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揺らぐ、拒絶
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しおりを挟むファンの多くは知らないこと。
NARIこと、凪里の喋り口調は基本的に「ね」で切れる。
まるで小さい子を慰めるように語尾が柔らかく、そして少し問うかのように音が上がる。
この喋り方だからこそ、癒されるや見た目に反して可愛いと評価を受けているといえば良い話なのだが。
イベント後のSNSの荒れ具合を世里は至って冷静に見ていた。
そして同時に諦めも上手い具合についたといえる。
初めてファンの目の前で取り乱したNARIを多くのネットニュースは取り上げてファンたちも憶測に沸く。
理由が単純に『監禁している筈のヨリが目の前に映っていること』だなんて予測があっても折られるばかりで有力候補にすらあがることはない。
それに、付随するかのように現れ関連付けられ始めたもう一つのニュース。YOriの妹を騙る配信者の存在。
存在は凪里が知った少し後に知ったが、妹など存在しない世里として中々に興味深い人間だとは思った。
自分はYOriに公式に妹と認めて貰い活動している、と死人に口なしな状態をうまく利用した売名行為。
今もYOriとは連絡を定期的に取り無事であることは確認している、と人が群がるであろう予測とそれに対する言葉の切り返しの多用さには敬服するほど。
よくもまぁ、嘘をここまで並べあげられるものだ。
『都心部の』此処が何処かもわかっていないのに『元気に暮らしている』以外の言葉は真っ赤な嘘だ。
ただ、なぜだか世里の過去の話しは合点や記憶にあることを話す彼女に底知れぬ違和感を覚えた。
イベント終了より二時間ほどが経ち、凪里が世里の待つ家へと帰宅した。
数日前だったらあり得ない世里のお迎えには心臓が鷲掴みにされる感覚を覚える。
「おかえりなさい」「ただいま」と言葉を交わせば今までのギクシャクしていた心すら溶けていくようだった。
セットされた髪などから漂う他の人間の匂いに少し目線を下げれば焦ったように「すぐにお風呂入ってくるのでリビングで暖かくして待っててね」とイベント後にシャワーを浴びてから来ることも出来ただろうにと、本当に急いで帰宅してくれたことへの嬉しさが募る。
「話がしたい、もうすれ違うことだけはしたくない」
配信を見ていて、ヨリからのメッセージが流れる前。
ナリは確かに週刊紙のプロポーズか、というのを否定した。しようとしたところで映像が始まったようなものだったが。
それに、配信が終わりきっと動転しているであろうナリでは電話を取らないと想定し厘都に掛けた電話で言われた、貴方しかいないんだという言葉。
ちょっと前の自分だったら信じきれないと落ち込んでいたかもしれないが、今なら。信じられる信じられないより信じたい。
シャワーから出てきたナリは驚くことに全裸でしかもびちょびちょのままリビングに出てきた。
「早く話がしたくて、着替えを持ってくるのを忘れて……」と恥ずかしそうに言う彼を見て呆れは何処にもなく、仕方ない人だなと幸福感すら感じて服を取りに動いた。
ヨリチョイスの家着はナリとしても誇らしいものがあるらしく例えどんなカラーでも笑顔で着れると断言した。
ヨリは自分が今着ているキノコの刺繍の入ったTシャツとモコモコのパーカー、ナリの公式グッズのスエットを渡した。世里とペアルックだと喜び騒ぐ男が先程まで数万人に囲まれていたとは誰も思わない。
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