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2.再開期
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しおりを挟むセンガルの見た世界はいつも残酷で、苦痛しかなかった。
やめてしまえればどれだけ楽になれるか考えては、生まれ育ち両親の過去を知らずに笑う子供たちに植え付けてはならないと責任感が時に首を絞めていく。
「メフィ、此処の制圧は完了したよ」
センガルの夫達も共に闘い制圧した工場で、細い腕で抵抗もしないのにたった一言……
工場内で働かされている者達の殆どが過去の自分と重なる姿。ボロボロの服で地面に這いつくばり、赦しを乞う。
どうか、もう二度と反抗を見せないので赦してください。
鞭を打たれ、皮膚が焼けたように痛くてもただ赦されるために言葉を繰り返し『遊び』が終われば治療か廃棄か。
廃棄になったもの達はどこへ行くのだろう、終わりを迎えた者達の一部は今回の工場内のように流され強制労働を強いられる。奴隷としてではなく工場の機械の中身のようにゼンマイとして生きていかなければならない。
人権も、何もかもがなくなった世界。
「メフィ、顔色が悪いよ。少し休むべきだ」
夫の一人のフェイがセンガルに声をかけ休ませようとした。彼としてもこの場で良いように扱われている『彼ら』を他人事のようには見捨てることが出来なかった。
「………私たちの住むこの大陸で最も信仰され、その力故に崇められているリリアリーティの血を引くとされる聖女に治癒の力があったとしたならば、私はきっと、聖女が悪だとしても喜んで身を捧げるわ」
凄惨な現場で淡々と言葉を紡ぐ彼女をフェイは慰めや肯定の言葉が思い浮かばない代わりに肩を引き寄せ抱き締めることで気持ちを伝えた。
ラウリーが聖女であるということは多くの者の周知ではあるものの、聖女の力自体にどれだけの力が詰まっているのか誰も知らず聖女本人であっても祈りの力で魔物が近づきにくくなるという付与されたスキルのようなもの程度であろうと客観視しているほど。
センガルはふと思ってしまった、ならば大陸をあげて信仰するほどの価値があるのかどうかを。
聖国の信仰する神がリリアリーティでないことは国の方針、そして出している名前のランルからして理解できる。
語り継がれる王国の歴史において、まだ龍と人間程度しか種類が居ない獣人が本当に稀少だった世界で、リリアリーティとギルディアが建国の主だが神の血を引き特殊な能力をもっていたとされている。そんな神に等しい存在に噛み付き抗った狗こそがランルといわれている。
ランルはリリアリーティの血を摂取し、特別な力を僅かに持つ獣人の繁栄に多大な影響を及ぼすこととなった。
「………ランルの教えの終着点はどこなのかしらね」
…
赤い髪が揺れる。虹彩、瞳孔の場所がわからない白目まで黒く染まった瞳が光を捉えて小さく波打つ。
気持ちが高揚している男は身体に鱗を露にし、カチカチと鱗が当たり音を響かせる。
「もう少しで会える、きっと。俺の息を止めてくれる」
ラッキーカードのからくりには気付いただろうか、次にやることの布石は打ってあることを理解してもらえているだろうか。
まるで小学生のような小さな期待と高鳴る胸に生まれてから感じたことのない『楽しみ』が目の前にある。子供の多くが小さい頃に両親からもらうべき感情を貰えなかったがまさか違う国の長に教えて貰えるなんて想像もしていなかった。
聖国では強さが全て、首を取りに来るものを全て払いのけ玉座に歴代で二番目に長い時間座っている。全てがこの日の為にとさえ思えてしまう。
「聖女、リリアリーティの名前を貰うもの、その叫び声はどこまで綺麗なものなのだろう」
隣の大陸でテストルの輸出が停止し輸入が禁止とされたことで貴族達は嘆きに騒いでいるが、男からしたらその情勢には興味がなかった。理解できなかった。テストルの毒が人間にどのように作用するのかを知っていたからこそそれを喜んで創り買うもの達の気が。
「この国に唯一ある工場を固めておけ、きっと空から客が来るだろう、俺の客だ。丁重におもてなしを」
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