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16 そして手にするのは、お野菜
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周囲には不思議なほど人の気配がなくなっていて、魔物一匹の気配すらも感じられない。
さきほどまで騒いでいた聖女たちの声も姿も、今は掻き消えている。
俺の近くにいるのはトカマル君だけ。
大地は紅く燃えている。ふいに、地面に巨大なえぐれが発生した。
深い穴は底も見えないほど何処までもえぐれ進む。そして何かが見えた。
門である。
それは、鬼と悪魔と異形の者達に包まれた大きな門扉だった。
その巨大な扉から、天を貫くような魔力の大柱が立ち昇った。
柱は次第に形を崩し、雨粒のような光の粒子を俺の頭上へと降らせた。すべての粒子が俺の身体を包み込み、身体の中へと消えていった。
全ての粒子を浴び終えた後、俺の身体からは傷も痛みもすっかり消えていた。ただ、自分の頭に手をやってみると、そこにはたいそう立派な角が生えていたし、脚は魔獣のような黒い毛皮に覆われていた。
「え? なにこれ?」
俺って何をしようとしてたのだっけか? たしか、少しばかり身体の再生に集中しようと思っただけ。そのはずだが。
『どうも~神々でーす』
困惑する俺に追い打ちをかけるような陽気な声が、大穴の下の方から聞こえてきた。女性の声だった。
声は、大穴の最深部にある巨大な扉の中から聞こえている。
すっかり開ききった扉の奥に、異形の怪物たちが蠢いている様子が見えた。一目見て、それが神話級の存在なのだと直感させられる。
中央にいるのは鬼の親分みたいな厳ついおじさんである。その後ろには巨大な龍。隣には凍てつくような霊気を垂れ流す美貌の巨人。先ほどの陽気な声はこの女性だ。
いや…… 誰だよこいつら。
『どうも~神々でーす』
美貌の巨人は再び軽い調子でそう言った。神々らしい。
彼女は雰囲気の重々しさを考慮しない珍妙な神のようだ。そして、
『おお、お主が魔神エフィルアか。まさか本当に存在するとはな』
巨龍はギウャラグラララと咆哮しながら笑っている。
『地下世界を統べる我ら三神より、異界の住人エフィルア殿へお詫びとご連絡を申し伝える。我らの司る仕事の都合で貴殿も巻き込んでしまったこと、まずはこれを謝ろう』
大鬼のおっさんは比較的まともな喋り方をしていた。
なにやら謝っているようだが、いまいち自体が飲み込めない。少しばかり大鬼の話を聞いてみる。
「ああ~、話せば長いがーー」
鬼のおじさんによれば、どうもこの世界に俺が来ることになったのは、彼らの仕事の都合によるものだったらしい。それを謝っているようだ。
彼らが司る世界管理業務の都合で俺は巻き込まれ、転移したという。しかもその転移の影響で俺は魔神化したらしい。ただし転移も魔神化も神々が意図していなかった偶然の事故だったという。
「しかしな、その偶然をよくよく調査してみると、貴殿という特異点を介することで、これまで上手くいかなかった世界管理業務に活気的な解決方法が見つかったのだ」
はい、それがこちらの地獄門。
冷気と美貌の女神は楽しそうにアノ巨大な門扉を指さした。
巨竜は笑っているばかり、大鬼さんが話を続ける。
「地界の3大神の力を時空渡りの異世界人に直結させることで、地界から地上へと繋がる門を生み出せることに気がついたのだ。これが大発見でな。これまで実現が不可能だった大事業が可能になった。これは神々だけの力では出来なかったのだ。これで世界の不具合の元を直接補修できるとして、地界側ではお祭り状態である」
嬉々として語り始める大鬼。
ちなみに、今の瞬間以前にも彼らは地獄門を開通させようと、俺に向かって超魔力を送り込もうとしていたようだ。が、俺の意志がそれを押さえ込んでいて成功しなかったそうだ。
ああ、まあ言われてみれば確かにそんな感覚は少しあったかな。
「いやはや、すまぬ。貴殿にとっては迷惑な話だろうが、しかし地下界から流れこんだ膨大な魔力は健康に害があるようなものではない。貴殿には超魔力が身につくという事以外に変化はないのだ。闇属性のほうは転移のときに自動的に付加されていたのだが、これも我らにはどうすることも出来ぬ。せめて出来るだけのサポートはしよう。それでも貴殿は人間からはかけ離れた存在になってしまうだろうが、これはもはや謝罪するほかにない」
「ふうむ…… 」
「まことに申し訳ない」
3柱の偉い神様たちは驚くほど低姿勢だった。地球文明の常識とはだいぶ違う感じがする。
なんだか恐縮してしまう。そもそも俺はそれほど気にしていないのに。
「まあまあ、それはこの際かまいませんよ。気にしてませんから」
「なんと、なんともそれは本当か」
「ええまあ、わりと楽しんでますし」
「おおこれは、なんという人間だろうか」
大鬼のおっさんは、そう言いながらも、奇妙なものでも眺めるかのような視線で俺を見た。なんだ、ちょっと失礼な感じがするな。気にしないであげたのに。
「まあ、いずれにせよ。そう言ってもらえるのは有難い。我らとしてはその力で何をしてくれという訳ではないのだ。自由に過ごしてくれていて構わない。我々は我々で、勝手にこちらの仕事を進めるだけだ。ああもちろん、こちらの世界で過ごすためのサポートはさせてもらう。そこにいる冥界ジュエルサラマンダーの幼生も大変に希少な存在でな、貴殿のサポートになればと思って地上に行ってもらったのだが、もちろんそれだけではない……」
大鬼おじさんは、ここで空に向けて合図を送った。
舞い降りてきたのは例のペンギンさんだった。この国の守護神獣で土地神であるペンギンに似た鳥だ。
ただし今まで見たよりも遥かに大きな姿。それはまるで鳳凰のように立派なペンギンさんの姿だった。
「エフィルアよ、我も土地神として出来る限りの事は協力しよう。ただし、人の世の事のすべてに我の干渉が届くわけでもない。こちらも問題は山積みでな」
ペンギンさんは胸を張って言い切った。
あまりあてにはならなそうな言い方だったが、それでもこの国の王家とは直結した関係があるようで、そのあたりは力をかしてくれるようだ。
『ではさらば、いずれまた会おうぞ』
そうして大鬼のおっさん達は消えていった。
どこへ消えたのやら俺には分からなかったが、まずは地上で活動するための力を溜めると言い残して行った。
真っ赤に染まっていた大地には緑の草花が戻りはじめる。
気がつけば周囲の景色はすっかり元通りに戻っていて、聖女たちが歩き去っていく後姿も見えていた。
その後姿に、ふと小さな影が掛かって見えた。
いや、ひとたび意識してそれを良く見てみれば、影は瞬く間に大きな姿を見せ、渦巻きはじめる。
渦は、魑魅魍魎の群れだ。百鬼夜行のように行列を成し、聖女達の背中を追いかけていったのだ。その様子に聖女たちは気がついていない。
「なあトカマル君、あれは何だろうね?」
俺はその姿を見送っていた。
「ええと…… 大量の怨念だと思います」
「怨念?」
「今さっき地獄門を開いたので、そのちょっとした影響ですね。ああでも、もとからかなり渦巻いてましたよ。聖女にも、この町にも」
「ほうっておいて大丈夫かね」
もちろん聖女の事はどうでも良いのだが、あんなものを引き連れて町に戻って大丈夫なのだろうか?
町にはロアさんや大屋さんや、ギルマスもいるのだし。
「今のところ、アレ自体は具現化もしてませんから大丈夫じゃないですかね。ただ、他にも影響が出るかもしれませんから注意は必要だと思います」
俺とトカマル君が話していると、1羽の小ペンギンが飛びよってきてクチバシを開く。
「あの似非聖女の一家というのはな、まさに我の守護するリナザリア王家の悩みの種にして、世界をゆがめている根本原因の1つでもあるのだ。しかし、それはまたいずれの話としよう」
モシャモシャ巨ペンギンは、そう言ってから空に羽ばたいた。
「この町の領主には我の分身の1つをすでに飛ばしてある。お主らは町にも普通に戻れるはずだ。ただし、人の姿に変化してから戻るようにな」
最後にそう言い残して遥か上空へと消えていった。
聖女たちが俺を町から追放するような話をしていたから、神獣さんは手をうっておいてくれたようだ。
「ありがとう神獣さん」
これで町には帰れるのだろう。10日分前払いした家賃も無駄にせずに済みそうだ。
いやまてよ? その前に1つ問題があったか。
今の俺の姿形である。角が生えていて、獣のようの脚。神獣さんも言っていたが、町に戻るにはこの姿をなんとかしておく必要がある。
なにせあの町の人達なんて俺が闇属性を持ってるというだけでも、あれだけ酷く警戒していたのだ。
どうにかならないものかと試行錯誤してみる俺。
すると…… そこそこ頑張れば角は引っ込む事が判明した。
足の毛もなくなった。集中すれば、もうほぼ人間になる。
ステータスの表示を確認してみると、
【種族】 人間(擬態) と表示されていた。
「あー、角があったほうが格好いいのに。もう引っ込めちゃうんですかエフィルア様」
頭の上に乗っていたトカマル君は、俺の角が引っ込んでしまって寂しそうにしていた。彼は前足で俺の髪の毛をより分けて、さらに頭をゲシゲシと掘って角を探そうとしている。
再び角をちょっとだけ生やしてやると大喜びである。またすぐに引っ込めてしまうと残念そうにする。
そんなこんなで身体の調整実験をしている俺だったが、それに慣れてきた頃、ふと、遠くの茂みが気になった。森と草原の境界線あたりだ…… これは何だ? あそこに何かいるぞ……? ハッ!?
こっ!!! これはぁっ ハッ ハァァ
もしや百合根なのでは? なぜかそんな気配を感じたのだ。
今日は少しばかり色々なことがありすぎたが、そう、そうなのだよ。そもそも本日最大の目標は百合根を手に入れる事だったのだ。
美味しいご飯を食べるのだ。
求めていた最高の食材(予想)が今、目の前にいる気がする。
俺はあらためて神経を集中させ、周囲の様子に気を配る…… 気を配る…… むむむむ、む?
ピコンッ と頭の中で音がしたような感覚があった。
なんだ? 急激に周りの様子が…… まるで手にとるように分かるようになったぞ?
森林境界の土の中に、俺の求めている魔物が姿を隠しているのがはっきりとつかめる。目で見えるわけでもなんでもないのだが、それを感じるのだ。球根があって、茎と葉があって、花にキバが生えている。
やはりいるな。あそこにはきっとミニデーモンリリーが潜んでいるに違いない。
今までに経験したことのないこの感覚。おそらくこれは周囲の魔力を感じているのではなかろうか? そんな気がする
ミニデーモンリリーだけではなく、半径100mくらいの距離にいる魔狼や角ウサギなどの魔力も感知できているようだった。
「よし行こうトカマル君。ついに見つけたぞっ」
さきほどまで騒いでいた聖女たちの声も姿も、今は掻き消えている。
俺の近くにいるのはトカマル君だけ。
大地は紅く燃えている。ふいに、地面に巨大なえぐれが発生した。
深い穴は底も見えないほど何処までもえぐれ進む。そして何かが見えた。
門である。
それは、鬼と悪魔と異形の者達に包まれた大きな門扉だった。
その巨大な扉から、天を貫くような魔力の大柱が立ち昇った。
柱は次第に形を崩し、雨粒のような光の粒子を俺の頭上へと降らせた。すべての粒子が俺の身体を包み込み、身体の中へと消えていった。
全ての粒子を浴び終えた後、俺の身体からは傷も痛みもすっかり消えていた。ただ、自分の頭に手をやってみると、そこにはたいそう立派な角が生えていたし、脚は魔獣のような黒い毛皮に覆われていた。
「え? なにこれ?」
俺って何をしようとしてたのだっけか? たしか、少しばかり身体の再生に集中しようと思っただけ。そのはずだが。
『どうも~神々でーす』
困惑する俺に追い打ちをかけるような陽気な声が、大穴の下の方から聞こえてきた。女性の声だった。
声は、大穴の最深部にある巨大な扉の中から聞こえている。
すっかり開ききった扉の奥に、異形の怪物たちが蠢いている様子が見えた。一目見て、それが神話級の存在なのだと直感させられる。
中央にいるのは鬼の親分みたいな厳ついおじさんである。その後ろには巨大な龍。隣には凍てつくような霊気を垂れ流す美貌の巨人。先ほどの陽気な声はこの女性だ。
いや…… 誰だよこいつら。
『どうも~神々でーす』
美貌の巨人は再び軽い調子でそう言った。神々らしい。
彼女は雰囲気の重々しさを考慮しない珍妙な神のようだ。そして、
『おお、お主が魔神エフィルアか。まさか本当に存在するとはな』
巨龍はギウャラグラララと咆哮しながら笑っている。
『地下世界を統べる我ら三神より、異界の住人エフィルア殿へお詫びとご連絡を申し伝える。我らの司る仕事の都合で貴殿も巻き込んでしまったこと、まずはこれを謝ろう』
大鬼のおっさんは比較的まともな喋り方をしていた。
なにやら謝っているようだが、いまいち自体が飲み込めない。少しばかり大鬼の話を聞いてみる。
「ああ~、話せば長いがーー」
鬼のおじさんによれば、どうもこの世界に俺が来ることになったのは、彼らの仕事の都合によるものだったらしい。それを謝っているようだ。
彼らが司る世界管理業務の都合で俺は巻き込まれ、転移したという。しかもその転移の影響で俺は魔神化したらしい。ただし転移も魔神化も神々が意図していなかった偶然の事故だったという。
「しかしな、その偶然をよくよく調査してみると、貴殿という特異点を介することで、これまで上手くいかなかった世界管理業務に活気的な解決方法が見つかったのだ」
はい、それがこちらの地獄門。
冷気と美貌の女神は楽しそうにアノ巨大な門扉を指さした。
巨竜は笑っているばかり、大鬼さんが話を続ける。
「地界の3大神の力を時空渡りの異世界人に直結させることで、地界から地上へと繋がる門を生み出せることに気がついたのだ。これが大発見でな。これまで実現が不可能だった大事業が可能になった。これは神々だけの力では出来なかったのだ。これで世界の不具合の元を直接補修できるとして、地界側ではお祭り状態である」
嬉々として語り始める大鬼。
ちなみに、今の瞬間以前にも彼らは地獄門を開通させようと、俺に向かって超魔力を送り込もうとしていたようだ。が、俺の意志がそれを押さえ込んでいて成功しなかったそうだ。
ああ、まあ言われてみれば確かにそんな感覚は少しあったかな。
「いやはや、すまぬ。貴殿にとっては迷惑な話だろうが、しかし地下界から流れこんだ膨大な魔力は健康に害があるようなものではない。貴殿には超魔力が身につくという事以外に変化はないのだ。闇属性のほうは転移のときに自動的に付加されていたのだが、これも我らにはどうすることも出来ぬ。せめて出来るだけのサポートはしよう。それでも貴殿は人間からはかけ離れた存在になってしまうだろうが、これはもはや謝罪するほかにない」
「ふうむ…… 」
「まことに申し訳ない」
3柱の偉い神様たちは驚くほど低姿勢だった。地球文明の常識とはだいぶ違う感じがする。
なんだか恐縮してしまう。そもそも俺はそれほど気にしていないのに。
「まあまあ、それはこの際かまいませんよ。気にしてませんから」
「なんと、なんともそれは本当か」
「ええまあ、わりと楽しんでますし」
「おおこれは、なんという人間だろうか」
大鬼のおっさんは、そう言いながらも、奇妙なものでも眺めるかのような視線で俺を見た。なんだ、ちょっと失礼な感じがするな。気にしないであげたのに。
「まあ、いずれにせよ。そう言ってもらえるのは有難い。我らとしてはその力で何をしてくれという訳ではないのだ。自由に過ごしてくれていて構わない。我々は我々で、勝手にこちらの仕事を進めるだけだ。ああもちろん、こちらの世界で過ごすためのサポートはさせてもらう。そこにいる冥界ジュエルサラマンダーの幼生も大変に希少な存在でな、貴殿のサポートになればと思って地上に行ってもらったのだが、もちろんそれだけではない……」
大鬼おじさんは、ここで空に向けて合図を送った。
舞い降りてきたのは例のペンギンさんだった。この国の守護神獣で土地神であるペンギンに似た鳥だ。
ただし今まで見たよりも遥かに大きな姿。それはまるで鳳凰のように立派なペンギンさんの姿だった。
「エフィルアよ、我も土地神として出来る限りの事は協力しよう。ただし、人の世の事のすべてに我の干渉が届くわけでもない。こちらも問題は山積みでな」
ペンギンさんは胸を張って言い切った。
あまりあてにはならなそうな言い方だったが、それでもこの国の王家とは直結した関係があるようで、そのあたりは力をかしてくれるようだ。
『ではさらば、いずれまた会おうぞ』
そうして大鬼のおっさん達は消えていった。
どこへ消えたのやら俺には分からなかったが、まずは地上で活動するための力を溜めると言い残して行った。
真っ赤に染まっていた大地には緑の草花が戻りはじめる。
気がつけば周囲の景色はすっかり元通りに戻っていて、聖女たちが歩き去っていく後姿も見えていた。
その後姿に、ふと小さな影が掛かって見えた。
いや、ひとたび意識してそれを良く見てみれば、影は瞬く間に大きな姿を見せ、渦巻きはじめる。
渦は、魑魅魍魎の群れだ。百鬼夜行のように行列を成し、聖女達の背中を追いかけていったのだ。その様子に聖女たちは気がついていない。
「なあトカマル君、あれは何だろうね?」
俺はその姿を見送っていた。
「ええと…… 大量の怨念だと思います」
「怨念?」
「今さっき地獄門を開いたので、そのちょっとした影響ですね。ああでも、もとからかなり渦巻いてましたよ。聖女にも、この町にも」
「ほうっておいて大丈夫かね」
もちろん聖女の事はどうでも良いのだが、あんなものを引き連れて町に戻って大丈夫なのだろうか?
町にはロアさんや大屋さんや、ギルマスもいるのだし。
「今のところ、アレ自体は具現化もしてませんから大丈夫じゃないですかね。ただ、他にも影響が出るかもしれませんから注意は必要だと思います」
俺とトカマル君が話していると、1羽の小ペンギンが飛びよってきてクチバシを開く。
「あの似非聖女の一家というのはな、まさに我の守護するリナザリア王家の悩みの種にして、世界をゆがめている根本原因の1つでもあるのだ。しかし、それはまたいずれの話としよう」
モシャモシャ巨ペンギンは、そう言ってから空に羽ばたいた。
「この町の領主には我の分身の1つをすでに飛ばしてある。お主らは町にも普通に戻れるはずだ。ただし、人の姿に変化してから戻るようにな」
最後にそう言い残して遥か上空へと消えていった。
聖女たちが俺を町から追放するような話をしていたから、神獣さんは手をうっておいてくれたようだ。
「ありがとう神獣さん」
これで町には帰れるのだろう。10日分前払いした家賃も無駄にせずに済みそうだ。
いやまてよ? その前に1つ問題があったか。
今の俺の姿形である。角が生えていて、獣のようの脚。神獣さんも言っていたが、町に戻るにはこの姿をなんとかしておく必要がある。
なにせあの町の人達なんて俺が闇属性を持ってるというだけでも、あれだけ酷く警戒していたのだ。
どうにかならないものかと試行錯誤してみる俺。
すると…… そこそこ頑張れば角は引っ込む事が判明した。
足の毛もなくなった。集中すれば、もうほぼ人間になる。
ステータスの表示を確認してみると、
【種族】 人間(擬態) と表示されていた。
「あー、角があったほうが格好いいのに。もう引っ込めちゃうんですかエフィルア様」
頭の上に乗っていたトカマル君は、俺の角が引っ込んでしまって寂しそうにしていた。彼は前足で俺の髪の毛をより分けて、さらに頭をゲシゲシと掘って角を探そうとしている。
再び角をちょっとだけ生やしてやると大喜びである。またすぐに引っ込めてしまうと残念そうにする。
そんなこんなで身体の調整実験をしている俺だったが、それに慣れてきた頃、ふと、遠くの茂みが気になった。森と草原の境界線あたりだ…… これは何だ? あそこに何かいるぞ……? ハッ!?
こっ!!! これはぁっ ハッ ハァァ
もしや百合根なのでは? なぜかそんな気配を感じたのだ。
今日は少しばかり色々なことがありすぎたが、そう、そうなのだよ。そもそも本日最大の目標は百合根を手に入れる事だったのだ。
美味しいご飯を食べるのだ。
求めていた最高の食材(予想)が今、目の前にいる気がする。
俺はあらためて神経を集中させ、周囲の様子に気を配る…… 気を配る…… むむむむ、む?
ピコンッ と頭の中で音がしたような感覚があった。
なんだ? 急激に周りの様子が…… まるで手にとるように分かるようになったぞ?
森林境界の土の中に、俺の求めている魔物が姿を隠しているのがはっきりとつかめる。目で見えるわけでもなんでもないのだが、それを感じるのだ。球根があって、茎と葉があって、花にキバが生えている。
やはりいるな。あそこにはきっとミニデーモンリリーが潜んでいるに違いない。
今までに経験したことのないこの感覚。おそらくこれは周囲の魔力を感じているのではなかろうか? そんな気がする
ミニデーモンリリーだけではなく、半径100mくらいの距離にいる魔狼や角ウサギなどの魔力も感知できているようだった。
「よし行こうトカマル君。ついに見つけたぞっ」
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