。返り血……震わせた拳から血が滴っていて、もしかしてお母様を? と心配してしまう。最後まで憎み切れなくて、自分の温さに吐き気が出そうだが、親を殺してお兄様がとがめられなければいいなとだけは思うし、願う。
瞳孔を開いて、怒りに震えて周りが見えなくなっているお兄様を、殿下がゆする。すると、はじかれたようにお兄様は殿下のほうを見て、にらみつけた。
「何、ゼイン。俺は今、いそがし……」
「ペチカを助ける方法はあるのか? それと、それ以上やるな。貴様の母親が死ぬぞ」
「いいよ、別に」
「ダメだ。貴様が俺の護衛から外されたら困る。それに、貴様は俺の義弟になるんだぞ? 親戚に罪を犯した者がいるなど俺は許せない」
「……」
殿下らしいなだめ方だったが、お兄様はそこでようやく正気を取り戻したようで手についた血をハンカチで拭いながら「そうだね」と息を吐いた。お母様はその場でうめいていたみたいだけど、しばらくして静かになった。殿下が言うに、多分死んではいない。気絶しただけだと思う。
まあ、周りにいた騎士たちを切り殺したのは殿下だけど、そっちは問題ないのだろうか。
「あるよ……薬を作っていたのは、エーデルシュタイン伯爵家だったし。この間の尋問でいろいろ吐いてもらったからね。でも、この薬の流出だけは防げなかった」
「それで、方法は?」
「……ペチカが打たれた薬は、体を男に変える薬。まる一日かけて痛みとともにその体を変えるものだよ。人間には使用したことないらしいから、ペチカが初めて。治す方法は、薬を撃ち込まれた人間の体内に精を吐き出すこと」
「……、それはつまり」
「性行為が必要なんだよ。それも、一度じゃなくて、定期的に。一か月ほどで薬は抜けるらしいからそれまで」
「そ、うか……だが、治せる」
「保証はしない。けど、方法がそれだけなら……不本意だけど、頼める?」
「ああ……俺しかできないだろう。誰も、ペチカには指一本触れさせない」
「ペチカのこと任せたよ。だから、こっちは任せて行って」
殿下とお兄様は目配せし、殿下は私を抱き上げた。触れられるところが熱くて、痛い。
殿下は、私を抱えながら倒れた男たちを踏んで部屋を出る。そうして、離れた部屋に入るとそこにあったベッドに私を横たわらせた。
「ぜ、いん……」
「すまない、助けに来るのが遅くなって」
「いえ、いえ……でも、でも、私、私……」
「わかっている……でも、俺は、貴様が女だろうが男だろうが、どちらでもなかろうが好きだ。べテルもペチカもお前だ。ペチカ・アジェリット。だから、不安になるな。俺はこれから先も、どんなお前でも愛してやる」
そういって殿下は私の額にキスを落とす。
その言葉に先ほどの恐怖から解放されたこともあってまたぽろぽろと涙がこぼれた。くよくよしたやつは嫌いだったんじゃないかとあの日のことを思い出して、涙を止めようと思ったが、私を抱きしめて「好きだ」、「大丈夫だから」と背中を撫でてくれる殿下の優しさに、私は彼の胸を濡らすことしかできなかった。
この人は、そうだ。私が女だろうが、男だろうが愛してくれる。あの日からずっと。じゃなきゃ、べテルもペチカも愛してくれなかった。
「ぜいん、わたし、わた……」
「ああ、でも貴様が、女でいることを望むのなら、俺は貴様を女にしてやる。貴様の願いをかなえてやる。だから、安心しろ。ペチカ・アジェリット。もう、貴様を苦しめるものはいない。だから、いえ。貴様がどうなりたいか、何を選びたいか」
「わたし、は……」
ずっと抑え込んでいたもの。
ベテル・アジェリットは私であり、ペチカ・アジェリットも私だ。どちらも私で、私はどっちの私も愛している。でも、男になりたいわけじゃない。そじゃないと、それを口にする。
騎士の生活が苦しかったわけじゃないけれど、でもどこかお母様のためだと責任を感じていた。それが根本的な理由で根付いていて切り離せなかった。けれど、もうそんな枷は外す。
ずっと、ずっと、かわいい、かわいい女の子になりたかったのだ。ドレスを着て、くすくすとかわいく笑って、おしゃべりをして、女の子のお友達だってほしい。
「女の子になりたい……」
「ああ……ペチカ。それが貴様の願いなら、俺はそれを全力でかなえてやる」
殿下はそう言って私の唇を奪った。塩辛いキス。触れるものから、口を開けば、彼の舌が中に入ってくる。優しく私の舌をなめとって、口の中を優しくなでて、隅々まで愛するように、そして大量の唾液を流し込む。それは甘くて、蜂蜜のようだった。
「まって、離れないで……」
「名残惜しいが、貴様の体のほうが大切だ……やり直すと、大切にするといったが、またこんな形になるとはな」
と、殿下は苦々しい表情で言うと、返り血のついた服を脱ぎ去り、私の頬をするりと撫でた。
「いいか、ペチカ。今から貴様を抱くが」
「うん、うん……大丈夫。抱いて、抱いて、ゼイン。私を、貴方の女の子にして」
「……っ、ああ。大切にする」
再び触れるだけの優しいキスをして、強引に破かれた服を丁寧に脱がしていく。あの薬には媚薬に似た効果があるのか、殿下が触れるところがすべて熱かった。殿下は丁寧に脱がした後、大きなのどぼとけを上下させて、露出した私の胸を見る。さらしもすべてはがされ、二つの乳房が彼の前にさらけ出される。恥ずかしさもあったが、そういえば殿下は胸が好きだったなと思いだして、彼が凝視している理由が何となくわかって笑えて来てしまった。
「な、何を笑っている!」
「いえ、ゼインは本当に私の胸が好きだなと思って」
「く、そ、そうだ。貴様の胸が好きだ。いや、貴様が好きなんだ! ペチカ!」
「わかっています。その、どうか、触って」
精一杯のおねだりに殿下は答えてくれる。
恐る恐る殿下の両手が私の胸に伸び、それから優しく包み込むように殿下は私の胸を掴んだ。腫物を扱うように、羽が触れたように触るので少しくすぐったく身をよじれば「痛かったか?」と聞いてきたので、違いますとだけ言って笑った。
「……や、やわらかい」
「胸ですもん」
「お……胸」
「今、なんて言おうとしました?」
「いや、胸だ。やわらかい、この可愛く主張してきているこいつも……」
「ひぁっ」
「……っ、す、すまな、触ってはダメなところだったか?」
無知なのだろうか。胸の先端をぴんとはじかれ、私は思わずその刺激に耐えきれず甲高い声を上げる。それにぎょっと目をむく殿下だったが、たじたじと顔を赤くしながら「いい、ところなのか……」とつぶやくから怖い。無知なのか、それともわざとなのか。どちらにしても今の私にはたちが悪いのでやめてほしい。
「やめてください、ゼイン」
「しかし……」
「貴方が触れると、胸がいっぱいになるので、だめ、です」
と、これ以上おかしくなりたくなくて、なけなしの勇気を振り絞ってそう伝えれば、殿下の体がぴたりと止まってしまった。先ほどのお兄様との話を聞いていなかったわけではないけれど、でも、そんな胸への執着は――
「あああっ!?」
そう思っていれば、殿下がいきなり私の胸に吸い付き、もう片方の手で主張した先端をこねくり回し始めたので、私はバタバタと刺激を逃がすように足を動かすしかなかった。なんで、急に、胸なんて吸い始めたのだろうか。
「で、出ないですから。出ないですからあ!」
「出ないか、出るかが問題じゃない。くそ甘いな……」
「甘くありません、あ、あ、ああっ!」
ちゅうぅぅっと殿下の口に吸われていく胸。やわやわとも揉みしだくので、形が変形し、殿下の指が肌に食い込む。そういえば、殿下って女性経験なくて、私に強姦されたのが初めてなはずでは? と思考の隅に追いやった情報がちらりと顔を出したが、それは問題ではなかった。
ちゅう、じゅる、ちゅぽんとなめとり尖った舌で胸を蹂躙し、唇を離せば、私の胸は殿下の唾液でてかてかと光っていた。それが艶めかしくて、恥ずかしくて、う、ぅう、と口から恥ずかしさでいっぱいなハミング音が漏れる。だが、殿下は私が許容量を超えて息を切らしているのにもかかわらず、次へとその太く勇ましい指を私の秘所にあてた。すでにそこは濡れており、指でトントンとつつくだけで糸を引いている。ぐちゃぐちゃになった下着を剥ぎ取って殿下は私の足を左右に開かせた。
「もう痛くないのか?」
「痛くないって、あれから、何週間、経っていると……?」
「そうか。今日はしっかり解すぞ」
「そ、そんな、宣言しなくても……ゼインっ!」
ぬぷっと殿下は私の秘所に指を沈ませる。一本でも苦しいのに、私はこの間解さず挿入してしまったんだと自分の行動力の恐ろしさにまた火が出る。ゆっくりと殿下が中で動かすので、彼の指の形がはっきりとわかり、無意識に彼を締め付けてしまう。
「いいのか?」
「違います!」
「……」
「ゼイン、の、指、が入っているの、恥ずかしくて」
「貴様はこの間、もっと大胆なことをしただろう。大切にしたいからゆっくりやっているというのに。本当に、注文が多いな」
そういいながら、殿下はくいくいと指を動かし、ある一点を抑えると、私の腰は弓なりにそった。
「いいところにでもあたったか?」
ニヤリと笑う殿下が憎たらしく、私は彼の腕を力ない手でぺしぺし叩く。
だが、殿下の指の動きは止まることなく、くいくいと私のいいところを刺激し続けるので、私はまたあられもない声を上げてしまうのだった。
それから、どれくらいたったのか。何度もいかされた私はもう息も絶え絶えで、ただ殿下が中をかき乱していくのをぼんやりと見ていただけだった。
殿下は私の中から指を引き抜き、その指を舐めとると私に覆いかぶさる。とっくに、私のそこは解されていて、だらしなくぱくぱくと開閉を繰り返している。彼の指がまるで栓だったとでもいうように、たらたらと愛液が流れ出ている。
「そろそろ、いいか……?」
そう上ずった声で聞いて来られたら、ダメなんていえない。はぁ……と熱っぽく漏れると息も、紅潮した頬も。私だけを見て、どうしようもない殿下の顔も。胸がいっぱいになる。
もとよりそんなつもりもないのだろう。殿下は私の手を掴むと、自らの怒張に導いた。服の上からでもわかるほどに猛々しく主張するそれに、私の中はきゅんっと締まった。先ほどまでは、恥ずかしさでいっぱいだったが、もうこれ以上恥ずかしいことはないだろうと、私も受け入れる覚悟を決める。
「あつい」とつぶやけば、殿下がまた顔を赤くするから、私は思わず笑ってしまうのだった。
「ゼイン」
「……っ」
「きて……ください」
私がそういうと、殿下は私の両足を持ちあげる。そしてそのままで自分の怒張を私へと押し付けた。
「ぅっ……あ、あああっ」
「大丈夫だ、ペチカ……ゆっくり入れるから……くっ!」
ずぷんっと先端が私の中を押し広げながら侵入していく。あつい、苦しいけど、いやな苦しさじゃない。お腹の中は圧迫感でいっぱいだけれど、あったかくて涙がこぼれそうだった。それはきっとぽろぽろと流れる涙の理由は痛みだけじゃないからだ。
受け入れるのは二度目だけれど、もう何度も受け入れたようなそんな懐かしさと、熱に満たされる。
「痛く、ないか?」
「はい。ゼインが、いっぱい……いいから、早く動いてください!」
「なっ、貴様、そういうところだぞ。はっきりと言え!」
「ゼインこそ、早く動きたくて腰をがくがくしてるくせに!」
「こ、これはだな、貴様の中が、熱くて、締め付けてくるからで……くそっ、煽ったことを後悔するなよ」
そう言ったのもつかの間。殿下は我慢ならないとでもいったように、腰を振り始めた。初めはゆっくりと優しく動いていたが、どんどん激しさを増していって、ずちゅんずちゅんと水音が響く。
私はその刺激にただ声を上げるしかなくて、もう自分が何を言っているのかもわからないほどだった。殿下は私の足を掴んで、さらに開かせながら腰を動かすので、私のそこは殿下を離すまいと締め付ける。それが気持ちいいのか殿下は息を荒げながら私の中を蹂躙し、奥へ奥へと入り込む。先ほどとは違う、殿下に直々に作り変えられるような、押し広げられるような感覚に私は体を震わせ、彼にしがみつく。彼のたくましい胸筋に自分の貧弱な胸を押し当てて、背中に爪を立てる。上から、くっ、と痛そうなうめき声が聞こえたが、私の胸が当たったとたん、殿下のそれがさらに熱を帯びて大きく膨らむ。それから、ラストスパートと言わんばかりに、彼はさらに腰の動きを速めた。
「あっ、あ、ああっ」
「ペチカ……っ、出すぞ」
「ゼイン! も、もっと奥で! あついの、ください!」
「ああ……くれてやる……全部受け止めてくれ!」
殿下は私の足をさらに開かせながら腰を打ち付ける。そして私の最奥に熱いものが注がれるのを感じながら私は彼から手を放す。最後の一滴まで注ぎ込むように、ぐぐっと腰を動かすその微々たる刺激にも、あん、と声が漏れてしまい、私は恥ずかしさと疲労感からベッドに沈み込むようにして、意識を手放した。
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