龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

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3.裁判

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 「ヘンリー・シャーシャ・ミルワール。証言台へ」


 裁判の本格的な開始は彼女が証言台に立つところから始まる。拘置所は辛かったのだろう、アウスやラウリーが知る姿より痩せこけた姿は何よりの証明にはなった。
 裁判の形式上問われる事務的な会話をミルワールは淡々とした口調、表情で応えていった。その姿が堂々としすぎているがゆえに『したことへの罪悪感は無い』と物語っているようだった。


「被告人は……」


 読み上げられていく自身の行った行為、どれも重罪。それでもミルワールの表情が曇り歪むことは無かった。
 その芯のある姿が人によっては輝いて見え、人によっては最後の足掻きに見え、どちらにせよ目が離せない状況へと向かう。

 罪状読み上げが終わり、意見、反論はあるかと問われた時ミルワールはその日初めて言葉を紡いだ。


「……私は、悪しき黒龍を呼び寄せ学院の平穏を乱した魔女を自らの信念の下討伐しようとしただけですわ。誓って『人間』に害為すような行為はしてはおりません」


 言葉の端から端まで、流石貴族といえる堂々とした声。揺らぎも迷いもないただ真っ直ぐな言葉にその場の者がたじろぐほど。
裁判長は、そんなミルワールに対し決して感情的になることはなく「その黒龍が公国の主だとしても同じことが言えますか」と優しく問うた。
 ミルワールは瞬間的に裁判長の顔を見たがすぐに真っ直ぐ向き直り声を張る。


「例え公国の主だとしても、あの時あの瞬間、あの場所に突然龍が舞い降りることは無いと断言致します。
操られでもしない限り、狙うことは不可ですし、公国の主が偶然王国の空を龍の姿で飛ぶなんてことは有り得ません。魔女が仕組んだことは明白です」


 ノルマン、アウス、センガル、三人の席から離れた場所に座るマリアでさえも納得が行った。ミルワールが一人で騒ぐだけで学院を巻き込める情報操作が可能かどうか。この疑問は簡単には拭えず、更には裁判が始まらぬことには疑惑のままで終わる。

 結果としては、たった一つの質疑応答でわかる。
彼女の言葉は人を統率するに相応しい。

 堂々とした様、動揺が声に表れることもない。『こうだからこうである』という臨機応変な対応も何通りにも想定してなければ出てこないものだろう。
前回帰で知ることはなかったミルワールの本来の実力かと、アウスとセンガルは口角が上がるのを手や扇子で隠す。

 裁判長はミルワールの言葉を受け止めた後に、アウスに向かい「公国の主、彼女の言葉を聞き弁解はありますか」と問うた。
アウスはその場で立ち上がり、裁判長へ一礼し話を始める。


「少しだけ論点がずれますが、すぐに軌道は戻るので止めずにお聞き願いたい。
ここ一年、多くの土地や場所で広まっている『ラッキーカード』をご存じだろうか。
……実は我が国でも手を妬いていて、被害は当初の想定以上に広がっている。そんな中で我が公主邸のメイド長がラッキーカードの被害に合い片腕を切り落とす事態となった。加害者である使用人の女は呪いの反動でメイド長と同じ毒で命を落とした。
司法解剖ならびに切り落とした腕の分析結果、分かるものには理解できる、テストルの毒だと判断付けられた。
そんな使用人の女は酷いギャンブル癖があり、犯行の数日前に王国の賭博場へと行っていたことがわかった。

 あの日、何故空を飛んでいたか。の答えだが賭博場でその使用人と会っていた人物達に事情を聴きにいっていたから。また、空を飛ぶ許諾はノルマンに貰っていた、書類は証拠として申請済みだ、確認してもらって構わない」


 アウスの言葉に裁判所の者が動き回り、書類のコピーを配る。ノルマン、センガルは勿論のこと裁判長にも。
その間、アウスはミルワールを観察していたが、アウスの想定通りミルワールは証拠よりも別のものに反応を示した。


 アウスは既に何度も読んだであろう証拠の書類に全員が業務上目を通す時間に、裁判の場を目で一周した。
会いたい人は…
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