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48 お引越し作戦
しおりを挟む「それでは。城は地上に上げて、その下へと坑道街をつなげます。それから人間の町は邪魔なので、エフィルア城建立の祝いに壊滅させましょう。魂は私が全て有効活用させていただいてよろしいで・」
「ダフネさん。あの町には少し知り合いもいるので壊滅は無しだといったはずです。それと、城の名前に俺の名を無断使用しないようにお願いします」
俺たちは古城の上層にある玉座の間で、地下空間の再構築について打ち合わせを進めている。
「はっ、分かりました。では町に直撃はしないようにギリギリなんとか避けましょう。考えてみれば、確かに城には城下町があるべきでしょう。ならば今は生かしておいて、いずれ全ての住人はアンデッドに変えるという方向で進めておきます」
「それも進めないで」
俺はダフネさんの恐るべき計画をすんでのところで阻止する。
「はっはっは、エフィルア様、今のは死霊王ジョークですよ。はっはっは」
笑う地獄の死霊王。
しかし本気と冗談の境目が全く分からない。
異文化コミュニケーションが甚だしすぎてよく分からない。
いっぽう、じょいぽん夫妻は淡々と希望を述べていく。
「この地竜の巣になっている場所と、それからアースクラーケンの巣、霧の魔物のいたダンジョン、どこも面白い鉱物や魔石、素材が採集出来そうに思われます。可能であればそちらもアクセスのしやすい場所に配置していただければ」
当然のことながら、夫妻の顔は真剣そのもの。
もともと彼らが住んでいた場所は、ここからは随分と離れているようで、簡単に帰れるものでもないらしい。しかし元来、豊かな資源を求めて定期的に居住地を替えていくスタイルで生活しているそうで、こんな場所でも生きていけるらしい。
コボルト族はけして強い生き物ではない。しかしどんな場所でも自分たちの技で快適な住処に仕立て上げてしまうことが出来る頼もしい生き物でもあるようだ。
そんなこんなで話が決まる。一同起立。俺たちは引越し作戦を開始する。
聖女神殿の破壊担当はトカマル君&ロアさん。そして大鬼の天地さんである。
向こうでの破壊活動が完了すれば地下空間の崩壊がはじまる。それにあわせて俺とダフネさんで上手いこと引越しを進める作戦だ。
もっとも、俺がやるのはただただ魔力を提供することと、地獄門を開いて地獄からの地獄パワーを導いてやることだけ。
技術的な細かい部分は全てダフネさんがやるのだから、俺は気楽なものである。
彼女はもしも何かがあったときのための対策まで考えてやってくれているし、あとは実効あるのみだな。
トカマル君達に実行の合図を送ってくれたのはコボルト戦士団。彼らを見送ってからしばらくして、崩壊はすぐに始まった。どうやら上手くやってくれたようだ。
いっぽう引越し担当の俺達。古城は激しい震動を伴いながら上昇を始めた。
「亡者どもよ活目せよ! これより、死霊を統べる古の神エフィルア様が世界を制する時である!」
ダフネさんは妙に昂ぶった様子で気勢を上げていた。彼女も妙な人柄である。わりと冷静な出来る女ふうのときと、やたらクレイジーなときがある。
それにしても、周囲に誰もいないとはいえ妙なことを口走るのはやめてほしい。誰が死霊を統べる王だ。また妙なリッチ―ジョークをこの人は。
と思っていると、どこか後ろの方で咆哮が轟くのが聞こえた。
「「「 GROOOOOOO 」」」
それは非常におどろおどろしい咆哮だった。
声の主は城の中にいたスパルトイ達や、その他良く分からない存在たち。
実はダフネさんが人手が必要だと言うので、俺の魔力を使用してのアンデッド使役を許可したのだが、あんなふうに唐突に大声をだされると少し驚く。
「大声を出すときは事前にいってくださいね。ビックリしますから」
そんなふうに沢山のアンデッドまでも城にのせ、俺達は地上に昇ってゆく。
地下でも同時に大変動が起こっているが、安全確保は十分な様子だ。
外側では轟音が響いているが、内部空間は安定したまま。
境界面では大地が抉れ、軋み、震撼しているのが分かる。そして、
「エフィルア様、間もなくですので」
ほぼ振動が収まってきたという頃合で、ダフネさんが動き始めた。
玉座の間からバルコニーに踏み出す。
そしてそこに見えるのは、久しぶりの地上の風景だった。
眼下に広がるのは、いつもの町とその周辺。
俺が潜り込んで行ったあのダンジョンの跡地から城が生えていること以外は、何一つ変わらない景色。
「こうして見ると、随分とデカイ城だったんだな」
俺は呟く。
中から見て回っているときよりも、その雄大さを感じさせられた。
妙に眩しく感じる太陽のもと、俺は地上の景色に目を向ける。
町の中で武装した集団が集まっているのが見えた。
「そりゃあそうだよな」
なにせ自分の家の横に、突然異様な雰囲気の物々しい城が聳え立ったのだ。傍から見たら大事件である。
むう、大丈夫だろうか。天地のおっさんはこの国の守護神獣に話は通してあると言っていたが……
お、来た来た。良かった。
巨ペンギンが太陽を背負って颯爽と飛来してきた。城の周囲を飛びまわり、それから俺達の居るバルコニーへとやってくる。
「エフィルアよ、これはまた随分と大事だな。しかし、たしかに我の望みどおりでもある。地中にあった不純物は取り除かれ、禁術の神殿も破壊された。これで我の力は再びこの地に届くようになるだろう。にしても、やはりこの城は邪魔だがな、大きすぎるがな」
ペンギンさんは微妙な表情をしていた。天地のおっさんからの事前連絡は滞りなく成されていたようだが、城を実際目にすると思っていたよりも大規模だったらしい。
「まあいい。あとはなんとかする。それよりも今はアヤツらの処遇だろう。下で地獄の主神とお主の仲間が待っていたぞ」
ペンギンさんが指した翼の先。聖女神殿から大勢の人たちがわらわらと外に飛び出してきている様子が見えた。
あまり待たせても良くないので、俺はバルコニーから飛び降りて半壊した聖女神殿に真上から突っ込んだ。
降り立った神殿の一室。そこには1人の男と1人の少女がいる。
2人は何かを喚き散らし騒いでいる。まったくいつものように騒々しい。聖女エルリカとその親父、神官長エグアスだ。
2人は俺の角を見て、やはり悪魔だったとか、衛兵さっさと来いだとか、殺してやるだとか騒ぎ立てる。
いつも通りの彼らだった。
ただ少し違うのは、父親の方。その皮膚はたるみ、以前のような壮健さは見えない。杖をつきフラフラとして、立っているのも大変そうな様子だった。
「エルリカ。神殿深部に何かがあったようだ。生かしておいたアノ女を贄にして術を再強化するぞ」
2人は手下の神官たちを地上において、壊れかけた地下神殿へと降りていく。
神殿の外には、どこかから現れた奇妙で美しい模様の蝶たちが舞い踊っていた。
獄彩色の翅にはギョロリと目玉の模様。
ミツケタミツケタミツケタ コノ場所ダ ミツケタミツケタ コノ人間ダ。
蝶は舞い踊り、獣は来たる。
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