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逢着

058 ハル

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タクシーに湖都子も連れ込みたかった。
あの男と同じ家に暮らさせるつもりはない。
監禁してでも僕の側にいていて欲しかった。
けれど本当に檻に入れ鎖で繋がない限り湖都子は僕から去る。
それではダメだ。
──否、どうなんだろう?
きちんと話す時間さえあれば解決する問題だったのか?
──分からない。
湖都子の事になると正解がわからなくなる。
──やはりこれでよかったんだ。
もし湖都子を連れ去り拒絶されたら──きっと僕は最低なことをしていた。

3年ぶりの湖都子は──変わらず声も身体も心も綺麗だった。
あの時のまま変わっていなかった。
──3年間──あの男と暮らしていたのかと思うと心が疼く。
苦しいと──醜く唸る。
けれど──漸く見つけた──憎い気持ちの方が強いと思っていたけれど──心は正直だ。
愛しさが溢れた。



「おかえりなさい。どこに行ってたの?」

コーヒーを飲んでいた千夏が僕のも淹れてくれようとするけれど断り彼女の前に椅子に座る。

「みつけた」

「湖都子を見つけた」

一瞬止まった時が動きコーヒーを淹れて渡してくる。

「それで?どうするの?」

「湖都子さんはハルから逃げていたのに未だに愛されていると思ってるの?もし──2人がやり直すなら私はお邪魔ね。私は去らないといけない。約束だもの。でも──私が去れば経営はまた一気に傾く。選ぶのは貴方よ。──おやすみなさい」

一足に言い彼女は部屋を後にした。
千夏には悪いけれど──僕は湖都子を選ぶよ。
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