防遏の恋──ぼうあつのこい──

六菖十菊

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逢着

056

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車の音で和秋さんが帰って来たのが分かった。
急に仕事関係の人を連れてくるとの事で、こんなの初めてで少しでも役に立ちたいと思った。
突然だから大した食事は用意できないけれど、そこはいつもより品数を増やしてカバーしよう。

「ただいま」

玄関が開き声がする。
急ぎ、玄関に向かう。
普通のエプロン姿だけどきちんとした身なりにした方が良かったのかな?

「お帰りなさ──」

幻かと……思った。

「こちら、塩野義さん。少し寄ってもらったんだけど湖都ちゃんもうご飯作っちゃった?」

「……う…ん」

「なら、塩野義さん。やっぱりご飯食べてください」

和秋さんは私とハルの関係性を知らないようで話を進めるけれど、どういう事情でハルがここにいるの?
私はどう振る舞った方がいいのか。

「ありがとうございます。では──御相伴に預かります。湖都子──さん?」

「──はい…」

ハルが私を知らないフリをした事で──この関係が続く。
ハルが私を見ている。
知らない人を見る目で──けれどしっかりと捉えているのが…わかる。

「湖都ちゃん帰ってきてすぐだけど用意してくれる?」

「──あっ、ごめんなさい」

ハルの視線が背中に刺さる。
──何故、何も言わないの?
ハルはどこまで知ってここに来たのだろう。
怖くて何も言えない。

「和秋さんアルコール飲む?」

「僕はタクシーで帰るのでお気になさらず」

「では私はビールにしようかな。塩野義さんは何を飲みます?」

「同じ物を」

酒の肴に鯵の叩きといぶりがっこのクリームチーズ和え、青菜のお浸しを少しずつ。

「どうぞ」

「湖都子さんは飲まないの?」

「私は──まだ夕食の準備があるので」

和秋さんがハルのグラスにビールを注ぐ。

「こんな食事──久々だな。柳さんが羨ましいです」

「普段はどんな食事を?」

「今は外食ばかりです。前は──彼女が料理上手でよく食べさせてくれたんですけど別れて──久しぶりだ」
 
「湖都──彼女も料理上手なので私も家に帰るのが楽しみなんです」

──居た堪れない気持ちを隠しキッチンへ帰る。
足にすり寄る感触に足元を見ればご飯を頂戴と黒猫がこちらを見る。

「!」

急いで猫を抱える。二階に連れて行こう。
悪いけれど部屋に閉じ込めさせて。

「湖都ちゃん、その子連れてきてくれる?」

本当にやめてほしい。

「でもこの子──眠そうだから」

言い訳を言うけれど猫が眠たそうだからなんだと言うんだ。
変な言い訳だ。

「塩野義さん。猫が好きなんだよ。ちょっとだけ触らせてくれないかな」

ハルが猫好きなんて聞いたことがない。
それともこの3年の間に好きになったのだろうか?
私に抱かれて気持ちよさそうにしているこの子をどうすればいいのか分からず立ちつくせば和秋さんが追い討ちをかける。

「この子の名前〈ハル〉って言うんです。塩野義さんと同じ名前なので今日は少し呼び難いんですよ」

「そうなんですね──誰が名付けたんです?」

「彼女です」

「春の季節に飼い出したから!だから──です」

思わず言い訳を言ってしまう。
こんな言い訳はハルの名の意味が船殻だと知っていると言っているようなものだ。
ハルがバカだなーと言う表情で私を見て微笑んでいる。
ハル──三年で大人になった。
前から仕草や表情が大人っぽかったけれど今はそれが板についている。
と、腕の中にいたハルがご飯に誘われてから和秋さん達の方へと言ってしまう。

「ハル!」

そう──呼んで──ハルがこちらを強く見る。
猫ではないハルが。
お願いだからその瞳で見ないでほしい。
ハルは和秋さんの所ではなくハルの膝に飛び乗り顔を頭を擦りつけ、ハルにハルが撫でられば気持ちよさそうに膝の上で体勢を整えている。

「この子、私の膝になんて来ないんですよ。彼女ばかり好きで──やっぱり猫は猫好きな人が分かるんですかね」

「似ているのかもしれないですね。好きなものとか」

和秋さんが違和感を覚えた様に思えてヒヤリとする。

「──僕は怠惰なので猫と似ているのかもれないですね」

もうご飯を食べて早くこの時間が過ぎてほしい。
鶏の木の子餡掛け、トマトのマリネ、昆布のおにぎりと温泉卵だったんだけど……ハルは温泉卵が苦手だ。
温泉卵は出せないので一品少なくなってしまったけれど仕方がない。
話を盗み聞けば2人はそこまで深い仲ではないようだ。
それなのにハルがここに来たのは──私がここにいるのを知ったからなのだろうか?
でも──私を知らないようにも振る舞った。

「あれ、湖都ちゃんこの温泉卵ださないの?」

ビールがなくなり追加を取りにキッチンへと和秋さんが来ていた事に気づかなかった。

「うん。期限切れてたの忘れてたの」

「そっか。あっちで湖都ちゃんも一緒に食べよ?」

「私は──あまり人と話すの苦手だから──ごめんなさい」

そこに割り込む声がする。

「そうなの?そんな風に思わないけどね。一緒に食べようよ湖都子さん」

ハルまでキッチンの前でハルをあやしながら立っている。

「湖都子さんの料理──懐かしくて凄く好きな味だ」

──ハルは私をどうしたいのだろう?
どこまで知っているの?
それが分からないとどうしたらいいのか分からない。
分からないから──為すままになってしまう。

「──2人は恋人なんでしょう?いつから?」

黒猫ハルがハルが吸うように首元に顔を埋めながら聞いてくる。

「秘密ですよ」

はぐらかす和秋さんにハルが更に詰め寄る。

「結婚しないの?柳さんもいい歳だし、湖都子さんも30歳手前くらいでしょう?いま迄、結婚とか考えたことなかったの?」

ハルはいつも一言多い。
しかもワザと。
しかも煽っている時のハルはどんどん追い詰めてくる。
これ以上ハルと話していたらダメだ。

「和秋さん、こんな失礼な人に話さなくていいからね!塩野義さん!もう遅い時間です。そろそろお引き取り下さい」

ハルの鞄を持ち押し付ける。
携帯を持ち勝手にタクシーを呼ぶ。
和秋さんもさっき迄ほろ酔い気分だったのに酔いの覚めた顔をしている。

「和秋さん。塩野義さんは酔ってる!酔っ払いには帰って貰います」

大事な仕事上のお客様にする態度ではない。
けれど相手はハルだ。
──私とハルの関係なんて直ぐに和秋さんの知るところとなる。
なら、尚更──ちゃんと話す時間が欲しい。
今まで──迷惑をかけた自覚があるぶん。

「帰って」

「帰しても──意味ないよ?」

「私にはある」

「湖都──」

「塩野義さん。今日は帰って」

「──分かった。柳さん帰ります。ありがとうございました」

「あぁ──」

挟みたい言葉を押さえてくれている。

「けれど湖都子。僕は今も君のことが好きだよ」

その言葉が嬉しいのか──悲しいのか──。

「ハル──お願い。ここのことは母にも海都にも知らせないで」

「いいよ。そのかわりにキスして」

無視してタクシーに押し込む。
和秋さんがハルの発言にも私の無視して押し込む姿にも驚いているが今は一刻も早く追い出したい。
ハルは微笑み意地悪な顔をしている。
性格は相変わらずのようだ。

「またね。湖都子」

こんな時のハルは相手にするほど調子に乗る。
知らんぷりをし、玄関の扉を閉めた。






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