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2.再開期
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しおりを挟む悲しい話とはこういうことなのだろう。
人間というものは、なんと醜く愚かなのだろう。
「優しい者達が配ってくれたあの紙のお陰で少しずつ信徒が増えランル様もお喜びだ。更なる贄は聖女が良い」
生まれた時からこのランブル聖国に居るものは、王国が信じる神とは違うランルを信仰しランルの教えに何一つとして疑問や違和感を覚えることはない。
どの国でも世界単位で考えたとしてもそうだろう、自身が信じた神を疑うことなどあってはならないことで、疑いを持った瞬間にその信仰心は偽りと化すのだから。
アウスの暴走は足が早い者達にすぐに通達が行く。
龍の姿で空を飛び王国へと向かっていったと聞けば、遂にアウスは王国に宣戦布告をしに行ったのかと権力者は騒ぎ立て、平民はそんなことなど露知れず日常を過ごす。まさか黒龍が頭上を流れて進んでいるなど知らぬまま。
「……最近、トレント新聞社が出した記事の一つに王国に二人の聖女がいるって書いてあったのを見たんだ。中々に面白い内容だったぞ、なんでも二人の聖女は同じ学院に通い一人は言い伝え通りの見た目でもう一人は言い伝えとは真逆の見た目をしているらしい。けれど二人とも聖女としての力は国王皇后両陛下がお認めになられたそうだ」
騒がしき城下町の一つで交わされた会話。『聖女が二人いる』なんて本来不名誉かつ不謹慎として遮られるのが妥当な会話ではあるが内容が内容なだけに多くのものが興味を惹かれ話題に上げては下がる気配を見せない。
過度なスキャンダルは好かれなくとも、こうした噂程度のスキャンダルは人の心を上手く掴んでそれが例え虚偽の事実だとしても話題の種になって憶測がまた人の心を動かすこともある。
トレント新聞社と呼ばれる存在は、そういった真偽不明な記事をしっかり真偽はどうだ!と疑問系で記載し人々の話題を増やすという戦法でとても多くの人間が購入する大手の新聞社へと変わった。
そんなトレント新聞社の一人がほんの一瞬、空に黒龍を見つけてしまえばもう広がる話題は『一触即発?!王公の戦いが遂に火蓋を切ったか』一色。
ただ、国内を騒がす呪いの紙。巷ではラッキーカードとさえ呼ばれている存在も記者としては書かない訳にはいかない。
人を呪い成功すれば、ランブル聖国の紋章が浮かび『ランルはあなたを見捨てない』と妄信的な信者を増やす。注意喚起も含め記事にしなければランブル聖国の弱肉強食の精神では喰われるだけ。
記者はこれ以上ない苦悩に悩まされる。それだけ。
「……ランブル聖国のラッキーカードはネタにしたら命どうなるか説明がつかないが……今のこの状況もあまり良くはない……果たしてどうするか……」
魔法とはまた違い、科学技術も発展したこの世界で新聞が瞬く間に出来上がり空を飛ぶように人々の元へと届く。
一面を飾るのは『公国の主遂に王国へ宣戦布告か』という記事。裏の取れていない弱い情報ではあるものの興味や好奇心はくすぐられる。
二面にはランブル聖国のラッキーカードの注意喚起を記載した。どうやってカードを手に入れるかも全てがランダム。賭場や違法な場所で直接貰えると言った人や、歩いていたらいつの間にかバッグに入っていたと言うものまで。
ただ、わかることは渡すものの顔を誰一人として覚えていない。知らないということだけ。
これがどうしても聖女の加護のある王国でもこれだけの影響力を及ぼすのだから悪い気がしてならないことを記事に書いて飛ばした。
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