神様の縁結び〜台灣で挑む月下老人のおいしいミッション〜

樹沙都

文字の大きさ
18 / 50
§ 魯肉飯

任務の一

しおりを挟む
 どうやらわたしたちは、とんでもない誤解をしていたらしい。けれども、だ。

 命はひとりにひとつ。それを預かるなんて言われたら、死ぬんだな、と、思うだろう普通は。

 これ以上なく真剣なわたしに返ってきた月老の言葉は、はっきり言って、酷い。

 開口一番、極論に走っただの、早とちりだの、呆れるほどのばかだの、と、一方的に決めつけ、罵り、笑うなんて。
 わたしはまだなにも言っていないのに。そこまで言いたい放題される謂われはないと思う。うん。絶対にない。

「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」

 美しい顔面をくしゃくしゃにして、涙を流さんばかりに笑い転げている月老へ、恨みがましさをたっぷり込めた一瞥をくれてやる。

 どれだけ笑えば気が済むのか。いいかげん気分が悪くなってきた。

「私は命を『預けろ』と言ったまで。『取る』とはひと言も言っておらんぞ。ククク」

 まだ笑うか。

「いつまで笑ってるんですか! こっちは命を預けるって言ってるんですよ? なにをすればいいのか、早く教えてください」

 不愉快な気持ちをたっぷり音声に乗せると、笑い声がピタッと止まった。
 睨みつけるわたしを見た月老が、一瞬丸くした目をすぐに細めて、口角を上げ頷く。

「おまえのその度胸。気に入った。私の弟子になれ」
「はい?」

 友人とその家族の想いに応え死者と婚姻を結ぶ、情の厚さ。突然の怪奇現象に狼狽しながらも、あっという間に受け入れ馴染んでしまう、図太い神経。見ず知らずの相手に突然命を預けろと言われ、後先も考えずに決断するその、無謀さ。

 まことに素晴らしい、と、満足げに独り言ちる月老。

 これは——褒められているのか、はたまた、ばかにされているのか。どっちだ?

「月老! なんとか言ってくださいよ!」

 うむ。と頷いて、ニヤリと思わせぶりな笑みを浮かべた月老が、さらさらと茶壺へ茶葉を落とす。

「いつまで突っ立っているつもりだ? 座りなさい。茶を淹れてやろう」

 もともとそこまでのつもりはなかったのだが、との前置きをして話しはじめた月老は、もう一度はっきりと「林美鈴。おまえが私の弟子になることを条件に、阿海の魂を消滅から救ってやる」と、言った。

 月老の弟子になる。それは、月老の元で修行をし、ゆくゆくは月老に近い位を得ることらしいけれど。

 位ってなんだろう? 修行ってなにをするんだろう?

 月老の生業、婚姻紹介所を手伝えばいいのかと訊けば、まあそんなものだ、とお茶を濁され、詳細はそのうちわかると言われてしまえば、はいそうですか、と、受け入れるほかなく。

 命を預けると言った以上、その結果がどうであれ引き下がるつもりもないわたしは、多くの疑問を抱えながらも、黙って月老の要求を受け入れた。

「では、私の弟子(仮)のおまえに、重要なミッションを授けよう」
「はあ? あなたの弟子()ですか?」
「そのとおり。私の弟子()だ。これから授けるミッションをクリアできた暁には、おまえを正式な弟子にしてやる。心してかかるように」
「…………」
 ——ミッションだなんて。カッコつけちゃって。

「なにか言ったか? 小鈴」
「あ? いいえ、なんにも言ってません。ははは……」
 ——いまのってわたし、口に出したりしていないよね?

 ジロリと睨まれ、ぎくりと顔が引き攣った。とりあえず薄ら笑いを浮かべてごまかし、表情を引き締め真剣な振りを装ってみる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

処理中です...