龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

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2.再開期

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 王宮にオズモンド、ランゼル、マリアが到着し執務室では足りず、本来であれば食事の時に使う広間をノルマンは開けた。

 広く長いテーブルを囲い向かって左に公国の人間が、右に王国の人間を並べた。シックス達は立ってた方が気が楽だと言って一切座る気を見せなかったが、アウスが座ったら良いと言ったことでネスタとキディだけは少し離れた所に座り「疲れたね」と談笑を始めた。


 オズモンドとランゼルにアウスは今回帰では初めて対面する。少しの緊張と過去の姿を重ねては、今回帰も守りきれていないアウス自身に怒りを覚えた。
 マリアはそんなアウスの姿を見て、考えていることを察したのか「まだ終わったわけではないわ」とアウスに聞こえるような独り言を言った。

 アウスの記憶の中のオズモンドも、ランゼルも行方がわからなくなったラウリーを必死に探して窶れていた。
食事もまともに取れていなかったのだと今の姿を見て改めて理解する。


「…公主様に改めましてご挨拶申し上げます。エトワール家当主、オズモンド・ディ・カリデラ・エトワールと申します。此方は息子の……」

「…ランゼル・デュ・カルデン・エトワールと申します。公主様、国王陛下に改めてご挨拶申し上げます」


 全員が着席した頃、オズモンドとランゼルが挨拶をした。そんな挨拶にアウスは疑問を持った。アウスの記憶ではラウリーは神から貰ったもう一つの名前を抜いた名前ラウリー・デュ・カルデラ・エトワールだったはず。


「……名前が違うのですね」


 王国の人間は名前の一部が違うことは知っていたはずであった。ノルマンとウィリエールが王族の名前であるフィロシスコヘデン・アンテベーダの名前を持っているがノルマンとマリアはアンテベーダ、ウィリエールはアンテベートである。
一文字なら理解が出来た。ノルマン達と同じだからと納得がいく。

 だがエトワール家の当主はディ・カリデラ、息子はデュ・カルデン。ラウリーはデュ・カルデラ。違いが多すぎた事でアウスの思考は停止した。


「……妻の祖国の慣習なんです。子供が産まれた際には信頼できる占い師に名前を頼むのです。その時に吉となる文字や言葉を取込むんです。
ただ、王国の慣習ももちろんあり両陛下もお名前の一部が同じ様に我が家も妻と私が『ディ』で、子供達は全員『デュ』なので、王国と小国の慣習を各々受け継いでいる複雑な名前なんです」


 オズモンドの説明にアウスは納得がいった。
以前、仕事の際に行った小国に占いを取り込む名前の為、家族で名前が違う者達を見たことがあった。
王国では珍しいとはいえ、オズモンドとシャルロットが出会ったのも学院。センガルの夫も通っていたりと様々な国から来ているのは確か。

 シャルロットが小国の人間だったということをアウスは初めて知った。


「エニカフニ小国出身の方はあまり外へ出ることに積極的では無いという印象がありました。まさかこうして王国で会えるとは思っても見ませんでした。大変勉強になります」


 アウスは皮肉ではない率直な感想を交えてオズモンドの説明に対する返答をした。
オズモンドはまさかアウスの口からエニカフニが出てくるとは思っていなかったようで、心底驚いた顔をしその後にやはり慧眼をお持ちでと参ったように笑った。
 そしてオズモンドは諦めたように小さく息を吐くと真剣な面持ちで本題へと入った。


「…本来であれば、事細かに書かれた書面で頼み願うものなんでしょうが今はそういった余裕が無い故に口頭で失礼しますが……ラウリーの、娘を裁判が始まるまでの期間公国にて保護という名目で匿っては頂けないだろうか」


 オズモンドの提案にランゼルは驚かなかった。驚いたのはその場で言えばアウス、エルメを含む公国側とマリアのみ。
ノルマンはその意図を瞬時に見抜いたことで、小さく納得の溜め息を漏らした。


「……聖女を王国から抜くということがどういうことか理解されているのでしょうか」
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