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4.共に生きるために
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しおりを挟むアウスは長年考えていた。
自分が龍人として生まれてきた理由を。
この世界における総人口の内人間を基準とし、なんらかの得意体質または別の種族として生まれてくる確率は統計上あまり多くはない。
その中においても龍人という種族は別の種族に生まれた全員の中でも数%という何万、場所によっては何億分の一しか生まれることのない希少種。
この物語が『誰の』『誰による』『誰のための』物語かはわからずとも、龍人という設定がアウスに付けられたことは何も意味がないことだとは今や誰にも言えないものとなった。
…
公主邸の一室で行われた、アウス、ラムル、エピチカ、ユルそしてラウリーの五人だけの情報共有。
ラウリーは話すのを躊躇いながら、ポツリポツリと情報をラムルにわかるように脳内で開示しそれをラムル側もポツリポツリと噛み砕くように声に出してアウスやユルに情報を提示した。
話の内容を理解することが難しかったエピチカはただラウリーの手を握り、気持ちを察するように背中や掌を擦ったりして、ラウリーの心に寄り添った。
まず話題としてあげられたのは『発動したはずのラッキーカードの効力』についてであった。
この話題に関してはラウリー自身にも謎が多く、チリッとした痛みが瞬間蛇の痣の場所からした程度で、毒の効果とされている状態には王国から公国へ移動する時間も含め数日経過観察した上で何も起きていないことは明らかであった。
ラウリーの出す情報はアウスも共に見て確認している裏付け不要の内容であった。
毒の説明の一端、ラウリーの言った「毒が発動する時に近しいタイミングで、自分の記憶とは反する景色を見た気がした」という言葉でその場の空気が小さな緊張の糸を張る。
ラウリーが見たとする景色は、公国でも王国でもない暗く湿り気のある居心地の悪い場所で、一人称でフードを被った誰かと対面している。
言葉の端々しか聞こえないなか、たった一言「ランルの正体を知っているか」という文言だけは妙にはっきりと聞こえた、とラウリーは言った。
聖国の長の目線からしてみれば、とんでもない興味をひかれる言葉に違いない。
自分達が崇拝信仰している存在の正体など、一説でもいい一端でもいいからと欲しがるものには堪らない情報といえる。
ただ、カガシがそれに興味をひかれるかと考えてみると難しいところだといえる。
彼が何に惹かれて、何を嫌悪するのかいまいち情報にも欠ける。
アウスに関する情報であれば真っ先に食いつくであろうということだけは考えられたが、ランルという信仰対象に興味が向いているかどうか。
ラウリーが説明した脳内に流れ、見た世界にアウスは一瞬見覚えがあるように感じた。
公国の主として勤めている以上、悪人と対峙することも少なくない。
「……ユル、王国に行きウィリエールが勾留されているはずの勾留所に行け。きっと手がかりがある」
…
アウス、ラウリーを公国へ、センガルを帝国へと帰した後の王国では事態の大きさに大騒ぎを沈める為、ノルマンは数日に渡り寝れぬほどに忙しい時間を要した。
ウィリエールの裁判において、彼に問われた『王としての素質の有無』という疑問で騒いでいた民たちは、今や『聖女を狙った聖国の長を許すのか』という怒りで染まっている。
ノルマンとてバカではない、考えあってのことであったが、それを国民全員にさらけ出せる程に情報管理が緩くては困る。
ノルマンはただ「黙ってみているだけではない、我々もやるべきことはする」とだけ言った後、口を閉ざした。
その姿を人は『王は裏で動いている』とも『王が言い逃げとは情けない』とも意見が割れた。
やっとノルマンがマリアと寝室で話が出来る状態になるまでになったある日。
マリアは少しだけ言うか迷いながら「ウィリエールの件なのだけれど」と前置きの上、話がしたいと改まった。
ノルマンからすれば頭の痛い話を山ほどした後に妻からも頭を悩ませる案件を渡される状況ではあったが、ノルマンは一切の嫌な素振りを見せず優しい顔で「良いよ、なんだい?」と首を傾げてマリアに寄り添った。
「………実はね、あの裁判の日。私気付いたの、けれどそんなことはあり得ないってわかってて、でも…ここは本の中であると知ってから…」
上手く言葉が纏まらないマリアに、ノルマンはうんうんと頷きながら決して焦らせることなく待ち続けた。
「…ごめんなさい、上手く言葉が纏まらなくて……あのね、ノルマン。非現実的な話ではあるのだけれど、どうか、どうか笑わないで聞いていて。
………あの日、裁判官たちの前にいた、私たちの前にいたウィリエールは…ウィリエールでなかった」
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