虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月

文字の大きさ
32 / 61

32 暇すぎて合成してしまう

しおりを挟む

「皆さんまだ余裕はあると思いますが、一度ここで小休止にするべきだと思います。ここから先の魔物は様子が少し違うんですよ」

 ロアさんの忠告に従ってギルマスが食料をマジックバッグから取り出す。
 このカバンは体積や質量を大幅に減らす魔法がかかっている魔導具で、超高級品である。日本の感覚でいえば大型トラック1台分くらいの値段だろうか。いや、それよりも高いかもしれない。

 俺がちょっとした収納魔法を使えることはすでに教えてあるが、ギルドマスターという責任ある職に就くダウィシエさんとしては、必要な荷物は自分で持っておきたいらしい。
 
 彼女は常にこのカバンの中に遠征用の道具も準備してあって、何かあればこれだけを持ってすぐに飛び出せるようにしてある。俺達がこれほど早くダンジョンに潜れた理由でもある。

 干し肉と肉パンティーギがマジックバッグから取り出される。
 さらにコップも出てきて、そこに【ウォーター】の魔法で出した水を注いで食事を始める。
 流石にレジャーシートや折りたたみチェアーなんかは出てこなかった。


「なあエフィルア。さきほどの肉を私にも少し食べさせてはくれないか?」
 自分で用意してきた干し肉をムシャムシャバリバリ食べながら、ダウィシエさんは言った。ステータス上昇効果に興味があるようだ。

「普通はまず手に入らん代物だよ。王侯貴族か、あるいは真正英雄か賢者でもなければな」

 ずいぶんと熱心に求めてくるので少し渡してみる。まずはオーク肉からだ。
 食べてみてもらうと、1食目はトカマル君と同じように効果が出た。
 HP+6 防御力+5  HP自然回復+5% 

 ただし、彼女は元のステータス値が高いから、この程度の上昇だとあまり意味が無い。HPの自然回復についてだけは、%で上昇するから効果的だろう。

 そしてさらに食べ進める彼女だったが、3段階目を始めようとしたところでピタリと手が止まった。

「やはり、ここまでだな。いくつも効果を重ねるのは難しそうだ」

 ダウィシエさんは、これ以上食べ過ぎると魔素中毒になると自分で判断した。

「しかし…… これだけでも十分にとんでもない効果なのだがな…… 分かっているのかエフィルアよ?」
「ええと、まあ、なんとなくは」

 俺も町で売っているアイテムについては一通り調べてあるが、今のところステータスを上昇させるような食べ物というのは見ていない。

 仲間のステータスや武具を強化するような魔法ならば存在する。ちなみに聖属性の魔法であり、聖女様が得意としているそうだ。それなりに希少なものでもある。

「特にこのオークのブースト肉だがな。HPの自動回復効果は絶大だ。こんなチートアイテムがまさか普通のオーク肉から作れるとは信じられん…… なあエフィルアよ。これをギルドに卸してもらうわけにはいかないか? 多くの冒険者を助ける事にもなる」

「まあべつに良いですけれど」
「ほっ、ほんとうか!」

 ダウィシエさんの話しぶりは少しばかり大げさなように思えるが、俺としては全然問題は無い。オーク肉なんて、本当にいくらでも獲れるしな。
 百合根のほうは譲ってくれと言われてもお断りである。そちらは普通に食材として貴重なので。
 ギルマスとしてもミニデーモンリリーは生息数が少ないの事を分かっているから、それを無理に譲ってほしいとは言ってこなかった。

 そんな感じのお昼休憩。

「それにしても3人とも余裕ありすぎではないか? 特にエフィルア達はダンジョン探索は初めてなのだろう?」
「そうですね。でもまあ地上とそんなに変わりませんよ」 

 確かに初めてだが、しかし苦痛というほどでもない。
 むしろ深く潜るにつれて快適になってきている気すらする。
 もともと地上での生活水準もかなり低いし、そのせいかもしれない。

 魔物との戦いも俺はやっていないし、探索はロアさんの能力で事足りる。俺なんてヒマなものである。ただただ魔石を拾いながらついて行くだけだ。
 
 そう、俺はヒマついでに魔物のスキルを観察しながら歩いていたほどだ。【魔導視】を発動させながらの観察。解析と言っても良いかもしれない。

 見ているだけで魔法の成り立ちややり方が何となく分かってしまうわけで、これが結構楽しいのだ。
 練習する時間までもが十分にあったから、いつのまにか幾つかの新しいスキルを習得している。

 ワイトの使っていた【エナジードレイン】もその1つ。
 敵の生気を吸い取り、自分の体力や傷を回復させるというスキルだ。射程がかなり短いのが弱点だが、普通の回復魔法を受け付けない体質の俺には心強いスキルだ。

 しかもこれは闇属性の魔法だったようで、俺には相性が良い。良くなじんで使いやすい。威力の調整も楽に出来る。

 ウィスプからは【鬼火】をゲットした。
 火と闇の2属性を持った攻撃魔法で、これまた俺には相性が良い。
 精神と肉体の両方を焼き焦がす火の玉を生み出し、一定確立で敵を恐慌状態に落とし込むという効果がある。

 ついでに、この2つの術を融合させる魔法実験をしてみようかと思う。
 なんとなく思い立ったのだ。この2つを解析したり練習したりしている間にな。
 それだけ俺がダンジョン内で暇をもてあましていたという事なのかもしれない。

 さてそれでは…… 鬼火を発動させるための魔法的な回路のようなものに手を触れてみる。ふむ、今度はエナジードレイン。ふむふむ。ピコンッ ここでいつもの感触が湧き上がってきた。

【直接魔導操作 __闇__#】 魔素や魔法構造そのものを直接操る。

 いままでグレイアウト状態で使えなかったこのスキルが有効化されていた。
 いまいち使い方が分からずに放置していたこのスキルだが、こういうことだったらしい。ようするに、魔法の構造を直接いじって改造したり、合成したり。
 なかなかに楽しそうな逸品である。

 ピコピコンッ そして当然もう1つの新スキルも登場。
 合成魔法【鬼火ドレイン】である。
 効果は単純で、精神攻撃+炎ダメージ+生気吸収。まるで悪魔の所業のような術だが、ただしそれぞれの威力は1/3ずつになる。

 使い道があるのかどうかは分からない。

 そんな暇な道中。ダウィシエさんからもスキルを1つ解析した。
 【遠薙ぎ】という技で、武器による斬撃を遠くまで飛ばすというものだ。

 もちろんロアさんの探知スキルも解析してはいるが、やはりこれは習得には至らなかった。構造は分かるのだが、これはたぶん俺には無理なのだ。そもそもの身体のつくりが違うように思う。

 

「それにしてもこのダンジョン、かなりの深さですね」
 
 ロアさんは遥かに下へ続く断崖を覗き込んでいた。生ぬるい風が吹きあがり、俺達の髪を揺らしていった。
 不思議と、心地の良い風だった。

 これが瘴気というものらしく、アンデッドやら鬼やら悪魔やら、その手の輩が好む風だという。

 その風にのって、昨日町にも現れた不気味な模様の蝶が数匹舞い上がる。

 はねに描かれた模様の中の瞳は、今日もギョロギョロと何かを探すように動き、そして風に乗って何処かに飛んでいってしまった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...