龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

文字の大きさ
87 / 90
番外編

大陸内の国

しおりを挟む

 広大な土地には多くの生が住まうというが、ここでの話はある程度大雑把に区分化したものだと思うと分かりやすい。



 フィロシスコヘデン・アンテベーダ=ノルマンが玉座に座り統治する国『モディフス王国』は王政を使い大陸内で最も大きく土地を占めている。
 大陸を地図として見てみた際には上部に位置し真ん中が盛り下がる形をしている。
王国内にも幾つかの集落は存在し、栄えているのも王都を囲う一部である。

 モディフス王国の特徴は玉座に座る『王』が最も偉いとされているが、それとは別に貴族位があまり浸透していない王都から離れた地にもそれぞれの集落に長がいてそれらも独自国家に近い形で国を運用することを認めているという点。

 この制度自体はノルマンが王となってから施行されたものであるが、デクドーによる力での支配、統治からの脱却を目論むもの達にとっては拍子抜けした内容であった。



 アウス・リュドヴィクティーク・ド=シュヴァイス・フィークが統治する国『モディフス公国』は王国や帝国のように王といった絶対君主制から外れた公爵であったりとある程度の地位の者が治める国。
大陸内地図で見ると王国の右下に位置し、帝国と隣同士でより内陸側にあるのが公国。
 元々王国の植民地に近く、獣人も多かった公国の領土では王国の奴隷制度の制定と共に国としての機能はなくなり、人間より優れている龍人族が壁となることでほんの一握りの奴隷を匿う程度のものだった。

 アウスの両親は奴隷を憂いはすれど、明日は我が身の世界で一握りの奴隷に与える慈悲が精一杯であった。
しかし、現公国使用人デフィーネが奴隷として働いているのを見たアウスが「あの子を助けたい」と言ったことで一念発起。
奴隷解放の英雄とまで呼ばれ崇められる程、リュドヴィクティーク家の評価は上がり、アウスに当主交代する直前に公国として王国より独立。
 多くの奴隷を守り、どんな種族も平等に扱う全てがフラットな国を掲げ建国した。



 センガル・メフィ=トスミート・アンテが統治する国『ラスティート帝国』は元奴隷であるセンガルを長とし完全に王国に敵対する形で奴隷を守り保護する為に独立し建国した類を見ない国。
大陸内地図で見ると王国の右下に位置し、公国と隣同士でより海側にあるのが帝国。
リュドヴィクティークと同時期に建国したのは、センガル自身が奴隷であった際リュドヴィクティーク夫妻に救われ人間として生きる道を貰ったからであり、アウスもセンガル、デフィーネ、ユルの三人を腐れ縁と言える程には長い付き合いではあった。

 帝国と公国の違いは、公国では奴隷であっても望み努力すればある程度の地位に立てるということ。帝国はそういった面でいえばフラット過ぎて特出した釘を打ってしまう。
全てにおいて平等を正義としたのが帝国、人権を守りその個々の意志を強く尊重したのが公国であると言える。 


 カガシが長を治める国『ランブル聖国』は、地図上で言えば公国の左隣に並ぶ幾つかの小国や集落の中の一つ。
聖国の信仰する神ランルと呼ばれる犬は、三大柱の一人であるルドゥムーンの娘でありもう一人の三大柱ギルティアの妻であるリリアリーティに噛み付いた神をも恐れぬ犬としてその名前を広く知らしめた。
 神の血を得たことで獣人を生み出すきっかけになったのではとさえ言われており真偽は不明でも多くの聖国民は強き者であれぱ例え獣人だろうが人間だろうが種族を問うこともそれによって差別することもない。

 聖国のモットーは、強きが生き弱きは死すであり言葉の通り強ければ強いだけ聖国ではより正しくより良いとされている。
 現長であるカガシもそうであるように、ランブル聖国では長のみが名乗れる名前が存在する。
カガシは普段この名前で呼ぶことも呼ばれることも無いのだがもしも正式な場でフルネームを出さなければならない場合、長しか使うことのできないランルニという姓を名乗る。



 シエーラ・サイドならびにコネリー・サイドが統治する都市『エニカフニ』は、まだ国を名乗れるほどの土地を占めてはおらず人口も国となれる基準からあと一歩と言ったところで止まっている都市の一つ。
 国ではないが地図上では公国の隣に隣接する聖国を含む集落などの一つ。

 この都市の最大の特徴は、王国、帝国、公国、聖国のどれにも合うことがなかったもの達が集まりそれらの国からの侵攻から身を守るために塀を築き今となってはとても繁栄した一つ国と遜色ない場所に成長した。
 ただ、先にも書いた通りエニカフニは都市であり統治する者はいても国ではない為、形上はマスカリート王国の管轄にはなっている。



 アスナロ・トマリが長である『リシラカ村』は地図上では公国より左側に聳える大きな山の中にありその山が王国から聖国の方へと続き、リシラカ村は王国やらとは完全に分離した完全に孤立した場所だと見える。

 実際は地図で見るよりかは分断されておらず行こうと思えば行けるのだが、豊富な山の幸、マスカリート王国との交易で生計は立てられておりいう程に孤立化や貧困というわけではない。
公国ではリシラカ村は鳥の獣人が住んでいる、や帝国では森に順応できる獣人しかいないなど偏見に近い説があるが確かめに行ったものは居ないという。



 現在王が不在である国『マスカリート王国』は公国との折り合い悪く、不定期に戦争を起こしては必ず負ける地図上では最も左側に位置し、王国や公国と一切接する面がない国。
先の戦争でそれまで統治していた王はアウスによって討ち取られ新たな王を立て再建まで時間がかかる。
 ただ、何度戦争をしても公国が王国を支配することもなく、戦争自体どういった理由で行われているのか。知るものは限られている。



 地図に載る最後の地は『ロシェキト』と書かれた国なのか都市や村なのかすらなど全ての情報が定かでない場所。
大陸内の地図には今まで出てきた国や都市、村に加え数えきれないほどの少数部族や遊牧民も存在し、地図に載るのは大きな存在を示した場所であるということからこのロシェキトも何かしら特出したことをした場所であるということはわかるのだが、その功績も目立つような文献も何一つ見つからないナゾに包まれている。

 ある場所では『神の休息地』なんて呼ばれ方もしているようではあったが、真偽は全くの不明。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。 ※新作です。アルファポリス様が先行します。

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

処理中です...