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§ それは、ホントに不可抗力で。

08

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「なんで牛丼屋なのよ?」

 話の続きをするために、夕食を一緒に取るのはいい。
 だが、なぜ、それがここなのだ。

「なんで、って……、会社と俺の家の間には、この牛丼屋とその隣のコンビニしかないから、仕方ないじゃないか。それに、牛丼食いたかったしさ」

 それは、あんたの都合だろう。私はべつに、牛丼を所望してはいないのだよ。

「こんな所じゃ話もできないでしょ? だいたいさ、話の続きするから、晩御飯一緒に食べるんじゃなかったの?」
「話は家に帰ってからすればいいだろう?」
「家? 私の家はこっちの方角じゃないんですけど?」
「俺の家はこっちだ」

 なんなのこの男。ムカつく腹が立つ頭にくる。

「大盛り並お新香サラダに豚汁二丁お待ちっ!」

 箸箱から怒りに任せ乱暴に取り出した割り箸を逆手に握りしめたところで、尊お待ちかねの牛丼がやってきた。
 けっして牛丼の気分ではない。気分ではないが、空腹には勝てぬ。とりあえず食べるとしよう。

「お新香は私!」
「ダメ、俺の」
「じゃあ半分」
「サラダはおまえ食え」
「全部はいらない、半分」

 全面ガラス張りの外に面した牛丼屋のカウンターテーブルで、会社の御偉いさんと総務課の平社員が並んで牛丼を掻き込み、ひと皿のお新香とサラダを奪い合うシュールな光景。

 誰かに見られたら、どうするんだこれ。
 こいつはそんなの全く気にしないのだろうけど、私の面の皮はそこまで厚くない。

 街路樹が風に煽られ風音が店内にまで聞こえてくる。台風の進路はどうなっているのだろう。雨はまだ降りだしていないが、だいぶ風が強くなってきた。

「ねえ、尊の家ってどこ?」
「俺の家? 近いよ。そこの角曲がって五分くらい行った所」

 それはつまり、会社を挟み、私の家とは反対方向。このままこいつの家に着いて行ったら、帰りは二十分以上歩かなければならない。

 テーブルに備え付けの紅生姜を丼に足しながら考える。
 どうしよう。話は別の日にして、やはり帰るべきか。

「あのさ……」
「雨が降りだす前に、さっさと食って帰るぞ」
「あ?」

 ニヤッと笑った美しい顔が黒い。やはり、私に選択肢はないらしい。

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