女王の後宮

六菖十菊

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極夜

039

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後宮から白夜が消えた。
当時は女王の寵愛を奪われた黒雨の犯行だと思われていたが元神官庁・黄洸が犯人だと断定された。
王家主義の黄洸は王家に白家の血が混ざることを遺憾に思っての犯行だと思われる。
黄洸と白夜どちらも探し出す事は出来ず事件は迷宮入りとなるが女王は白家に深い謝罪と敬意を示した。
一方の白家も女王との約束通り二度と女王へ男を送り込もうとはしなかった。
黒家はここぞと躍起になったが女王は今までの駒のように扱い易い女王ではなくなっていた。
女王の影と言われた黒雨も、それまでは黒家にも情があるようにも思えたが一切の女王主義者へと変貌した。

──女王の後宮は閉鎖され毎夜の伽はなくなった。
女王は頑なに付けなかった侍女を付き従え、
黒雨が女王の閨に呼ばれることもなくなった。
けれど黒雨は毎夜、女王の部屋の扉の前で護衛とし立ち続けた。
女王の寵愛を受けていた黒雨との関係が主従でしかない関係になってしまったのは白家の白夜の失踪が原因とされる。
黒雨の寵愛は二年と長く、白夜との期間はあまりに短い。
それでも女王の愛は白夜に捧げられたかのように最期まで女王の閨に他の男が入ることは無かったという。
その黒雨の姿を哀れに思う者は
〈女王の心は剣の刃のように冷たい〉と比喩し蔑み恐れた。

その二人が唯一──主従を超えた関係を見せたのは女王が所望する黒雨の剣舞を眺める時だったと侍女は語る。
庭園で舞う黒雨の黒い衣と月光の光が一層に幻想的で美しかったと。
その剣舞はまるで神聖な儀式のようで──剣舞は黒雨の魂を削り、織り交ぜてあるかのようだったと。
女王もいつもの女王とは違い──まるで少女のように見えたと。


「陛下──」

跪く黒雨が取り出したのは滑らかな布地ので銀色に輝く細く柔らかな束。
その銀糸の束は赤い組紐で結ばれている。
黒雨の献上の品を女王はなかなか手には取ろうとはしない。

「あの時──わたくしは傷一つ付けず投獄せよと命じた筈」

「どんな罰も受け入れる所存です」

黒雨は品を下げず、只管に女王が手に取るのを待っている。
その──銀糸のような髪の束を受け取る。

「──下がれ」

一礼し黒雨が下がったのを見届け女王は再び、銀糸の束を見る。

「──白夜──」

──女王の泣き顔を見る者はもうこの国にはいない。





※もう少し続きます。
よろしくお願いします。
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