それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ 墨に近づけば黒くなる。

11

 尊の前で愛想の良かった佳恵の顔色は、玄関ドアがパタンと閉まったとたんに豹変。正面から私を見据えるその眼光は、直視を躊躇うほどの鋭さ。無言の威圧に気圧され、私は崩していた膝を直し居住まいを正した。

 そして、当然のごとく、三年前の尊との出会いから、いま現在の状況にいたるまで、すべてを洗いざらい事細かに白状させられる羽目に。
 ささやかな抵抗として、できる限り話をかいつまみ、できるかぎりのらりくらりと話を逸らすべく試みはしたが、それらは所詮、無駄なあがきでしかなかった。

「つまり、あんたと小林さんは、三年前に行ったラスベガスで、衝撃的に恋に落ちその場で結婚……」
「はい。あの発言よろしいでしょうか?」
「なに?」
「えっとですね、衝撃的ってほどでは」
「却下。それで、あんたがうっかり携帯を便器に落としてダメにしたせいで、生き別れに……」
「いや、それは不可抗力だから……」
「却下。そんなの不可抗力って言わない。それから、三年のブランクの後、運命の再会を果たし……」
「運命なんてそんな……偶然だよ、偶然」
「あんたねぇ、いいかげんにしなさいよ? ひとがせっかくまとめてあげてんのに!」
「……スミマセン」
「まったく……。こんな重要なことを私に隠してたなんてね。親友が聞いて呆れるわ」
「いや、その、隠してたんじゃなくて、忘れて……ごめんなさい」

 反省の姿勢を示すべく、背を丸めてうなだれるが、重い空気に耐えきれず上目遣いに佳恵をちらっと見上げれば、即座に怒鳴りつけられる。

「なによ! その顔はっ!」
「……スミマセン」

 シュンと俯いて佳恵の沙汰を待つ。足は痺れすでに感覚も無いが、いまはそれどころではない。微妙な空気の流れるこの居心地の悪い時間を、どうやって切り抜けるべきか。頭はそれでいっぱいだ。

「ふぅ……。まあ、いいわ。歩夢のくせに、上出来じゃない?」
「へっ?」

 耳を疑うその言葉。私のくせにとはかなり心外だが、上出来というそれはもしかして、褒め言葉なのか。

 頭の中で『上出来』がぐるぐる回る。顔を上げ、背筋をピンと伸ばして様子を窺う。頬杖をついた佳恵は、私の様子がおもしろくて仕方がないといった顔。なんだ、遊ばれていたのか。

「恋愛プロセスすっ飛ばしていきなり結婚って、合理的というか、無駄が無いというか、即断即決というか、衝動的というか……。ホント、小林さんって凄いひとだわよねぇ。まあ、あんたもあんただけど」
「……呆れてる?」
「そりゃあ、呆れもするでしょう? あそこは結婚も離婚も簡単にできるのはそうなんだけどでもねぇ……」
「え?」

 いま、なんて言った。

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