重愛の配信

安馬川 隠

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揺らぐ、拒絶

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 結論から言えばイベントはその後成功した。
大盛況で幕を閉じた、という言葉が似合う終わり方。
これがツーデイズの一日目とは誰も思えなくなるほど。

 トラブルの後、改めてナリは週刊誌の記事はデタラメでナリは一生ヨリ様のものであることを断言した。
映像に取り乱したことも、行方がわからなくなってからのことゆえパニックになった結果として言い、ファンもそれに納得するものが大半であった。


 あの電話の向こうにいる人間が誰なのか、何を言ったのかまったくわからなかったが流石に訊けるような雰囲気ではなかった。


 多くの人間が目にしてしまったナリという人間の素。
ギャップだと言うものもいれば、実はサイコパスなのではとネットの社会は荒れた。

 ただ、警察からも白と判断されたナリを犯罪の目で見るものは少なく。
ヨリが居なくなり心が病んでしまった、という結論になるまで意外と早かった。
世論とは本当に面白いほどに他人の言葉に流される。









 イベント終了後、翌日もイベントがあることからスタッフは設営の再調整。キャストやゲストは先に帰路を辿る。
 鯉布としての顔で「一緒に途中まで帰りませんか」と誘われては断る理由はナリになかった。

 途中まで、というのは駐車場互いに車で来ていたから車に乗りわかれるまでの本当に数分の事。

 それでも地獄のような沈黙と圧倒的な話を切り出せない雰囲気に二人以外の存在は逃げ出すようで。
そんな沈黙を破る言葉はナリとしてではない凪里の言葉。


「世里に動画を頼んだのはお前だろ」
「……知ってて、一発殴るだけに抑えてくれてたのかと思うと涙が出そうだ」


 凪里と厘都のギクシャク具合は言葉の刺の多さに比例する。
ただ、その皮肉や強い言葉の端々にすべての事情を知っているからこそのワードも含まれる。
「バレてないか」「重ねた」「到達は不可能」、一見意味のわからない会話でも世里が凪里の元に居ることがわかった人間が一人でもいてはならないのだから言葉の重さは想像より重い。

 車までの数分である程度の蟠りが解れたところで、ふと凪里は思いだしそういえばと言葉を続けた。


「『ゆり』という女を調べて欲しい、ヨリ様の妹を騙るじゃが芋だから。
イベント前に新設されたチャンネル、一本目の動画でヨリ様は都心部のとある家にて元気に暮らしている、と断言した。その断言が嘘であることを暴けるだけの情報が欲しい。
ただ此方の切り札を1枚たりとも減らすことなく、潰し切りたい。早めに出た釘を抜け」


 相変わらず人使い荒いなぁとため息をついたが、少し前に厘都自身も見付けていたから笑い事ではなさそうなことは理解できる。
『死んだことにまでされている行方不明の人間』が生きていると断言し、存在しない空間でファンの言葉を中継すると言い放った人間など明らかに正常な頭をしていない。

 しかしそれを正常でないと理解している、反論できる人間は世里の現状を知っている者。
つまり匿っているか誘拐したか、はたまた命を奪った人間でなければわからない事実容易に手など出せやしないし、出して何か粗探しでもされてはままならない。


「……ま、気になるから調べついででなら。じゃあね兄さん」
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