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3.裁判
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しおりを挟む戦争が始まる鐘は、誰しもが思うより安っぽいものであったがそれを笑う余裕のある者は誰一人として居なかった。
多くが『傍観者』この裁判における前座でしかない。
「聖女を虐げられている様子を傍観していた」他国であれば酷いことと一定の避難で終わる議題でも、王国にとっては死活問題にすらなりえる。
王国に魔物が来ず、天候穏やかに人々が暮らせるのが聖女、ひいてはリリアリーティから貰える恩恵だから。
親御達の暴れようは見ていられない、赤子のヒステリックを見ているようであった。
我が子は唆されたのです、我が子にも非が無かったとは言えませんが実行犯ではないのです。
どの言葉も最後に続けられるのは「御慈悲を」
無言で騒ぎ立てないことが最も減刑を望める機会だと知らぬはずないだろうに騒ぎ立てて子の罪を重くしていく。
ノルマンは無表情でその言葉が最後の一滴まで絞り出されるのを待った。
親御達はそれを好機と捉え自身がもたらし得る利益まで語り始めた。
裁判における裁判長を務める者ですら呆れてものも言えない。こんな茶番劇に時間を費やすのは無駄でしかない。
「静粛に」
裁判長の言葉を振り払うように貴族たちは騒ぎを止めない。関係者の数があまりにも多いが故に起こりうるトラブル。
王国の長ノルマン、公国の長アウス、帝国の長センガルの三人が揃い踏みしている稀有な状態であることを有効利用しようと裁判の主となる事柄より自身の保身やらを優先している。そんなことは三人にとっては想定出来ない訳がない。
「……それで?裁判を塞き止めてまで語ったのだから、判決は如何なる場合においても控訴しないと?」
センガルが瞳の表情を変えずに口角だけ上げ放った言葉は貴族の大人たちを黙らせる。子供は既に拘置所という本来であれば絶対に関わることのない世界を味わい、自分達が見下していた平民と同等、若しくはそれ以下の扱いを受けたのだ。喋る気力は残っていない。
裁判開始は予定していた日程を一ヶ月半遅らせ、事件発覚より約半年という時間を要した。
その間学院はノルマンの指揮下のうえ閉鎖、学生たちは自宅待機を余儀なくされていた。下手に動けば自分達の子供も巻き込まれ捕まるのではと恐れた今回の事件には無関与の者達も事態が事態なだけあり、ノルマンから出された指示に従う他無かった。
「……アンテ皇帝陛下殿には理解できないでしょう、自分の子供が無関与の事件に巻き込まれ捕まったと聞かされた親の気持ちなぞ。わかるはずないのです」
裁判とはいえ法の場、かつ先にも言った通りここには王国、公国そして帝国の長が揃い踏みしている空間。
まさかセンガルを遠回しに侮辱する貴族が現れるなんて。最悪の想定が当たったことに深い溜め息が三人を包む。
ノルマンは怒りで獣人の紋様現れるセンガルを横目で確認し、アウスに手でセンガルを制止させるよう指示を出し重い腰を上げた。
王国の長が立ち上がったことで貴族たちは流石に黙る。
「センガルの夫含め元奴隷の性奴隷だった男達がどのような方法で精巣を潰されるか知っているか。この裁判には関係無いこととはいえ、お前達が否定し侮辱したのは帝国の主だぞ。
これまでの全ての意見を却下、棄却し被告人達全員には当初から予定通りの判決を下す。
『聖女暗殺幇助』に加え『侮辱罪』まで追加したいというのなら意見を好きなだけ言うと良い」
ノルマンの言葉に貴族は何も言えなかった。
言えばどこで侮辱罪と問われるか、これ以上の罪を増やすことは貴族としての人生を終わらせるに等しいことと判断つくものだから。
「……本件の裁判において、大勢の方々はすぐに終わる既に確定した刑を読み上げるだけの予定だったというのに、随分と時間を要したことだけは理解していただきたい。我々公国、帝国とて暇じゃない。裏で待機している証人の方々も待っている。早く動くなら動いて頂きたい」
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