女王の後宮

六菖十菊

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歴史的評価

038

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長き月下国の歴史を学ぶ際に論争の火種となる箇所がある。

女王鏡花の治世である。
僅か七年しかない短い期間にも関わらず論ずるものによって【極夜期】と【白夜期】と呼び名が変わる。

【極夜期】だと論ずるものは、女王鏡花は傲慢で冷酷、思い付きのような政を繰り返し国は乱れ混沌の原因を作った。
また即位四年目に隣国から攻め込まれ戦に勝ったにも関わらず戦争賠償金を最低限に抑えたことに国内で不平不満が隘れた。
また差別対象だった白家を重用した事も女王の寵愛深き男が白家の者だったからで偏愛と平等性に欠ける行いが目立ったとされる。
女王の後宮という歓楽的な場所を設けたにも関わらず、世継ぎを産むこともせず生涯独身を貫いた。
その為、王制の崩壊を起こし民主制の流れへと繋がった。
それにより国は乱れた。
淫乱で傲慢な稀代の悪女の治世が七年と短いのは暗殺されたからではないかと見ている。

また【白夜期】と論ずるものは女王の政策の多くはその時には実りはしなかったが、のちの国家の礎はこの時代に作られたと指摘する。
この礎がなければ月下国の発展は百年違っていたと豪語する者もいる。
女王の治水工事や物流を盛んにした道路政策は洪水や飢饉など多くの災害に直接的にも間接的にも恵みをもたらした。
また女王の白家優遇はこれまでの月下国の歴史だけを見れば考えられないものかもしれないが、白家無くして隣国との戦には勝てなかった。
また戦争賠償金もあれ以上を求めれば更なる争いの火種となったと示唆する。
御子は望めなかったとあるが即位二年、懐妊の兆候を記す書があるが真偽は分からない。
流産したとも、また王政廃止のために手離したなど憶測に過ぎない。
その父親は女王の影として付き従った黒家の者だと考えられるが、その男が王配に選ばれなかった事実を考えると可能性は限りなく薄いと思われる。
【早すぎだ政策】と女王の政策を呼んでいる。
この現代では当たり前の政策がこの時代では何一つ受け入れられなかったと白夜期と呼ぶ者たちは見ている。
彼女を傲慢で冷酷と喩えるのは強さと正しさを嫌厭した多くの当時の権力者等だろうと。

母は幼い頃に身罷られ、父王も十八歳で崩御。
以降、身寄りのない孤独の女王が誕生する。
女王には子供もおらず、
夫も持たず、
生前の政は評価されず、
女王の人生は過酷のものだった。

その所為か──女王の治世は僅か七年で終わる。
享年二十五歳。


影のように付き従っていた黒家の男も同様の時期に表舞台から姿を消し歴史書からは窺うことは出来ない。
女王の死因は記されていない。
暗殺されたとも病死とも──自死とも言われている。
けれど、もう一つある。

女王の美しさと神秘的な威厳に魅せられた人々は、
この世界の人間ではなかったのではないと──月に帰ったのではないかと。
そう──御伽草子のように伝えられている。
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