虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月

文字の大きさ
48 / 61

48 お引越し作戦

しおりを挟む
 
「それでは。城は地上に上げて、その下へと坑道街をつなげます。それから人間の町は邪魔なので、エフィルア城建立の祝いに壊滅させましょう。魂は私が全て有効活用させていただいてよろしいで・」

「ダフネさん。あの町には少し知り合いもいるので壊滅は無しだといったはずです。それと、城の名前に俺の名を無断使用しないようにお願いします」

 俺たちは古城の上層にある玉座の間で、地下空間の再構築について打ち合わせを進めている。


「はっ、分かりました。では町に直撃はしないようにギリギリなんとか避けましょう。考えてみれば、確かに城には城下町があるべきでしょう。ならば今は生かしておいて、いずれ全ての住人はアンデッドに変えるという方向で進めておきます」

「それも進めないで」
 俺はダフネさんの恐るべき計画をすんでのところで阻止する。

「はっはっは、エフィルア様、今のは死霊王リッチージョークですよ。はっはっは」
 笑う地獄の死霊王。
 しかし本気と冗談の境目が全く分からない。
 異文化コミュニケーションがはなはだしすぎてよく分からない。

 いっぽう、じょいぽん夫妻は淡々と希望を述べていく。

「この地竜の巣になっている場所と、それからアースクラーケンの巣、霧の魔物のいたダンジョン、どこも面白い鉱物や魔石、素材が採集出来そうに思われます。可能であればそちらもアクセスのしやすい場所に配置していただければ」


 当然のことながら、夫妻の顔は真剣そのもの。

 もともと彼らが住んでいた場所は、ここからは随分と離れているようで、簡単に帰れるものでもないらしい。しかし元来、豊かな資源を求めて定期的に居住地を替えていくスタイルで生活しているそうで、こんな場所でも生きていけるらしい。

 コボルト族はけして強い生き物ではない。しかしどんな場所でも自分たちの技で快適な住処に仕立て上げてしまうことが出来る頼もしい生き物でもあるようだ。


 そんなこんなで話が決まる。一同起立。俺たちは引越し作戦を開始する。
 聖女神殿の破壊担当はトカマル君&ロアさん。そして大鬼の天地さんである。

 向こうでの破壊活動が完了すれば地下空間の崩壊がはじまる。それにあわせて俺とダフネさんで上手いこと引越しを進める作戦だ。

 もっとも、俺がやるのはただただ魔力を提供することと、地獄門を開いて地獄からの地獄パワーを導いてやることだけ。
 技術的な細かい部分は全てダフネさんがやるのだから、俺は気楽なものである。

 彼女はもしも何かがあったときのための対策まで考えてやってくれているし、あとは実効あるのみだな。

 トカマル君達に実行の合図を送ってくれたのはコボルト戦士団。彼らを見送ってからしばらくして、崩壊はすぐに始まった。どうやら上手くやってくれたようだ。
 いっぽう引越し担当の俺達。古城は激しい震動を伴いながら上昇を始めた。

「亡者どもよ活目せよ! これより、死霊を統べる古の神エフィルア様が世界を制する時である!」

 ダフネさんは妙にたかぶった様子で気勢を上げていた。彼女も妙な人柄である。わりと冷静な出来る女ふうのときと、やたらクレイジーなときがある。
 それにしても、周囲に誰もいないとはいえ妙なことを口走るのはやめてほしい。誰が死霊を統べる王だ。また妙なリッチ―ジョークをこの人は。
 
 と思っていると、どこか後ろの方で咆哮がとどろくのが聞こえた。

「「「 GROOOOOOO 」」」

 それは非常におどろおどろしい咆哮だった。
 声の主は城の中にいたスパルトイ達や、その他良く分からない存在たち。

 実はダフネさんが人手が必要だと言うので、俺の魔力を使用してのアンデッド使役を許可したのだが、あんなふうに唐突に大声をだされると少し驚く。

「大声を出すときは事前にいってくださいね。ビックリしますから」

 そんなふうに沢山のアンデッドまでも城にのせ、俺達は地上に昇ってゆく。
 地下でも同時に大変動が起こっているが、安全確保は十分な様子だ。

 外側では轟音が響いているが、内部空間は安定したまま。
 境界面では大地がえぐれ、きしみ、震撼しているのが分かる。そして、

「エフィルア様、間もなくですので」
 ほぼ振動が収まってきたという頃合で、ダフネさんが動き始めた。

 玉座の間からバルコニーに踏み出す。
 そしてそこに見えるのは、久しぶりの地上の風景だった。
 眼下に広がるのは、いつもの町とその周辺。

 俺が潜り込んで行ったあのダンジョンの跡地から城が生えていること以外は、何一つ変わらない景色。




「こうして見ると、随分とデカイ城だったんだな」
 俺は呟く。
 中から見て回っているときよりも、その雄大さを感じさせられた。

 妙に眩しく感じる太陽のもと、俺は地上の景色に目を向ける。
 町の中で武装した集団が集まっているのが見えた。

「そりゃあそうだよな」
 なにせ自分の家の横に、突然異様な雰囲気の物々しい城がそびえ立ったのだ。傍から見たら大事件である。

 むう、大丈夫だろうか。天地のおっさんはこの国の守護神獣 ペンギンさん に話は通してあると言っていたが…… 

 お、来た来た。良かった。
 巨ペンギンが太陽を背負って颯爽と飛来してきた。城の周囲を飛びまわり、それから俺達の居るバルコニーへとやってくる。

「エフィルアよ、これはまた随分と大事だな。しかし、たしかに我の望みどおりでもある。地中にあった不純物は取り除かれ、禁術の神殿も破壊された。これで我の力は再びこの地に届くようになるだろう。にしても、やはりこの城は邪魔だがな、大きすぎるがな」

 ペンギンさんは微妙な表情をしていた。天地のおっさんからの事前連絡は滞りなく成されていたようだが、城を実際目にすると思っていたよりも大規模だったらしい。

「まあいい。あとはなんとかする。それよりも今はアヤツらの処遇だろう。下で地獄の主神とお主の仲間が待っていたぞ」

 ペンギンさんが指した翼の先。聖女神殿から大勢の人たちがわらわらと外に飛び出してきている様子が見えた。

 あまり待たせても良くないので、俺はバルコニーから飛び降りて半壊した聖女神殿に真上から突っ込んだ。

 降り立った神殿の一室。そこには1人の男と1人の少女がいる。
 2人は何かを喚き散らし騒いでいる。まったくいつものように騒々しい。聖女エルリカとその親父、神官長エグアスだ。
 
 2人は俺の角を見て、やはり悪魔だったとか、衛兵さっさと来いだとか、殺してやるだとか騒ぎ立てる。
 いつも通りの彼らだった。
 ただ少し違うのは、父親の方。その皮膚はたるみ、以前のような壮健さは見えない。杖をつきフラフラとして、立っているのも大変そうな様子だった。

「エルリカ。神殿深部に何かがあったようだ。生かしておいたアノ女をにえにして術を再強化するぞ」

 2人は手下の神官たちを地上において、壊れかけた地下神殿へと降りていく。

 神殿の外には、どこかから現れた奇妙で美しい模様の蝶たちが舞い踊っていた。
 獄彩色のハネにはギョロリと目玉の模様。

 ミツケタミツケタミツケタ コノ場所ダ ミツケタミツケタ コノ人間ダ。
 蝶は舞い踊り、獣は来たる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...