虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月

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14 聖女たちと森の中で

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 森の中で聖女たちの姿を目にする。魔狼の群れと戦っているようだ。
 いや、厳密にはまだ戦ってはないか。誰が先頭で戦うのかを譲り合っている状況だ。
 聖女様は後方に控えていて、その他の女子2人は何をやっているのか良く分からない。

 魔狼の数は…… 9体かな。
 あっ、ごたごたしている間に女子が1人噛まれた。ギャオが怒られてる。もめだした。
 もめている間に今度はギャオが噛まれた。シオエラルはうろたえて動きが止まった。聖女様激怒。皆の戦い方がいかにダメかを力説し始めている。
「たかが魔狼相手に何をやっているのよ、あんたたちっ! 少しぐらい数が多くたって気合で倒せるでしょう? さっさと突撃なさい!」
「エルリカッ、そうは言うけどよ、なんだか今までより1体1体も強いんだよ」
「いいからイケーー」
 
 さて、そんな彼らだったが1人1人の実力はそこまで悪くないようで、しかも装備やアイテムも上等で豊富そうだ。

 聖女さんチームは険悪な雰囲気になりながら、苦戦をしながらもなんとか戦いきったようだ。
 しかし、すぐにまた新しい魔狼の群れがきて戦いになった。さすがに危険な森だと言われるだけあって、魔物の密度は高いようだ。

「ハァハァハァ」「ヒィヒャァフウ」
 すでに満身創痍で息が上がっている。帰ったほうが良さそうだが。

「あら……? わぁ~、ねぇ、みんな!!」
 2度目の戦いが終わるや否や、聖女様は大きな声をあげていた。

「どうしたんだい? エルリカ? ずいぶんと嬉しそうだけど」
 シオエラルが爽やかスマイルを取り戻してそちらに駆け寄ると、残りのメンバーもそちらへ集まる。

「私ね、中位回復魔法ハイヒールを覚えたみたいなの!」
「「「 おおおお! 」」」
「う、うん、すごいよエルリカ。さすが聖女様!!」
「そ、そうだね!! 15歳でハイヒールまで覚えるなんて聞いたことないものね!」
「ヒャッハー 、すっげぇな。やっぱりエルリカは聖女様だぜ」

 ボロボロになりながらも、やんややんやと大きな声で騒ぎ始める彼ら。
 その凄まじいはしゃぎぶりに、俺はちょっぴり不安を覚える。
 なにせ、まだあちこちに魔物の気配があるのだ。

「エフィルア様、あの、ちょっと……」
 普段は呑気なトカマル君でさえ心配そうな顔をした。
 彼は俺よりも感覚が鋭い。この付近にいた魔物達が、こちらにいっせいに意識を向け始めるたのを感じたらしい。 

 どうしたものか。ほうっておいて逃げてしまうのが賢明な判断ではあるだろうが……

「おい、ちょっとお前ら危ないぞ。魔物が沢山こっちへ・」

 ついうっかり俺は聖女たちに声をかけていた。どうせ彼らは俺の手助けなんぞ求めていないのだろうが。

「ああん? なんだぁ? チッ! 闇野郎じゃねぇかよ」
「んんん? なに? 私たちの事を覗いてたのコイツ?」
「えっ? 危ないって言った? え? もしかして私達に偉そうに忠告してくれたってわけ?! 言われなくても分かってるわよそんな事!! 魔物の住む森なんだから魔物はいるわよ! 危ないに決まってるでしょう?! バカじゃないの?!」

 あまりの反応にビックリしてしまう俺。トカマル君もポカンとしている。
 忠告は無駄かもしれないとは思っていたが、予想をはるかに超えてブチキレル聖女様だった。御付のギャオ達も拍車をかけて追随する。

 森の奥には魔物の冷たく残忍な目が光り、その数を増やしていく。
 まあ、そんなわけで、少しきびしめの戦いが始まる事になった……

 これまでにも増して次々に集まって来る魔狼や角ウサギジャッカロープ。それから錯乱した豚の魔物 オーク も数体現れた。2本の足で歩き回り、手には棍棒。ゴリラを太らせたような巨体が襲い掛かってくる。
 迫りくる魔物達の様子を見て、俺のせいだとさらに喚き散らす聖女様たち。

「とにかく森の外へ逃げるぞ!」
 そう声をかけて俺とトカマル君も逃げ出した。森の外へ向けて。

 いっぽうの聖女さんチームは、まるきり反対の方向へ逃げ出した。
 あれ? そっちじゃないが?

「お前なんかと共闘できるかっ」 
 走り去る彼らの後姿。そんな声だけが聞こえてきていた。
 大丈夫かよと思っていると、大丈夫ではなかったようで、聖女様御一行は駆けて行った道をそのまま戻ってきた。

 しかし彼女らは森の奥に進んだ結果、さらに大量の魔物を呼び寄せて帰ってきたらしい。うしろに大量の魔物をズラズラと引き連れて戻って来たのだった。

「くそったれーーー、どうなってんだよ。ここまで魔物が多いってのはおかしいだろがよーー。なんだかやたら強えーしよーー」
「煩いのよ雑魚男。喋ってないでアンタ何とかしないさいよ。守るんでしょう私を!」

 聖女は隣にいたギャオを蹴り飛ばし、魔物の追いかけてくるほうに転がした。

「ムリムリムリ。無理だから。いや、これはムリムリムリ ムリムリムリ」
 

 俺はとりあえず、群れを成して飛びかかってくる数十匹の魔狼たちを必死で叩き落としていた。とても角ウサギ達までは手が回らない。
 角ウサギ達はスピードこそ速いが、突かれても大きな傷にはならないから無視することにした。

 結果、ツンツンに突っつかれる。痛いには痛いね。
 しかしこの程度なら耐え切れる。
 俺って頑丈だし、多少の傷を負ってもみるみる治っていくし。

 聖女達5人は悪戦苦闘しながらもなんとか森の外に向かって動けている。
 なんとかなるか? そう思い始めた矢先。
 
 視界の端に、森の奥からひときわ大きな影が迫って来ているのが見えた。
 森の浅い場所には出現しないはずの木の魔物、レッサートレントだった。
 しかも1体や2体という数ではない。

 おい、ヤル気出しすぎだぞ。多すぎるぞ。

 しかもな、オークもトレントも足速くない?
 なんでその巨体で足まで速いのだ。
 俺なんて、頑丈なだけで足は遅いのだから、そこらへんを少し考えて欲しいところだ。

「エフィルア様!」
「ああトカマル君。聖女たちのほうへ行っててくれ。俺は後ろから付いて行くから。これくらい余裕だから」

「もう、なにを言ってるんですかね。僕が最後尾で戦いますから、エフィルア様こそ先に行ってくださいよ、足遅いんですから。それに、僕もう強いんですからねっ」

 そんなかわいい事を言うトカマル君。素早い動きでオークの一団に向かってゆき、小剣で敵を切り刻んだ。しかし、その背後からも次々とレッサートレントは迫り来る。
 
 見上げるような巨木だ。 レッサー小型のという名称がついているくせに、その巨体は十分に巨大だ。
 太い木の根のような足をワシャワシャと動かして近寄ってくる。太い枝を腕のように振り回し、打ち付けて、周囲をまとめて破壊する。
 無数の枝が、魔狼も角兎もオークも巻き込みながらこちらに叩きつけられる。

 あっはー、これはちょっと避けられそうにないんですけど。当然のように直撃してしまう。はい、肋骨が逝ってしまった感触ありました。

 しかし、俺の身体は丈夫だった。思っていた以上に丈夫だった。
 踏ん張っている間に骨折も傷も癒えてゆく。
 もちろんいくら治りが早いとはいえ、痛いことは痛いのだけれどね。

 しかしあれだね、こんな状況で…… こうして繰り帰し強烈な攻撃をしのいでいるとっ、むしろっ、なんだかっ?! 次第に気分が高揚してきたな。

 逆境燃えしてきたね。 
 アドレナリンが出ちゃうと申しますか。
 こうなればもう、やってやろうじゃあないかよというような、そんな気分である。 おら、まとめてかかって来い。皆殺しだ。そんな感じである。
 
 そこからはもう伐採祭りだった。倒れて行く巨木、ぶちのめされる俺。
 俺も手ひどくやられたが、まだ死ぬほどではない。幸いな事にトカマル君はスピードが速いから、深刻なダメージは負っていないようだ。

 死闘は続き、徐々になぎ倒されていく巨木たち。豚声の阿鼻叫喚がプギィヒィィッと森の梢に木霊する。大混乱の中、魔狼も角兎も一緒に吹き飛ばされていく。


 トカマル君は主に狼&兎&豚をスピーディーに潰してまわってくれていて、俺はレッサートレントの対応に集中できていた。魔物たちは基本的に異種族同士では連携してこない。戦いを続けながら、そういった全体の動きも見えてくる。戦いは次第に楽になっていった。

 そうして森の外を目指しているうちに、気がつけば周囲は再び静けさを取り戻していた。

 レッサートレント×12
 オーク×18
 魔狼×53
 角兎ジャッカロープ×37

 大漁だな。気がつけば大収穫だった。
 必死だったので、倒した全ての魔物をインベントリに収納できたわけではないけれど、それでも凄い量だと思う。
 流石に疲れたけれどね。これは少しばかり無理をしてしまったかもしれない。

「ぅ~ 大丈夫ですかエフィルア様?」
 トカマル君が心配そうに俺の顔を覗き込む。
 俺の身体は、シューシューと煙と音を上げて傷を修復している最中だ。

 とりあえず森を出よう。
 流石に傷の治りも遅くなってきているし、疲れたし。妙に気分は高揚しているし。

「フィ~~。大変な目に会った」
「エフィルア様、傷がまだまだ残っちゃってますね。ほんとうに大丈夫ですか?」

 トカマル君は心配性だった。大丈夫大丈夫、俺は頑丈だから。
 もう森の切れ目はすぐそこ。
 明るい方へと歩いてゆき、俺達は無事に森の外へと辿り着く事に成功した。
 そして、そこには聖女さんチームが待っていた。

 彼女らも無事に逃げおおせたようだ。森を出てすぐの場所でへたり込んでいる。
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