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2.再開期
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しおりを挟む断罪の日は近い。刻々と刻まれるカウントダウンに関わる者すべての背筋が引き伸ばされるよう。
ラウリーは平穏すぎる日常に違和感を覚えていた。以前から思っていたが、アウスが居ないことがまるで当たり前のように流れていく。公主邸でありながら、公主が居ない。なのにも関わらず使用人の面々は毎日を笑顔で過ごす、王国で着飾った貴族の生活に馴染んでいるラウリーにはその光景が新鮮であった。
白みがかった蒼色の瞳に映る景色は、今までの生活で得た全ての価値観を壊すようであった。
「……お嬢様は王国では毎日何をして過ごされてるんですか」
静穏な公主邸、庭園に用意されたレジャーシートの上でピクニックバスケットを広げエピチカ、ラムルと共にラウリーは小さいお茶会を開いた。
ティーカップは三つ、お茶は既にミルクの入った甘めのものでエピチカでも飲めるようにとラウリーが希望した。
コポコポとミルクティーが注がれ、三人分用意出来たと次の行動に移ろうとした時にもう一つ空のティーカップがあることに気付く。
確かに三人分カップを用意し、エピチカ、ラムル、ラウリーの三人の手元にはミルクティーの入ったカップが実際にある。頭の中のはてなにラウリーは呆然としてしまったが、違和感を感じていてもゆっくりと手を動かしミルクティーを四つ目のカップに注いだ。
「優しいですねェ、有り難く頂きます」
まるで最初から居たかのように頂きますとミルクティーを貰ったキディが輪を組むように座った。
ラムルとエピチカからしたら、公主の側近が。と少し緊張したが「実は休憩なんすよぉ、のんびりしたら戻ります」とキディが言ったことでアウスが戻って来ないことに安堵した。
『公主様が帰還されることをこの邸宅の方は喜べないのはどうしてですか』
ラウリーはエピチカやラムルの表情を読んで疑問を頭に浮かべた。ラムルは脳内の言葉を読み取れる。いざというときには答えてくれるだろうかと少しの期待を込めた。
「…ッ、いえッ違うですよッッ、リュドヴィクティーク様を嫌うなどそういうことは一切無いのですッ公主様は素晴らしい方です!」
ラムルはラウリーの聴こえぬ声にひどく動揺し、言い訳じみたことをあわあわと慌てふためきながら話をし始めたが、ラムルの慌て方を見ながらキディは冷静にラウリーに向き合った。
「俺たちはずっと誰も彼も『生きていて良い』と言われたことが無いような奴らばっかなんだよね。俺も出自を問われれば多くの人間は蔑むと思う。
公主様はそんな人間やらを絶対に見捨てない。お嬢さんは公主様を皆が避けていると思ってるんだろうけど、避けてるのは公主様でね。命の恩人に生意気な態度を取れる愚か者はいないからさ…」
ラウリーはなにも知らなかったんだなと痛感した。喜ばないのではない、喜ぶとアウスから逃げていってしまうとキディは言うのだ。それが事実なのだとしたら、アウスが居ないことがまるで当たり前のように、なのではなく本当に居ないことが当たり前なのだろう。
アウスの方が避けている、ということは殆ど会話という会話をしていないのだろう。
『ここで働く人は公主様とお話ししたいと…』
「えぇ、思っています。あの方には何度礼を言っても言い尽くせません」
「……御当主様は近付くと逃げちゃう猫ちゃんに似ているです。だから待っているのです」
楽しそうにアウスと話が出来るなら嬉しいと話すエピチカとラムル、そしてキディにラウリーは改めてアウスの事をなにも知らないと感じた。
話が出来るのなら、という考えならばラウリーも等しく。
『……少しだけ、協力してもらえませんか』
自分の立場は理解しているつもりだったが、聖女としてではなくラウリーとして公国に迎え入れてくれた恩はあった。だからこそ、今ある糸のほつれのようなもどかしさを拭ってあげたいと。
アウスが帰還するのは数日後だとキディから助言を貰えばあとは作戦を練るだけ。
『やってやるぞ』の精神でラウリーは奮闘した。
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