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怪異、異界に憑き
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しおりを挟む「大丈夫、どんなキミでも愛してあげれる」
真っ黒な視界の中、絶対に向いてはならないと地面を見ていた視線を少しだけ上げた。
甘い言葉に逃げる足を止めて声の聴こえる方を見てしまいそうになった。
ただ、真っ暗なはずの空間で目が慣れてきたとはいえ見えるはずの無い足が見えた時、自分の選択が間違えていた可能性を強く感じた。
「ねぇ、お願いよ。こっちを見て、貴方の目が見たい」
音が近付いてくれば来るほどに言葉の端々に言葉には無い『ぽぽぽ』という音が混じっていることを知る。知ったから何だというのだ、というところではあるが、前に都市伝説でこの場と近しいものを見たことがあった。ネットニュースの一つだった気がする。
……そうだ、確か『きさらぎ駅』と『八尺様』だ。
この場所はまるできさらぎ駅の話そっくりだ。ただ、この話の終着点を知らない。駅に着いた後、その人が無事に家に帰れたなんて見た記憶もない。
それでいえば、八尺様なんていうのは更にダメだった気がする。八尺様と目を合わせた者は一週間以内に命を落とすではなかったか。
きさらぎ駅の詳細はいまいち覚えていないのに、八尺様のだけはなぜか頭にポンポン思い出せる。やはり死が直結しているとなると重さが違うのだろうか。
狙った人間を数日以内に取り殺すと書いてあったが、確か成人前の若者、特に子供を狙うはずではなかっただろうか。俺はもう三十路だからあり得ないはず。
田舎に出没し、白いワンピース姿で「ぽぽぽ」という声を発するって言うのには納得がいくし無理矢理にでも理解しようとは出来る。
それに今ちらと見える足は確かに白いワンピースのスカートの部分だろう、揺らいでいる。
ありえない、非現実的なことだとは思うし信じられる話でもないが、確か、確か……対策があったはず。
家に帰った後にすることがいくつかあったはずだが、それは今出来やしない。
そうだそうだ、思い出した。話し掛けることなく、指を指さない。だったはず。
であればなおのこと目を合わせないことは重要点になるはず。
「やっと帰ってきたのに、大智は俺とは仲良くできない?愛してるって言ってくれたのに……あれは嘘?」
突然頭上から聴こえてきた冷たい声。
背筋があまりにも凍えすぎてドバッと油汗が溢れて流れる。不快とさえ思う猶予を与えない。
なぜだ、八尺様は女性ではないのか。俺と言ったりこの声……都市伝説の類いには性別がないというのか、?
しかしながら、聞こえた声を何処かで。
『……へぇ八尺っていうんだね、覚えておく』
都市伝説の類いなのだから記憶の捏造だのはお手のものなのかもしれない。けれど鮮明でない、瞬間的にフワッと出た記憶は自分の物だと信じたい。
声を交わしてはならない、でも独り言なら。
「………八尺……」
小さく聴こえるか聴こえないかわからない声で。
もし死ぬとしても、あのブラック企業に出社しなくていいなんて良いことではないかと気持ちを切り替えて。
冷たい空気が柔いで温かくなるのと同時に、強く手を引かれ俺は闇の中へと吸い込まれていった。
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