71 / 90
3.裁判
45
しおりを挟む「ヘンリー・シャーシャ・ミルワール。証言台へ」
裁判の本格的な開始は彼女が証言台に立つところから始まる。拘置所は辛かったのだろう、アウスやラウリーが知る姿より痩せこけた姿は何よりの証明にはなった。
裁判の形式上問われる事務的な会話をミルワールは淡々とした口調、表情で応えていった。その姿が堂々としすぎているがゆえに『したことへの罪悪感は無い』と物語っているようだった。
「被告人は……」
読み上げられていく自身の行った行為、どれも重罪。それでもミルワールの表情が曇り歪むことは無かった。
その芯のある姿が人によっては輝いて見え、人によっては最後の足掻きに見え、どちらにせよ目が離せない状況へと向かう。
罪状読み上げが終わり、意見、反論はあるかと問われた時ミルワールはその日初めて言葉を紡いだ。
「……私は、悪しき黒龍を呼び寄せ学院の平穏を乱した魔女を自らの信念の下討伐しようとしただけですわ。誓って『人間』に害為すような行為はしてはおりません」
言葉の端から端まで、流石貴族といえる堂々とした声。揺らぎも迷いもないただ真っ直ぐな言葉にその場の者がたじろぐほど。
裁判長は、そんなミルワールに対し決して感情的になることはなく「その黒龍が公国の主だとしても同じことが言えますか」と優しく問うた。
ミルワールは瞬間的に裁判長の顔を見たがすぐに真っ直ぐ向き直り声を張る。
「例え公国の主だとしても、あの時あの瞬間、あの場所に突然龍が舞い降りることは無いと断言致します。
操られでもしない限り、狙うことは不可ですし、公国の主が偶然王国の空を龍の姿で飛ぶなんてことは有り得ません。魔女が仕組んだことは明白です」
ノルマン、アウス、センガル、三人の席から離れた場所に座るマリアでさえも納得が行った。ミルワールが一人で騒ぐだけで学院を巻き込める情報操作が可能かどうか。この疑問は簡単には拭えず、更には裁判が始まらぬことには疑惑のままで終わる。
結果としては、たった一つの質疑応答でわかる。
彼女の言葉は人を統率するに相応しい。
堂々とした様、動揺が声に表れることもない。『こうだからこうである』という臨機応変な対応も何通りにも想定してなければ出てこないものだろう。
前回帰で知ることはなかったミルワールの本来の実力かと、アウスとセンガルは口角が上がるのを手や扇子で隠す。
裁判長はミルワールの言葉を受け止めた後に、アウスに向かい「公国の主、彼女の言葉を聞き弁解はありますか」と問うた。
アウスはその場で立ち上がり、裁判長へ一礼し話を始める。
「少しだけ論点がずれますが、すぐに軌道は戻るので止めずにお聞き願いたい。
ここ一年、多くの土地や場所で広まっている『ラッキーカード』をご存じだろうか。
……実は我が国でも手を妬いていて、被害は当初の想定以上に広がっている。そんな中で我が公主邸のメイド長がラッキーカードの被害に合い片腕を切り落とす事態となった。加害者である使用人の女は呪いの反動でメイド長と同じ毒で命を落とした。
司法解剖ならびに切り落とした腕の分析結果、分かるものには理解できる、テストルの毒だと判断付けられた。
そんな使用人の女は酷いギャンブル癖があり、犯行の数日前に王国の賭博場へと行っていたことがわかった。
あの日、何故空を飛んでいたか。の答えだが賭博場でその使用人と会っていた人物達に事情を聴きにいっていたから。また、空を飛ぶ許諾はノルマンに貰っていた、書類は証拠として申請済みだ、確認してもらって構わない」
アウスの言葉に裁判所の者が動き回り、書類のコピーを配る。ノルマン、センガルは勿論のこと裁判長にも。
その間、アウスはミルワールを観察していたが、アウスの想定通りミルワールは証拠よりも別のものに反応を示した。
アウスは既に何度も読んだであろう証拠の書類に全員が業務上目を通す時間に、裁判の場を目で一周した。
会いたい人は…
15
あなたにおすすめの小説
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
※新作です。アルファポリス様が先行します。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる