実らなかった啜を

安馬川 隠

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絶胎の格子

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 株式会社ミクセラロード。
パンフレットなどの製造を主にしている会社。
製造といってもデザインや、構成などを行い、子会社の印刷所にデータを送るという仕事。

 映画やドラマなどのパンフレットを中心に請け負いつつ、社長の娘さんの影響から最近では同人誌を扱うイベントなどと提携を結び、細々ではあるものの仕事を絶やさず受けている。


 「…真山先輩眠そうですね、柚ちゃんの件ですか?」

 「いや、柚希のことは区切りを終えてる。別件でな」


 巡が所属する部署では主に最終調整がメイン。
繁忙期でなければ、出社する者も疎らな部署。
ただ、巡は宿直でなくとも毎日出社し、データを一番正確に訂正し調整、データを間違えなく印刷所に送れることから上司、部下問わず信頼されている部類にいた。

 今もまさに、といったところで。
巡の隣にさも当たり前のように座り、長い髪をポニーテールに纏めたキリッとした顔立ちの女性、遠野 澄香も巡を慕いつつも自由奔放に巡を翻弄していた。

 実は鎌田が元居たアイドルグループのファンで、巡を握手会やらサイン会に引き吊り回していたのは遠野で、アイドル時代鎌田と同期だった、石嶋 飛耀に会うためにそれはもう必死であった。


 鎌田が現役アイドル時代、握手券やサイン会のチケットは複数枚所持していれば何周でも、握手であれば秒数を伸ばし話せるようになるためファンはお金をつぎ込んだ、遠野も同様であった。
が、ファンの一人がブース内で問題を起こしキャストが襲われる事件があって以降、一人につき一枚のみ周回も禁止とされる規約が追加される事態となった。


 遠野はそんな状況下の中にも関わらず三度に渡り、その規約を忘れチケットを複数所持しては巡に泣きつき一緒に行ってくれと連れていった。
 その当時、謝罪も兼ねて参加した人間に対し参加特典という物で怒りが向かないよう対応していたから、チケットを無駄にすることなく、更には特典を貰えるチャンスだったのだから血眼にもなる。


 「…そうだ、真山先輩今週の土曜日空いてますか?」

 「空いてるが、この前言ってたメイドカフェだったかには行かないぞ?」

 「違いますよぉ、あそこには広川を連れていきますので大丈夫です!、じゃなくて、前に一緒に行ったアイドルグループ覚えてますかね?あそこの元メンバーが写真集出したんですけどサインとツーショの2部で構成したイベントがあるんですよ。
友達が行けなくなったので、相方いなくて…真山先輩お願いします」


 またか、と内心呆れすら覚えつつもチケットを目の前に出され強制連行なのだなと受け取り詳細に目を通せば、今は見たくなかった名前。

 『鎌田 颯天 サイン会.ツーショット会 共通参加券』

 盛大に吐き出されるため息に自分でも驚いたが、受け取ってしまった以上、突き返すのも悪い。
きっと何も起こらない。そう決めつけてしまうことで何も考えないようにした。

 何も起こらない、などあるはずないのに。
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