実らなかった啜を

安馬川 隠

文字の大きさ
28 / 39
怪異、異界に憑き

3

しおりを挟む

 小学生の時、今となってはそれが低学年の頃なのか中学年なのかなんて思い出せない程に色褪せてしまった記憶ではあるが父方の祖父母の家に遊びに行った。
夏休みだった気がする、セミが鳴いていて、大智くんのためにとうもろこし茹でたろねなんて祖母が言ってくれて。

 けれど途端に家の中の空気が悪くなって。
父と母は仲が悪かったから、何かあれば場所を選ばずに喧嘩した。
残った記憶でも鮮明にあるのはいつも怒鳴り騒ぎ、物を壊す母とそれを殴ってでも止めようとする父。
 まだ、家庭として壊れてはいても保てていた関係だった気がする。

 その時の俺はどうしようもなく不安で、怒りがあって、悲しかったのもあったのかもしれない。近隣に響く大きな音で喧嘩する両親とそれを止められずあたふたする祖父母に嫌気が差したんだと……明確な感情は覚えていないがとにかく家から飛び出した。


 近い内に訪れる完全な崩壊を何処かで察しながら。


 田舎には必ずと言って良いほど伝承があり、その伝承にはこれまた必ずといって良い程怪異が紐付けされる。
そして、決められた定めのように子供はその伝承を信じない。そして出会ってしまった時、なんで信じなかったんだろうと反省するのだ。


 一週間の行方不明。その間の記憶はごっそり無い。
誰かと一緒に遊んだような気もするし、一人で飢えを凌いでいた気もする。けれど命の危機のように頭に刻まれるような恐怖も何もなかった。無だったといえば正解に近しい。
あの日から自分の中で何かがすっぽり抜けたような、けれども何が抜けたのかもわからない。説明もしょうがない。『八尺』という名前だけ微かに残ったまま大人になった。









 闇のように感じていた世界がほんのりと光り付いて視界に闇以外が映るようになった。見えるもの、匂い、本当に微かに把握できる空間としてここは『家』だ。
どこか懐かしい香り、記憶としては古いもの。


「大智が帰ってきてくれた、家族になれる」


 闇の世界で愉しそうな声を出すのはきっと八尺様なのだろう。微かに見える白い服はワンピースなのだろうか。ただ、声と記憶の八尺は男だった。

 あやかしと呼ばれる存在には性別はないのかもしれない。出しやすい声が男の声で、着やすい服がワンピースなだけ、そう考えれば合点が行く点も多い。
この場所が何処なのかもわからないけれど、郷に入っては郷に従えというし、出れる確証もなければ何もないのだからただ無慈悲に死を待つより話をして最期を選ばせて貰えたらとても光栄なことではないか。


「……八尺様、あ、あのぉ、暗いので電気を……」

『大智はが暗いトコい嫌い?』

 八尺の言葉が重なって聞こえる。何故突然そうなったのかわからないが空間が歪んでいるのかもしれない。
キーンッと鳴る耳鳴りが数秒続き、頭を抱えるほどの痛みに襲われる。

 耳を手で覆いながら必死に落ち着こうと息を吐いてを繰り返す。あれ、どうやって息を吸うんだ?……ダメだ更に焦燥感に駆られてしまう。


『大丈夫、ゆっくり休んで。息は出来るよ』


 ふわりと全身を包み込む感覚、鼻が微かに香る花の匂いを感じ取れた時張り詰めていた緊張やらが溶けやっと数ヶ月ぶりに寝れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

バスケ部のイケメン先輩に誘惑されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 他にも書きたいのがいっぱいある。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

綿毛ぽぽ
BL
就寝後、毎日のように自分にキスをする男がいる事に気付いた男。容疑者は同室の相手である三人。誰が犯人なのか。平凡な男は悩むのだった。 総受けです。

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

処理中です...