アネモネの約束

兎束作哉

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第2章 一輪の紫アネモネ

case14 不吉な影

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「ミオミオそれ、懐かしい奴じゃん」
「懐かしいって、1年前のだろ」


 マフィアを追いかけ結局自殺という取り逃がしをしてしまったあの日から1年ほど経とうとしていた。生活は何も変わらない。だが、明智と神津との交流は続いており、今でも時々4人で遊びに行く。空の2度目のフライトは無事成功し満足そうな神津と、少し酔ってしまった明智は印象深かった。後は俺の趣味に付合わせてボルダリングやボーリング。兎に角色々いった。大の大人でも楽しめる、だがやってることは男子高校生と変わらないようなそんなくだらなくて面白いことを4人でやった。
 4人でいるときは終始皆笑顔で、たまに飛び出す憎まれ口も愚痴も罵倒も全部笑い流せた。中学と高校よりも今が楽しいと思えてしまうぐらいだった。出会うべくして出会えた4人みたいな……そんな自分で言っていると恥ずかしくなってくるようなことばかり頭に浮かんだ。

 だが、仕事もあるわけで、相変わらずの事件の頻度に身体に疲れは蓄積していた。

 リビングのソファで寝転がっていた俺は、1年前に神津から貰ったアクアリウムを眺めていた。造花と言っていたため、中に埋め込まれている百日草は腐る事もない。


「何だっけか、このひゃージニアだ?花言葉は」
「えー忘れたの?ハルハルが教えてくれたじゃん。ハルハルの家花屋だっていってたし、顔には似合わないけど」


と、ソファの空いたスペースに腰を下ろし空がいう。空もどこからかアクアリウムを取りだし眺めていた。


「花言葉は『不在の友を思う』、『変わらない心』、『別れた友への想い』。変わらない心ってオレ達みたいだね」
「いわれれば、そんな気もするな」


 気のない返事を返してしまったため、空は頬を膨らませた。こういう仕草は昔と変わらず可愛らしい。
 空は俺の肩に頭を預けてきた。甘えるように。
 俺はそんな空の頭に手を伸ばし撫でてやる。すると気持ち良さそうに目を細めていた。猫みてぇだと、思うと同時に成人男性2人で寝転ぶとソファからはみ出て落ちそうだと思った。と言うか、空は軽いが上に乗られるとくすぐったくてバランスが取れない。結局数秒もしないうちに俺達はソファから転がり落ち床に背中を強打した。
 痛さに悶絶していれば、腹を抱えて笑う空の声が聞えて来て、ムカついたから空の上に覆い被されば、今度は俺の下で暴れ始めた。それを暫く繰り返せば、馬鹿らしくなってお互い笑ってしまった。

 ひとしきり笑えば、空は思い出したかのように「あっ」と声を漏らす。


「そういえば、ハルハル達今日さ、ジュエリーランドじゃない?」
「んあ?あの、双馬市にあるテーマパークか?」


 コクリと、俺の言葉に空は頷いた。
 ジュエリーランドとは、俺達が住んでいる双馬市にあるテーマパークで、本物の宝石を売っている宝石店があるのが特徴的だ。そこでカップルが指輪を買えば永遠に結ばれるとか何とか……まあそんな話は信じないが、そういうロマンチックなことは神津は好きだろうなと想像する。だが、何でジュエリーランドに行っているのだろうと疑問に思った。

 それを察してか、空は諭すように言う。


「何でって顔してるけど、明日ユキユキの誕生日だよ?」
「うっわ、マジか……何も準備してねえ……」
「あ~そういう所だよ、ミオミオ」


と、ぴんっと額を弾かれる。地味に痛かった。

 神津の誕生日を忘れていたことにショックを隠せない。つい最近までは覚えていたはずなのにと、さすがに認知症を疑う年では無い為ただの物忘れであるだろうが。
 だが、ジュエリーランド方面に出発したのは昨日で1泊2日、今日帰ってくるとするとどうも辻褄が合わない。


「何でもね、ハルハルに依頼が入って……勝手に依頼の電話切られちゃったんだけど、ユキユキの誕生日9月25日に探偵社に伺うとか。だから、1日早めたんだって」
「その依頼人最低だな。切っちまえばいいのに」
「ハルハル律儀だからね~ほら、探偵って信頼が命っていうじゃん?」
「まーそうかもだけどさぁ」


 それでも、誕生日くらいは大切な人と2人きりで過ごしたいと思うものなのではないかと思った。明智も依頼が入ったことに腹を立てただろうが、神津なんてもっとだろう。明智が祝ってくれる距離にいるのに、祝って貰えないなど……いいや、祝っては貰えるが落ち着かないと思う。
 俺だったらそんな依頼とっくに断っている。そういう所は、明智も頑固で譲れないのだろう。


「ん~じゃあ、今頃ラブラブデート中か」
「だね」


と、2人で笑い合っていれば、ピコンとネットニュースがスマホの方に入る。いつもなら気にしない何でもないニュースのくせに、その時は気になってスマホをテーブルの上から取る。


「何のニュース?」


 顔を覗かせる空は相変わらず距離が近く、同じシャンプーの匂いのはずなのに、やけに甘く感じた。
 そんな空にいちいちドキドキしつつスマホを開けば、そこに載っていた記事は双馬市にあるテーマパークにて爆破が――――というものだった。


「…………は?」


 頭をトンカチで殴られるような、ギュッと心臓を捕まれるような衝撃的な感覚に陥る。 
 ばくばくと鳴る鼓動を抑えながら、俺は食い入る様に画面を見つる。スマホを握る手はガタガタと震えていた。


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