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 『ラウリーの意識が戻りました』
王宮へと馬を走らせるオズモンドの元へ届いた白い伝書鳩に括られた手紙に書かれていた。手紙の下にランゼルのマークが入っていてオズモンドは無条件にその手紙を信じた。

 エトワール邸では、末息子と学院にまだ入学前の娘と共にラウリーの悪いニュースで身体を壊したシャルロットが情報を待っている。


 ラウリーが襲われたと連絡が入った時のオズモンドには、何故だかは説明できない『何度も味わってきた苦痛を味わっている感覚』に支配された。
オズモンドからしたらこの世界は人生一周目のわからないことに溢れた楽しい世界であるというのに。

 仕事を途中で部下に引き継ぎノルマンに申請書類を手書きの雑な字で早馬に渡し行動に移る。




 帝国との国境付近での貿易の最中。
王国は小国を取込み以前よりまた領土を広げ大陸の上半分を得た。
地図で大陸を見下ろした際に向かって右側に帝国と公国。左側に聖国やその他の小国や集落が存在する。
王国は地図からしてもこの大陸一、支配率の高い国であると見て取れる。

 そんな大陸で重要な貿易となるのが食料品。
大国と呼ばれるようなここでいう公帝王国がそれぞれ海に面しているが、小国の中には面していない国も存在する。
魚で得られる栄養素を接種するのが難しい国のため、王国として出来ることを、という仕事の一環をオズモンドは担っており、一年の多くの時間を国中移動して実行していた。


 そんな国家間でも重要な仕事の途中で駆けてきた部下にラウリーが襲われたと聞かされた。
本来であれば、シャルロットに一任し息子で次期エトワール伯爵となるランゼルに任せてオズモンドはオズモンドの仕事をするべきなのだと思う。
 だが、それがどうしても出来なかった。
部下にこの場を頼むとオズモンドらしからぬ頭を下げる行為まで躊躇わずやってみせ、駆け出すように馬に乗ったのだった。



 一方、ランゼルの方ではラウリーが目覚めた事でその場自体は張り詰めていた空気が少し落ち着いた。
長い夢でもみていたかのように、寝起きは朧気ではあるものの意識も確りと確認できた。


「……ラウリー、無事で良かった」


 ランゼルは込み上げてくる涙を見せないように強がりつつも妹の目覚めを喜んだ。
目覚めたことをすぐにオズモンドに知らせるべく飛ばした伝書鳩もじきに届く。そうなればオズモンドのことだ、きっと王宮へと向かうはず。
 長男としてある程度の父親の行動に勘が働く。きっとこうするはずだろう、というのが大抵は正解になる。


「王妃様、不躾なお願いではありますが私を王宮に連れていっては貰えませんか。ラウリーは大事をとってエトワール家が世話になっている病院へ一時向かって貰い治療をしてもらうので、送り届け次第国王陛下と同席しているであろう公主殿にもお会いしたい」


 ランゼルの言葉にシェルヒナだけが悲しい顔をしたが、仕方のないことであると飲み込んだ。
ラウリーはシェルヒナの手を握り、トントンと指で優しくシェルヒナの手の甲をたたくことで慰めた。


 王宮へと行くと決まれば動きは簡単になり、早急な動きで全員が移動を開始する。
ラウリーはランゼルに抱かれ、馬車へと向かえばその馬車はエトワール家おかかえの病院へと足を進めた。従者を信用していない訳ではないもののランゼルはギリギリの所までその馬車の後ろを追った。

 その姿はマリアには妹を大切にする理想の兄の姿として映る。


「……妹想いだなんて綺麗事ですよね。
 我が家に聖女がいる、それだけでエトワール家の現代が栄えていると言われます。だが、俺は妹が別に聖女じゃなくたって栄えていたと信じています。

 ラウリーには聖女という役目を棄ててもいいから幸せになって欲しい。俺の願いなんです」
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