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§ 天空碧
旭海の二
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「そもそも、自分が死んではじめて、霊魂の存在を認識したってのもなんだかな……」
そう。カイくんは、根っからのコンピューターオタク。大学院では何度説明されてもわたしにはさっぱり理解不能なコンピューターなんとかの研究開発に勤しみ、博士課程修了後には、そちら方面の外資系企業に就職を志望していた、超現実主義の理系男子だった。
そのカイくんが、幽霊だなんて——。
おっと、笑っちゃいけない。
「おまえ、いま、笑ったろ?」
「笑ってないよ……くっ……」
しかも幽霊なのに、ちっとも怖くないから、笑っちゃう。
「おい! 笑ってる場合じゃないんだぞ! どうするんだよこれから」
「どうするって言われても……わたしにわかるわけないでしょ」
「せめて死んだあとの霊魂がどうなるかくらいわかればなぁ」
「そんなこともわかんないの? 死んでるのに?」
「わかるわけないだろ? オレ、死んだの生まれてはじめてだぞ?」
「……そうだよね。わたしだって経験ないし——あ! そうだ。死んだあとって、閻魔大王のところで審判を受けて行き先が決まるって聞いたことあるけど?」
もちろん、テレビの心霊番組かなにかの受け売りだが。
「閻魔大王? 行き先? なんだそれ?」
「うーん。なんだっけな。そうそう、生前の行いで決まるらしいよ。天国とか地獄とか……生まれ変わるとか、かな?」
「それ、本当か?」
眉間の皺に疑わしいと書いてある。
「……たぶん」
「ふーん。たぶん、な。で? 地図やマニュアルもないし、レクチャーしてくれる奴もいなくて、どうやって閻魔大王ってのに会うんだ?」
「さあ?」
——そんなこと、わたしだって知るわけないでしょうが。
「それに……仮にそういうものがあったとしてもだよ? そもそもオレ、おまえから離れられないんだけど?」
「へ? なにそれ? どういうこと?」
「だからさ、オレ、ずっとおまえにくっついてるんだよ」
「ええっ? ずっと? いつから?」
——ちょっと待ってよ。ずっと? ずっとって?
「いつからかな? 死んでしばらくして……そうだな、葬儀のあとはまったく離れてないぞ。二十四時間片時も離れずくっついたままだな」
「うそ……」
「ホント」
「……で、でも。だったら、なんで夕べ突然に出てきたの?」
「知らない。おまえこそ、なんで突然オレが見えて話せるようになったんだ?」
「そんなこと。わたしにだってわかんないよ」
葬儀のあとからずっと一緒にいたと言われても、姿はおろか気配すら感じなかったのだ。それなのに、いまはまるで生きているときと変わらず、顔を見て会話が可能って。
「オレだってわからない。あ、でも、もしかしたら……おまえだけオレが見えて話せるのと離れられないのは、関係がある、とは、考えられないか?」
「うん、そうだね。関係あるかも。でも、なんでわたしとだけなんだろう?」
うーん、わからん、と、額を突き合わせ、不確かな知識ともいえない情報を元に、いくら考えても堂々巡り。答えが出るはずもないわけで。
「ねえ、誰かに訊いてみるとかは? たとえば……ほかの幽霊さんとか?」
「幽霊? 周り見回してもそんなのいないし……あ?」
一瞬、なにかを思いついたのかキラッと瞳を輝かせたカイくんだったが、すぐにわたしから視線を逸らし、訝しげに空を睨んだ。
「どうしたの?」
「ひとりいる……オレが見える奴」
「え? 誰?」
「いや、あいつは……」
「誰よ? ねえ、なによ? もったいつけて。早く言いなさいよ」
カイくんの肩をつかんで揺さぶろうと伸ばした手が空を切って思い出す。そうだった。実態があるわけではないのだ。
「月さん……月老だ。霞海城隍廟で会った——あのとき、あいつはたしかにオレを見てた」
「月老……」
その名前を耳にした途端、浮かんだ確証に近い直感——あの人なら、わかるかも知れない。
「あれ? そういえば、月さん、って? 知り合い?」
「ああ。ウチの店の常連さんだよ。だけど、あの人はダメだ」
「どうして? 知り合いなんでしょう? あの人なら……」
「ダメだ。あの人はなんだか危険な感じがする」
「危険って……でも」
「まあオレは、べつにこのままでも不自由ないもんな。もういいだろ? 疲れたから寝る」
言い終わるや否や、カイくんはベッドに転がって瞼を閉じた。ムカつく。
「ちょっと! カイくん!」
——疲れたってなんなのよ? 幽霊のくせに!
わたしを無視して寝ているカイくんに、つかんだ枕を振り下ろした。
そう。カイくんは、根っからのコンピューターオタク。大学院では何度説明されてもわたしにはさっぱり理解不能なコンピューターなんとかの研究開発に勤しみ、博士課程修了後には、そちら方面の外資系企業に就職を志望していた、超現実主義の理系男子だった。
そのカイくんが、幽霊だなんて——。
おっと、笑っちゃいけない。
「おまえ、いま、笑ったろ?」
「笑ってないよ……くっ……」
しかも幽霊なのに、ちっとも怖くないから、笑っちゃう。
「おい! 笑ってる場合じゃないんだぞ! どうするんだよこれから」
「どうするって言われても……わたしにわかるわけないでしょ」
「せめて死んだあとの霊魂がどうなるかくらいわかればなぁ」
「そんなこともわかんないの? 死んでるのに?」
「わかるわけないだろ? オレ、死んだの生まれてはじめてだぞ?」
「……そうだよね。わたしだって経験ないし——あ! そうだ。死んだあとって、閻魔大王のところで審判を受けて行き先が決まるって聞いたことあるけど?」
もちろん、テレビの心霊番組かなにかの受け売りだが。
「閻魔大王? 行き先? なんだそれ?」
「うーん。なんだっけな。そうそう、生前の行いで決まるらしいよ。天国とか地獄とか……生まれ変わるとか、かな?」
「それ、本当か?」
眉間の皺に疑わしいと書いてある。
「……たぶん」
「ふーん。たぶん、な。で? 地図やマニュアルもないし、レクチャーしてくれる奴もいなくて、どうやって閻魔大王ってのに会うんだ?」
「さあ?」
——そんなこと、わたしだって知るわけないでしょうが。
「それに……仮にそういうものがあったとしてもだよ? そもそもオレ、おまえから離れられないんだけど?」
「へ? なにそれ? どういうこと?」
「だからさ、オレ、ずっとおまえにくっついてるんだよ」
「ええっ? ずっと? いつから?」
——ちょっと待ってよ。ずっと? ずっとって?
「いつからかな? 死んでしばらくして……そうだな、葬儀のあとはまったく離れてないぞ。二十四時間片時も離れずくっついたままだな」
「うそ……」
「ホント」
「……で、でも。だったら、なんで夕べ突然に出てきたの?」
「知らない。おまえこそ、なんで突然オレが見えて話せるようになったんだ?」
「そんなこと。わたしにだってわかんないよ」
葬儀のあとからずっと一緒にいたと言われても、姿はおろか気配すら感じなかったのだ。それなのに、いまはまるで生きているときと変わらず、顔を見て会話が可能って。
「オレだってわからない。あ、でも、もしかしたら……おまえだけオレが見えて話せるのと離れられないのは、関係がある、とは、考えられないか?」
「うん、そうだね。関係あるかも。でも、なんでわたしとだけなんだろう?」
うーん、わからん、と、額を突き合わせ、不確かな知識ともいえない情報を元に、いくら考えても堂々巡り。答えが出るはずもないわけで。
「ねえ、誰かに訊いてみるとかは? たとえば……ほかの幽霊さんとか?」
「幽霊? 周り見回してもそんなのいないし……あ?」
一瞬、なにかを思いついたのかキラッと瞳を輝かせたカイくんだったが、すぐにわたしから視線を逸らし、訝しげに空を睨んだ。
「どうしたの?」
「ひとりいる……オレが見える奴」
「え? 誰?」
「いや、あいつは……」
「誰よ? ねえ、なによ? もったいつけて。早く言いなさいよ」
カイくんの肩をつかんで揺さぶろうと伸ばした手が空を切って思い出す。そうだった。実態があるわけではないのだ。
「月さん……月老だ。霞海城隍廟で会った——あのとき、あいつはたしかにオレを見てた」
「月老……」
その名前を耳にした途端、浮かんだ確証に近い直感——あの人なら、わかるかも知れない。
「あれ? そういえば、月さん、って? 知り合い?」
「ああ。ウチの店の常連さんだよ。だけど、あの人はダメだ」
「どうして? 知り合いなんでしょう? あの人なら……」
「ダメだ。あの人はなんだか危険な感じがする」
「危険って……でも」
「まあオレは、べつにこのままでも不自由ないもんな。もういいだろ? 疲れたから寝る」
言い終わるや否や、カイくんはベッドに転がって瞼を閉じた。ムカつく。
「ちょっと! カイくん!」
——疲れたってなんなのよ? 幽霊のくせに!
わたしを無視して寝ているカイくんに、つかんだ枕を振り下ろした。
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