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番の拷
拷の鎖へと
しおりを挟む私には、好きな人がいました。
とても柔らかな表情をする男の子です。
バース性がなければ私は彼に告白をするつもりでした。告白をすることを許されると思っています。
けれど、私はオメガで彼はベータであるから。
『運命の番』というものは恋愛感情とは一線違う世界にある本能的に求め合うパズルのピースのようだと先生が言っていました。彼とは嵌まり合うピースではない。
好きな人に番がいることは最初から知っていた。
央木高等学校に入学して私を初めて助けてくれた彼はαに暴力を振るわれた。髪を鷲掴みにされる、も立派な暴力。そんな暴力を暴力で圧倒した凄く匂いの濃いα二人が彼を『俺の番』と呼んでいた。
最初から脈なんて無いと思っていたのに彼は私に笑いかけてくれた。話をしてくれた。オメガは臭いと罵られ続けてきた世界で私の匂いを嗅いで臭くないと断言してくれた。
嬉しくて、好きになるまでに時間はかからなかった。
「…俺はね、誰かを好きになることも好きだと言ってもらう資格もないんだ。Ω以下だから。
ずっと思ってきた、Ωでもないのに季秋に統はどうして俺をってね。何者にもなれない無能なんだ」
彼が悲しそうにそう話すのを見てきた。
そんな時に体育祭で起きた大きな事件。先輩やらを含む数人がベータへの暴行、α同士の暴力沙汰。
他人事で聞けばお騒がせな、と一蹴していたことでも近く関係していたことでは無事を祈ることしか出来なかった。
「俺は君が嫌いで、君は俺を怖がっているのにどうして声をかけたの?」
私の回答は模範解答だったと思う。
救えると強く思うので教えた。それだけで、私を救ってくれた彼が助かり笑えるのなら苦手なんて克服出来る。
好きという感情は捨てずとも彼を、彼らを応援するべきだと腹を括った。
彼への想いを捨てきれたわけではない。
それでも前には向いて歩いて行かなければならなかった。
見ないように避けて気付いた時には三人仲睦まじい姿を見せていた。心では嬉しい反面何処か寂しかった。
「大丈夫よ原さん。若いうちの恋ってね、これからの道のりで必ず背中を押してくれる原動力になるわ。私の同級生にも凄く悩んで悩んで…ってした後で幸せになった子も居るし。私の世代はバース性に関してはトラブルが多かったから」
保険医の継枝は原の背中を押してくれた。そして保健室の本棚にあるバース性の回顧録を見ても良いよと声をかけた。
本当に気持ち程度の興味で手に取ったファイルにはイレギュラーが三件生まれて騒ぎとなったと付箋で貼られた『二十八期生』の文字。
ペラペラとめくり、過去の流れを見て原は好きな彼とその彼の二人の番が上手く行くことを確信した。
『二十八期生、八月朔日と京のαカップルが本日正式に番認定された!』
『卒業後………』
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