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始まりました、愛のお時間
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しおりを挟む初めて配信という世界に踏み込んだのは、余りにも周りに興味が出なかったから。多くの人が画面に目線を置いたまま、そんな視線の先はどんな世界があるのかと。
世里と出会えたこと、今という現状があるからこそやって良かったと言えるが、やっている最中は本当に息が出来ない世界だと強く感じていた。
配信者になった途端、プライベートが存在しなくなった。常に動画を撮り編集する、それだけで数日は掛かるのに編集し届ける動画は三十分にも満たなかったりする。
努力とそれに見合う結果はどれだけ続けているかではなく、どれだけ世のニーズに合うかどうか。凪里の場合はルックスの良さとたまたま流行に乗れ新しい流行に一役かえたことで人気になれたが誹謗中傷は留まることを知らない。好意も、プライベートが仕事の凪里にとって苦痛でしかなかった時期もある。
『NARIってファンの子とっかえひっかえでヤったら捨てる最低な男』なんてガセで付いた言葉を払拭する機会にも恵まれず、これは消えることの無い傷になるんだろうなとさえ考えていた。
YOriが現れ、心の支えになった時初めて始めた頃の皆が画面に食い付くように見ているその気持ちが理解できた。
今の生活はまるで夢のようだ。
家に帰れば世里がいる、それだけでも幸せなのに世里はまだストーカーの時の癖が抜けずに凪里が家を空けていると部屋に入りゴミを漁る。定期的に仕事の仮眠ベッドに潜り込んでは幸せそうに横になる。部屋のあちこちについている盗撮カメラや盗聴器に気付いては自分も付けたいのにと爪を噛む。
それら全てが愛しくて、世里にならすべての人間関係を晒して何もかもを独占してほしい。凪里という人間の選択肢を全て選び人生を壊してくれとさえ願ってしまう。
ペッドに沈み行く身体が触れ合えば、互いが互いに溶けて混ざり合うような幸福な時間もある。
男同士で妊娠することはないのに、世里は定期的に凪里の種を求めて懇願する。それすら愛しくて。
共に暮らし始めて半年、嫌なところも好きなところも改めて見えてくる。
家から一歩も出さないで囲うように閉じ込めた世里もその生活に慣れ、自ら出ようと模索することもなくなった。
「もし大変なら編集手伝う?」
そう言って貰えたこともあったが、世里が手をつけた者を不特定多数に見せるなど苦痛でしかなかった為泣く泣く断った。
出来るのなら、世里は俺の手の中にいると世間に公表したい。あのYUriとかいう偽物にも一泡吹かせられる。
「……世里と対等で居たいのに、全部独占して奪って隠して誰にも見つからない所に隠してしまいたいと本心が言ってるんだ。愛想尽かされても離してあげることすら出来なくなった俺を赦して」
凪里としては世里に出会う前の事など忘れてしまった。
日常が世里であり、死すらも凌駕する執着心なのだ。
独り言のように疲れて寝ている世里に話しかける凪里の瞳は悲しげに揺れていて、言葉がうまく出てこない。
「……世里が二度と外に戻れないようにするには……」
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