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時雨に
複合線上のパラドックス/1
しおりを挟む記憶から消したいほどの痛み。
それは忘れようとすればするほど蔓のように全身に伸びて絡み、身動きが取れなくなるのを嘲笑うように鑑賞会が始まる。
眠るのは嫌いだ。
白い部屋に白峰、西條、東戸と黒瀬。
小さいながらにこの身の行く末を案じていた。
「ご飯だよ」
そう小さな小窓から流されてくるのは、その館での裏切り者の死体。
白い部屋は館の雰囲気から切り離され、現実的ではなかった。
裏切り者の女の死体を四人で切り分け食らう。
これがその部屋での当たり前だったから。
「こんな血生臭い所で君達は何を望む?」
ここから出してくれた人の顔なんてもう思い出せない。
はやく、かけるくんにあいたい。
ダメだ、このせかいに、はいってしまったら…
【壊れてしまう】
…
「だからD区の人間が担当なの嫌、だって言ったじゃない!」
「うちの子に何かあったらどうしてくれるの」
怒号はどこまでも響く。
手術が立て続けにあり、疲労困憊で自分の控え室に戻る途中だった。
患者含め、大勢の人間が証人として立てる状況下において、正気を失った親という存在はただの狂気。
たった一人の人間に標準を決め、言葉の凶器で責め立てる。
帰れるはずだったというのに。
ただ、ほんの少しの仮眠だけでも必要だからと院長の計らいで仮眠室で休める時間を貰ったのだ。
それなのにあの夢を見てしまった。
「…最悪の目覚め」
欠琉くんには既に連絡を入れてある。
明日は大切な結婚記念日だというのに帰れないなんて有り得ない。
毎年、その日は有給を取り如何なる診察も行わないただの一般人になる日だというのに、それすら危ぶまれ、更に近いうちに犯罪者として晒し首にされる可能性もある。
帰れないのならこの身体も要らないのだ。
そうだ、この身を捨てるときには大勢のものを犠牲にしよう。
この世界には要らないものが溢れているのだから。
《他者を中傷する人間》も同様に要らない。
《蔑む文字で世間を騒がす報道》も同様に。
《権力にしか興味がない政治家》も同様に。
要らないものだらけ、最期と決めた時にはそれら全部を更地にしてしまおう。
一度世界は零に戻るべきなのかもしれない。
その時にはD区も消滅するだろう。
燃える世界に未練が残るだろうか、笑ってその終わりを悟れるだろうか。
手を取り合うなんて空想的なことは不可能。
誰だって自分が一番かわいいのだから。
だから、僕も今は一番自分が可愛い、そして同情できる。
ガキを連れ去った犯人は手に取るようにわかるのに、僕がなにかをすれば、あぁそうなんだと騒がれて結局の所僕の罪になり万々歳で終わる。
なにか、面白おかしくこの場を壊してくれる人が現れればいいのに。
『……いつか、自由になれたら』
あれ、自由ってなんだっけ。
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