実らなかった啜を

安馬川 隠

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時雨に

檻に棲む/1

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 蝉が鳴く
それはもう、煩い程に。
夏は嫌いだった、理不尽な暑さと教育という名前で縛られたありとあらゆる禁止としない努力義務。
学生の本分は勉学だと言ったり、社会を学ぶことだと言ったり。この世界の矛盾から夏休みは唯一逃げられる機会でしかなかった。

 夏休みを利用して、両親が一軒家を買いそれに引っ越すと言った時の絶望感足るや言葉での説明ほど難しい。
けれど、そんな家があまりにも不思議な点だらけの可笑しな家だと知った時。そして、自分の部屋となった場所の秘密を見つけたことで自分の世界が都合が良いことだけ理解できた。



 愛しい人がいた。
同い年で、明るくて誰からも好かれる根っからの優しい男。高校生ながらに社会性に富み、人脈も広い。
 人としても尊敬できる唯一の人。
高校入学より目を引いて、ずっと追いかけてきた。気付いた時には誰よりもその人に愛されたくて、選んでほしくて。聞き耳を立てて好みとなれるように頑張った。
見た目も、ある程度の外側の性格だって変わった。

 けれど、選ばれることはなかった。

 彼女が出来たと騒ぐグループの外でどれほどの絶望感にうちひしがれたか。出ては来ない涙と比例しないほど深く傷付いた心の穴は直る気など。


 そんな中で、引っ越しをした。学区域も少し変わるが通えない遠さではない。
ただ、誰かのモノになった彼など必要はなくて、自分だけの彼でいて欲しかった。


 実行は八月の十四日。高校の近くでお祭りがあり、夜まで騒いで明るいその日を選んだ。
彼女と一緒にお祭りに来ていた彼を尾行するのも人の多さゆえ簡単で堂々としていられた。
 狙いは帰り道、彼女とまたねと手を振り別れたのをしっかりと確認して近づいた。
後は後ろから殴って、殴って意識を飛ばすまで……

 家に運ぶのもとても簡単だった、おんぶして運べば『お祭りで泥酔した友人を運ぶ図』が出来上がる。


 何から何まで、俺に都合が良い。とても良い夏になった。


 

 午前六時三十分、起床。身支度の為に洗面所へ。
その後、朝御飯を作る。普段はお米を食べるのだが気分が乗らなかったのでパンにした。
 毎朝、自分の分を含めて二食作ることにやりがいを感じ自己肯定感に浸る。

 TVは点けず壁掛け時計で確認しながら、部屋に朝食を持っていく。朝食を部屋に持っていくので丁度七時。
 部屋の床にある扉の取っ手を手前に引けばギィッとなり開く。簡易的な階段があり、それを降りるとそこそこに広く二人くらいならば余裕で暮らせる防音の部屋。


 引っ越しの際、訳あり物件として両親が気に入り買った家で『隠し部屋』が自分の部屋の床下にあることを知った。
調べれば、この家では元々監禁事件があったようでその設備がまんま残されているらしい。
両親は既にこの家が一度他人に渡り自己物件扱いではなくなったこと、会社から近く交通の便もこの上なく良いことから選ばない選択肢はなかった。


 そんな隠し部屋にペットを飼い始めて三年が経つ。
空調もしっかりとしていて、ペットも不便そうにしていない。
毎日早起きし食事を作り、一緒に食べる。ルーティーン化したことを楽しくやれている。
 ペットは甘えん坊で常に一緒に居たいと言わんばかりに舐めたりしてアピールするが、大学の講義があり夕飯の買い物やらやることは山積みでどうしても決まった時間にしか遊んであげられない。

 鳴きながら寂しいことをアピールしても叶えられないことには胸が痛む。


 食事が終われば準備をして大学の講義の確認。
オンライン授業一本化した大学の為、時間を見て画面を開くことで出欠はとれる。
自分のペースで多くが学べることはとても喜ばしいこと。


 甘えた音で関心を引こうとしている行動を愛しく感じながら、今日も幸せな午後を迎えられる。
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