【R18】貴方の傍にいるだけで。

樹沙都

文字の大きさ
16 / 67
§ 露顕

03

しおりを挟む
 啓から一旦会社へ戻れとの連絡を受け、夕方、早めにオフィスを出た。

 ウチのような小さな会社では、客先常駐での仕事は珍しくもないが、やはり慣れない環境で見知らぬ人の中にいるのは神経を使う。戻るのは何日ぶりだろう。長く離れていたわけでもないのに、長年暮らした実家へ帰るような気分だ。

 会社へ戻ると早々、小夜が私の腰に抱きついてきた。

「瑞稀ぃー! 寂しかったぁー!」

 飼い主に捨てられた子犬のような半ベソで、私の顔を見上げている。

「おい青木! おまえ、なにやってるんだ?」

 啓は、呆れ顔で笑う。他のみんなも、このふたりは相変わらずばかをやっているとでも言いたげに、遠巻きにして笑っている。

 私だって寂しい。話したいこともたくさんある。客先常駐になってからというもの、ほぼ毎日残業で、平日は小夜と一緒に買い物や食事をする時間も取れない。その上、今は、松本亮もいる。平日ランチのお付き合いだけではご不満な彼に、近頃では貴重な週末までも占領されているのだ。

 今日は金曜日。明日は珍しく彼との約束もない。小夜ともゆっくり話ができるだろう。

「小夜、ごめんね。社長が夕飯奢ってくれるってさ。なんでも好きなもの食べさせてあげるから、それで許してくれる?」

 社長と奢りのセットで機嫌を直した小夜は、ニコニコだ。よしよしと小夜の頭を撫でながらちらっと目をやれば、啓がやれやれと笑っている。

「でもほら、夕飯の前に、一仕事終わらせちゃわなきゃ。ね?」

 仕事と聞いて、態とらしく不貞腐れた小夜の腕を解き、資料を取り出して会議テーブルに広げれば、戦闘態勢だ。進捗報告、変更部分を含む仕様と設計書の確認、作業内容の詳細確認に作業者への指示等々、変更されたスケジュールの再確認も含め、所要時間は二時間。メンバー全員で取り急ぎ必要な作業を一通り終えた。

「飯いくぞ!」

 啓の号令に、オフィスにいる全員が、そそくさと帰り支度をして外へ出る。

「あの、僕、お先に失礼します」
「奥さんがうまい飯作って待ってるんだもんな。俺たちと飯食う暇なんてないよなぁ」

 冷かしにみんながどっと声を上げて笑う。そう。彼はついこの間、結婚したばかりだ。

「寂しい者同士、今夜は飲みますよ!」

 羨ましくなんかない、と、誰かが気勢を上げ、それをまたみんなで笑う。

「じゃ、啓司さんと瑞稀先輩はラブラブだから、抜きってことでいいですね」
「よし、瑞稀。邪魔者は帰るぞ」

 啓が慣れた様子で私の肩を抱く。

 私と啓の関係を揶揄われるのもいつものこと。小夜を除く同僚たちはなぜか、私と啓が恋人同士だと思い込んでいる。

「社長が帰っちゃったら、お財布はどうなるの?」
「俺と瑞稀はデートだからおまえたちの食い扶持まではまわらないぞ」
「えええっ? それ困る~」

 割り勘なんて嫌だからね、と、誰かが言う。あははと大きな笑い声が廊下に響いた。今日は総勢六人で夕食会。新婚さんを見送り、わいわい賑やかに冗談を交わしながら、いつもの居酒屋へ入った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

処理中です...