実らなかった啜を

安馬川 隠

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不思議な家族

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 中学校三年生の梅雨。苗字が変わった。
母は僕、唐崎からさき奈央なおが産まれてすぐに父と離婚した。
父は根っからのダメ男だったらしく、女癖、酒癖共に悪く産まれてきた子供の顔を見た瞬間に「最悪」と言ったことで離婚を決意したんだそう。

 女癖の悪さ故に浮気の証拠はわんさかと必要以上に用意でき、父側の親族は離婚を切り出した母を「うちの息子を傷つけた」「酷い女だ」と罵詈雑言を浴びせたが、揃いに揃った不倫や家庭内で父が母にしてきたモラハラなどの証拠を眺め、最後には頭を下げ、養育費などの提示した条件を全て受け入れた上で謝ることしか出来なかったそうだ。


 母は再三奈央に言って聞かせた。
「男の人は気が強くなるの。女の人より自分たち男の方が強く優れているからってね。けれど奈央。覚えておいて。本当に強い人はね、人を蹴落としたり、侮辱したりなんてしないのよ。弱いやつほどよく吠え、群がるの」


 もう男になど頼らずに、奈央と二人で強く生きるんだと言っていた母が「再婚しようと思っているの」と夕食中に話を切り出した時の奈央の衝撃は計り知れなかった。

 母の再婚相手の長渡ながと しげるという人も母と同じように離婚歴のある人だった。
そして母と同じように子供を一人で育ててきたシングルファザーであった。しかも双子の男の子。
 話だけ聞かされてきた、長渡家との顔合わせの日ほど緊張した日はなかった。


 新しい父となる長渡 滋は有名企業の部長をしているらしく、綺麗に整えられているものの癖毛なのか毛先が緩く丸まった首元程度の長さの七三の髪。
 四十五になるとは思えない、整った顔。ゴツゴツとした男の人らしい手をした人だった。
 身長が百八十ほどあって、母の血を継いで百六十五ほどしかない奈央からしたらモデルのようにすら感じた。


「初めまして、奈央くんだね?君のお母さんと結婚したいと思っています。僕を父親として認められないだろうけれど、ゆっくりでも家族になれたら嬉しいな」


 滋が連れてきた双子の子供は、奈央より四つも年上で大学生なのだそう。


 双子の兄であるけいは、滋に似た癖毛なのかふわふわした髪をハーフアップにして、左目の涙袋にほくろがあった。優しそうな瞳の奥が淀んで見えない不思議な人という印象を奈央は強く受けた。


  双子の弟であるあまねも、癖毛でふわふわと毛先がうねっていた。髪を伸ばしているのか一括りに纏められた髪をお団子にして、下唇の右下の方にほくろがあった。奈央の中で周は眼鏡の印象が強く、双子でもこんなに違うのだなと二人を見比べてしまう。

 二人は一卵性だから顔似てるよね、ごめんね。分かりにくくて。と謝ってきたが奈央からしたらこんなに違いがあるのにわからなくなることはないと思い、思ったことをそのまま口にした。
 想定外の答えだったのか二人は同じように右手で口許を抑え何かを考えこんだが、すぐに優しい顔で「ありがとう、可愛い弟が出来て本当に嬉しい」と声を落とした。


 景と周は長渡家のあるあるなのだろうか、百九十近い背丈で奈央が目を合わせようとすると見上げなければならない。
大きい人に憧れを抱いていた奈央からすれば理想に近い存在で、新しい兄弟に戸惑いはあれど嬉しさがなにより強かった。
 羞恥心からそれを言葉には出来なかったが、拒絶しないことで精一杯の歓迎を表現したつもりであった。

 その表現の都度、景と周は右手で口許を隠す素振りを見せたが奈央は新しい家族の小さな癖を見つけたような気持ちに純粋に嬉しさを覚えていた。



 長渡の姓に変わって、数ヶ月が経った頃。
梅雨も明け、夏が始まり学生は夏休みへと突入し青春を満喫し、新たな気持ちで新学期へと心を変えていく時期になった。
 滋は、母に夏休みに仕事で家に居ない滋に代わりたくさん家事やらと慌ただしくしていただろうからと、会社で休みが取れたから家事を任せて気分転換に旅行でもしてくるといい。と提案し、母の行きたかった温泉地へ、母と母の友人とが行けるように手配した。

 会社から貰っていた社内割を活用できる機会だからと、組み立てた旅行計画は見るだけでとても充実していることがわかるほどだったようで、楽しそうに準備に勤しむ母を見た奈央はとても嬉しかった。

 一週間ほど家を留守にすると、少し寂しさや不安も混じるがシングルマザーの時に出来なかったことを謳歌できる期待の乗った声で母が言った「いってきます」に、奈央は心からの気持ちを込めて「楽しんできてね」と返した。
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