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§ 魯肉飯
紅線の二
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「曉慧、これ?」と、言うが早いか、立ち上がった曉慧が「なんでもない!」と、雑誌とお守り袋と紅線を一纏めにし、テーブルの下へ片づけた。
「爸と媽が日本へ旅行に行きたいって言いだしてさ。しかも東京へ行きたいからよろしくねですって! ホント、私だって詳しいわけじゃないのに、急にそんなこと言われても困っちゃうわよねー。前回だってそうなのよ。突然、雪が見たいから北海道へ連れて行け、だったの。北海道って広いのよ。いいところ見繕って計画立ててねって丸投げされて、行ったら行ったで文句ばっかりだしもう散々よ。だから……」
「だから?」
まくし立てる曉慧の目をじっと見る。これ以上はごまかしきれないと観念したのか、声のトーンが徐々にか細くなっていく。終いには諦めたように口を閉ざし、床に腰を下ろすと、力なく笑いため息をついた。
「笑っていいわよ」
「……笑えないよ」
「笑えばいいじゃない。自分から断ったくせに未練がましいことしてるって」
「曉慧……」
「冗談よ。終わった話に未練なんてこれっぽっちもないんだから。ただね、彼の生まれ育った場所をちょっと見てみたいなーって思っただけよ」
「ちょっと見るだけ? じゃあ、それはなに?」
重ねられた雑誌に挟まる紅線に、ちらと視線を向けたあと、再び曉慧を見据えた。
「小鈴ってば、意地悪ね。そこまで言わせる? あーわかったわよ。白状する。紅線はね、鎌倉の海にでも捨ててこようと思ったのよ。悪い?」
「紅線ってたしか……」
「そのとおり。良縁が成就するまでずっと持っておくお守りなのは知ってるわよ。だけど、なんて言うか……ここらで一回リセットしてみようかなーみたいな?」
「だからって、いくらなんでも捨てたらまずいでしょう?」
何気ないふうを装う曉慧はそのじつ、かなり重症のようだ。
真剣に何度も月老に祈りを捧げ、肌身離さず身につけていたお守りの紅線を、篠塚さんの故郷である鎌倉の海に捨てる。
一回リセットなんて冗談めかしているけれどそれは、二度と恋愛をしない決意表明以外のなにものでもない。
「私はね、欲張りなの。欲張りだから新しいものもほしいけどさ、それよりなにより積み上げてきたものも捨てられないんだ。これから先にあるかも知れない不確かなものと、いま手のなかに確実にあるもの。どちらかしか選べないんだったら、確実にあるものを選択するしかないじゃない」
「嘘ばっかり。曉慧は欲張りなんかじゃないでしょ」
自分に言い聞かせるように言いわけをする曉慧を見ているのは、辛い。
「いやねえ、あんたが泣きそうな顔してどうするのよ? 私は大丈夫。もうスッパリ割り切ったんだから。心配しないで。ね?」
「心配するなって言われても、曉慧のことだもん。心配するに決まってるでしょう」
「うん。そこは感謝してるわ、小鈴」
「べつに、心配するのはわたしの勝手だし。でもさ、割り切ったのなら、どうして篠塚さんの故郷へ行きたいの? やっぱりわたしにはわかんないよ。本当は忘れられないからいくんじゃないの?」
「忘れるわよ。だけどさ、思い出くらいあったっていいじゃない」
泣きそうな顔をしているのは、曉慧のほうだ。
「ねえ、もう一度やり直せないの? 篠塚さんだって本当は……」
「小鈴の言いたいことはわかってる。でもお願い、もう言わないで。決めたんだもん」
「曉慧が決めた理由も変えられないのも知ってるよ。知ってるけど、このまま離れちゃって、後悔しないの?」
「後悔? する、だろうね。でも、それでもいいのよ」
薄い笑みを浮かべた曉慧の顔は、泣き顔よりも酷く歪んで見えた。
「爸と媽が日本へ旅行に行きたいって言いだしてさ。しかも東京へ行きたいからよろしくねですって! ホント、私だって詳しいわけじゃないのに、急にそんなこと言われても困っちゃうわよねー。前回だってそうなのよ。突然、雪が見たいから北海道へ連れて行け、だったの。北海道って広いのよ。いいところ見繕って計画立ててねって丸投げされて、行ったら行ったで文句ばっかりだしもう散々よ。だから……」
「だから?」
まくし立てる曉慧の目をじっと見る。これ以上はごまかしきれないと観念したのか、声のトーンが徐々にか細くなっていく。終いには諦めたように口を閉ざし、床に腰を下ろすと、力なく笑いため息をついた。
「笑っていいわよ」
「……笑えないよ」
「笑えばいいじゃない。自分から断ったくせに未練がましいことしてるって」
「曉慧……」
「冗談よ。終わった話に未練なんてこれっぽっちもないんだから。ただね、彼の生まれ育った場所をちょっと見てみたいなーって思っただけよ」
「ちょっと見るだけ? じゃあ、それはなに?」
重ねられた雑誌に挟まる紅線に、ちらと視線を向けたあと、再び曉慧を見据えた。
「小鈴ってば、意地悪ね。そこまで言わせる? あーわかったわよ。白状する。紅線はね、鎌倉の海にでも捨ててこようと思ったのよ。悪い?」
「紅線ってたしか……」
「そのとおり。良縁が成就するまでずっと持っておくお守りなのは知ってるわよ。だけど、なんて言うか……ここらで一回リセットしてみようかなーみたいな?」
「だからって、いくらなんでも捨てたらまずいでしょう?」
何気ないふうを装う曉慧はそのじつ、かなり重症のようだ。
真剣に何度も月老に祈りを捧げ、肌身離さず身につけていたお守りの紅線を、篠塚さんの故郷である鎌倉の海に捨てる。
一回リセットなんて冗談めかしているけれどそれは、二度と恋愛をしない決意表明以外のなにものでもない。
「私はね、欲張りなの。欲張りだから新しいものもほしいけどさ、それよりなにより積み上げてきたものも捨てられないんだ。これから先にあるかも知れない不確かなものと、いま手のなかに確実にあるもの。どちらかしか選べないんだったら、確実にあるものを選択するしかないじゃない」
「嘘ばっかり。曉慧は欲張りなんかじゃないでしょ」
自分に言い聞かせるように言いわけをする曉慧を見ているのは、辛い。
「いやねえ、あんたが泣きそうな顔してどうするのよ? 私は大丈夫。もうスッパリ割り切ったんだから。心配しないで。ね?」
「心配するなって言われても、曉慧のことだもん。心配するに決まってるでしょう」
「うん。そこは感謝してるわ、小鈴」
「べつに、心配するのはわたしの勝手だし。でもさ、割り切ったのなら、どうして篠塚さんの故郷へ行きたいの? やっぱりわたしにはわかんないよ。本当は忘れられないからいくんじゃないの?」
「忘れるわよ。だけどさ、思い出くらいあったっていいじゃない」
泣きそうな顔をしているのは、曉慧のほうだ。
「ねえ、もう一度やり直せないの? 篠塚さんだって本当は……」
「小鈴の言いたいことはわかってる。でもお願い、もう言わないで。決めたんだもん」
「曉慧が決めた理由も変えられないのも知ってるよ。知ってるけど、このまま離れちゃって、後悔しないの?」
「後悔? する、だろうね。でも、それでもいいのよ」
薄い笑みを浮かべた曉慧の顔は、泣き顔よりも酷く歪んで見えた。
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