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枢要
036 ハル
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湖都子に会えないのは寂しいけれど、今のうちに此方の問題を片付けたい。
裏方仕事の僕が仕事を辞めて迷惑を掛けるのは同僚たちだけれど、突然の人材不足は多々ある。
またかと思う程度だろう。
今回の政略結婚もどきの首謀者は母だ。
父はどう思っているのか。
会いたいとは思わないけれど確認が必要だ。
……湖都子が僕の家族を死んだものと思ってくれれば悩まなくて済むのに……っと、ダメだ。
湖都子に変われと押し付けるのは彼女を認めてない事になる。
家族を捨てられず献身的な彼女だから好きになったのに自分の都合が悪い時だけ認めないのは卑怯だ。
そう思うけれど──溜め息が出る。
海千山千の両親と朝宮千夏を説得する術を僕は持たない。
それに──海都の存在も気になる。
ここまで何も言ってこないのも不気味だ。
これらの問題をある程度簡単に片付けられる方法がある。
あるけれどその為に──
着信音に見れば父からだ。
アポが通ったのか、直接掛けてくるのは珍しい。
「もしもし、あぁ…今から行くよ」
「久しぶりだな」
暫く見ないうちに少し──痩せたのか小さく感じる。
母は相変わらず大きく見え威厳に満ちていたのに。
「用がなきゃ来ないよ」
「お前はそうだろうな」
「で、朝宮千夏の事だけれど。父さんは何処まで知ってるの?」
「朝宮千夏?あの北進のか?知らん訳ないだろう。あんな講師がウチに来れば願ったりだ」
──この様子では知らないのか。
では、母の策略だ。
「僕は付き合っている女性がいて、その人と結婚を考えてる。けれど母が朝宮千夏と僕の結婚を望んでる。それが叶えば塩野義ゼミに朝宮千夏を迎え入れられるらしいよ。父さんはどうする?母と一緒に僕の恋路の邪魔をするのかい?」
黙って此方を見ている父が椅子の背もたれにもたれ掛かる。
「弥生なんて放って置けばいいだろう?いつものお前なら俺や弥生が何をしても興味無いだろうに」
「そうはいかない事情があるからここにいる」
「朝宮千夏はいい女だぞ。頭も良く稼ぐ力もありクールビューティーと言われているが実際は授業中にも柔らかな笑顔を偶に見せ生徒を和らげる。容姿もいい。その上、両親の役にも立つことが出来るなんて最高の結婚相手だと思うが?ん?最高だと思わんか?」
「思っていたらここには居ませんよ。僕には恋路を邪魔する障害物にしか見えない」
「──お前のそう言うところは良くないぞ。敵認定すれば相手は敵になる。味方に引き入れられないのはお前の力不足だ。それに──こんなことくらいで障害になる程の貧弱な恋をしているのか?」
「力不足なのは認めます。では──貴方は僕の味方になる可能性があるのですか?母も朝宮千夏も僕も誰もが自分の願いを叶えたいだけです。ただその願いが違うだけだ。求める願いが相いれないのなら袂を分つしかないでしょう」
「……馬鹿だなお前は。もう一度考えろ。相手はどこに立っている?お前は?自分の立ち位置はどこだ?それを考えてからもう一度ここに来い」
手を振り追いやられる。
「──どうした?出ていけ」
「時間が無いんです。こんな事に──使える時間は僕には無い」
「奇遇だな。私にも無い」
「──貴方達はいつもそれだ。忙しいと──自分の興味のあるビジネスにしか時間を費やさない」
冷ややかな瞳で見返される。
その瞳に見覚えがある。
あれは──僕の瞳だ。
「どうした?自分の言葉に何を思った?」
「お前の興味があるものが何か知らんが、ハルお前こそ、それにしか時間を費やさない。お前の事を好きなのに見向きをされない者の気持ち、障害物にしか思われない者からすれば……さぞ憎らしかろうな。出ていけと言われどう思った?弥生の話を朝宮千夏の話を聞いてやれ。お前の弱味を見せてやれ。人はお前が思うほど、冷徹にも優しくもなれない。賢くもない。揺さぶられた感情が一番の原動力だ」
父の言葉は──意外だった。
感情論なんて通じない相手だと思っていた。
「誑かせと?」
皮肉な笑みを見せる。
「捻くれてるなぁ……お前は不憫を通り越して不安しかない」
母にもビジネス以外にも考えがあったのだろうか?
朝宮千夏の話を聞き、誠意ある言葉で対応しただろうか?
湖都子を手に入れるチャンスを逃さまいと二人を蔑ろにしたのは確かだ。
「もう一度、話をしてきます」
「そうしろ。こんな事も分からないようだと結婚したい彼女とやらに逃げられるぞ。余裕の無い男は格好悪いからな」
「──余裕なんて──どうやったら出来るんだ」
母と朝宮千夏に──自分がどれだけ情けない恋をしているか話してみようか。
こんなにもダサい男は願い下げだと簡単に話が纏まりそうだ。
裏方仕事の僕が仕事を辞めて迷惑を掛けるのは同僚たちだけれど、突然の人材不足は多々ある。
またかと思う程度だろう。
今回の政略結婚もどきの首謀者は母だ。
父はどう思っているのか。
会いたいとは思わないけれど確認が必要だ。
……湖都子が僕の家族を死んだものと思ってくれれば悩まなくて済むのに……っと、ダメだ。
湖都子に変われと押し付けるのは彼女を認めてない事になる。
家族を捨てられず献身的な彼女だから好きになったのに自分の都合が悪い時だけ認めないのは卑怯だ。
そう思うけれど──溜め息が出る。
海千山千の両親と朝宮千夏を説得する術を僕は持たない。
それに──海都の存在も気になる。
ここまで何も言ってこないのも不気味だ。
これらの問題をある程度簡単に片付けられる方法がある。
あるけれどその為に──
着信音に見れば父からだ。
アポが通ったのか、直接掛けてくるのは珍しい。
「もしもし、あぁ…今から行くよ」
「久しぶりだな」
暫く見ないうちに少し──痩せたのか小さく感じる。
母は相変わらず大きく見え威厳に満ちていたのに。
「用がなきゃ来ないよ」
「お前はそうだろうな」
「で、朝宮千夏の事だけれど。父さんは何処まで知ってるの?」
「朝宮千夏?あの北進のか?知らん訳ないだろう。あんな講師がウチに来れば願ったりだ」
──この様子では知らないのか。
では、母の策略だ。
「僕は付き合っている女性がいて、その人と結婚を考えてる。けれど母が朝宮千夏と僕の結婚を望んでる。それが叶えば塩野義ゼミに朝宮千夏を迎え入れられるらしいよ。父さんはどうする?母と一緒に僕の恋路の邪魔をするのかい?」
黙って此方を見ている父が椅子の背もたれにもたれ掛かる。
「弥生なんて放って置けばいいだろう?いつものお前なら俺や弥生が何をしても興味無いだろうに」
「そうはいかない事情があるからここにいる」
「朝宮千夏はいい女だぞ。頭も良く稼ぐ力もありクールビューティーと言われているが実際は授業中にも柔らかな笑顔を偶に見せ生徒を和らげる。容姿もいい。その上、両親の役にも立つことが出来るなんて最高の結婚相手だと思うが?ん?最高だと思わんか?」
「思っていたらここには居ませんよ。僕には恋路を邪魔する障害物にしか見えない」
「──お前のそう言うところは良くないぞ。敵認定すれば相手は敵になる。味方に引き入れられないのはお前の力不足だ。それに──こんなことくらいで障害になる程の貧弱な恋をしているのか?」
「力不足なのは認めます。では──貴方は僕の味方になる可能性があるのですか?母も朝宮千夏も僕も誰もが自分の願いを叶えたいだけです。ただその願いが違うだけだ。求める願いが相いれないのなら袂を分つしかないでしょう」
「……馬鹿だなお前は。もう一度考えろ。相手はどこに立っている?お前は?自分の立ち位置はどこだ?それを考えてからもう一度ここに来い」
手を振り追いやられる。
「──どうした?出ていけ」
「時間が無いんです。こんな事に──使える時間は僕には無い」
「奇遇だな。私にも無い」
「──貴方達はいつもそれだ。忙しいと──自分の興味のあるビジネスにしか時間を費やさない」
冷ややかな瞳で見返される。
その瞳に見覚えがある。
あれは──僕の瞳だ。
「どうした?自分の言葉に何を思った?」
「お前の興味があるものが何か知らんが、ハルお前こそ、それにしか時間を費やさない。お前の事を好きなのに見向きをされない者の気持ち、障害物にしか思われない者からすれば……さぞ憎らしかろうな。出ていけと言われどう思った?弥生の話を朝宮千夏の話を聞いてやれ。お前の弱味を見せてやれ。人はお前が思うほど、冷徹にも優しくもなれない。賢くもない。揺さぶられた感情が一番の原動力だ」
父の言葉は──意外だった。
感情論なんて通じない相手だと思っていた。
「誑かせと?」
皮肉な笑みを見せる。
「捻くれてるなぁ……お前は不憫を通り越して不安しかない」
母にもビジネス以外にも考えがあったのだろうか?
朝宮千夏の話を聞き、誠意ある言葉で対応しただろうか?
湖都子を手に入れるチャンスを逃さまいと二人を蔑ろにしたのは確かだ。
「もう一度、話をしてきます」
「そうしろ。こんな事も分からないようだと結婚したい彼女とやらに逃げられるぞ。余裕の無い男は格好悪いからな」
「──余裕なんて──どうやったら出来るんだ」
母と朝宮千夏に──自分がどれだけ情けない恋をしているか話してみようか。
こんなにもダサい男は願い下げだと簡単に話が纏まりそうだ。
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