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蚕起食桑 カイコオキテクワヲハム 5/21-5/25
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誕生日なんて嫌い──。
クリスマスもホワイトデーも、ハロウィンも……仏生会も雛祭りも節分も七十二節も──世にあるイベント日なんて無くなればいいと鈴音は思う。
「病んでるね─鈴音は、ところで七十二節て何?」
鈴音の世迷言から和歌子は言葉を拾う。
「母が送ってくれた荷物の中に置きカレンダーがあってそれが七十二節で表されてるの。年を二十四季節に分けた立春とか夏至とかあるじゃない?それを更に七十二節に分けてあるの。物事には時期があるのよって添え書き付きで。──多分、そろそろ結婚とか子供とかを意識しなさいって言うプレッシャーだと思う……」
「物事の時期っていつなんだろうね……私も結婚して2年経つけど──不妊治療なかなか上手くいかないの……まぁ確かに何気なく生きてると日々って過ぎて行くのは確かだし、時期って大事よね。タイミングが違うだけで結果が真反対になったりするし」
それは鈴音も思う。
和歌子は軽く口では言っているけれど、本当はもっと悩んでいるのを知っている──どうしてこんなに素敵な夫婦に赤ちゃんを運んできてくれないのか。
神様はイジワルだ。
七十二候カレンダーは会社のデスクに鎮座され鈴音の日々を常に監視し、刻んでいる。
「今日は5月25日だから──蚕起食桑カイコオキテクワヲハムかな。暮らしと関係のある言葉で作られているから農期と深い繋がりのある言葉が多いの」
「へぇ。今なら仕事を決算とかで区切られているのと同じ感じかな。」
「それも嫌だね」
「せめて恋の七十二候とかにして欲しいよ」
それはそれでも鈴音は困ってしまう。
なんだか鈴音にはどれでも困ってしまう状態だ。
「っていうか年に七十二あるなら5日に一回、鈴音はナーバスになるつもり?」
そう言って和歌子は鈴音の前に茶色のクラフト袋を置く。正確にはその5日間がその時期を指すので一年中ということになる。
「……ありがと……開けていい?」
開くと珈琲の香りが鮮やかに香る。
中には珈琲豆と白い車のチョロQが入っている。
「和歌子~ありがとう!」
「浅煎りで酸味の強い豆なんて銘柄とか分かんないから店員さんに聞いたまま買っちゃったけど、美味しさは私にはわからないわ。試飲させてくれたけどコクと苦味が強い珈琲が私は好きだわ」
そう言いながら和歌子のくれた珈琲豆は見事に私好みに焙煎されている。
──そしてこのチョロQ──彼の車と同じ。
「……榊さんも酸味の強い珈琲は苦手みたい」
勿論、趣味嗜好は個人差がある。和歌子や榊さんに無理して飲んで欲しいと鈴音は思わない。その人その人のライフスタイルがあるだろう。だけど──
「今年も彼からのプレゼントはなし?」
鈴音は和歌子の言葉に曖昧に微笑む。
鈴音が榊さんと付き合って1年目になる。
課長の榊 貴嗣に恋をしたのは鈴音の方からだった。
当時26歳だった鈴音も今は27歳だ。
榊課長は36歳だけど未だに独身で一部では女性に興味がないのでは無いのではという噂もある。
実際は鈴音と付き合っているのだから違うのだけれど。
部下のフォローも当たり前のようにこなし男女問わず尊敬を集め怒ったり感情を激しく出した所を見たことがない。
「鈴音の話だとそんな人だと思わないのに。普段は部下と食事に行けば全額支払い、鈴音とのデートの時も高価な食事やイベントも全部出してくれるんでしょう?なのになんでプレゼントはなしなの?」
今までのクリスマスも誕生日もホテルや食事はどれも高価で鈴音が恐縮するレベルだった。
けれど彼は──私にはカタチに残るものをくれない。
初めてのクリスマスに私は榊さんにストールをプレゼントした。
「ありがとう。けれどごめん。僕は贈り物が苦手なんだ」
だからこれからは僕にもプレゼントは必要ないとの言葉に鈴音は傷ついた。
けれどその感情が子供っぽい気がして鈴音はそこでは何も言えなかった。
──高価なモノが欲しい訳ではないの。
彼が鈴音の為にくれるモノが欲しい。
例えばこのオモチャの車やコーヒーは和歌子が鈴音のことを考えて贈ってくれたものだ。
モノに固執するのは良くないと思うけれど、やっぱり自分は俗物なのだろう。
彼は鈴音に一切の所有を許してくれない。
一緒に映画を見ればチケットの半券は処分される。
「捨てておくよ」
優しく言われるが強迫と言ってもいい。
「──いるの?」
「……ううん……要らないわ」
「よかった。こういうの大事にする人、苦手なんだ」
以来、彼との時間の形として残るものは尽く処分されている。
「モノなんて必要ないよ。お互いがいれば十分だ」
彼の言葉にいつも寂しさが募る。
「奥さんがいるんじゃない?それで不倫バレ対策とか」
和歌子の言葉は鈴音も何度も思ったことだ。
「ううん。独身だよ──」
面倒な男ならさっさと別れたらいいのにと和歌子に何度も諭された。それでも別れない鈴音に言うのは諦めたらしい。後は鈴音が考えることだ。
「早めにプレゼント渡しちゃったけど──誕生日──楽しんでね」
和歌子の言葉にありがとうと小さく頷いた。
ねぇ榊さん──本当はね──指輪が欲しいの。
私との繋がりを見せて欲しいの──
貴方との未来を──見せて欲しいの──
クリスマスもホワイトデーも、ハロウィンも……仏生会も雛祭りも節分も七十二節も──世にあるイベント日なんて無くなればいいと鈴音は思う。
「病んでるね─鈴音は、ところで七十二節て何?」
鈴音の世迷言から和歌子は言葉を拾う。
「母が送ってくれた荷物の中に置きカレンダーがあってそれが七十二節で表されてるの。年を二十四季節に分けた立春とか夏至とかあるじゃない?それを更に七十二節に分けてあるの。物事には時期があるのよって添え書き付きで。──多分、そろそろ結婚とか子供とかを意識しなさいって言うプレッシャーだと思う……」
「物事の時期っていつなんだろうね……私も結婚して2年経つけど──不妊治療なかなか上手くいかないの……まぁ確かに何気なく生きてると日々って過ぎて行くのは確かだし、時期って大事よね。タイミングが違うだけで結果が真反対になったりするし」
それは鈴音も思う。
和歌子は軽く口では言っているけれど、本当はもっと悩んでいるのを知っている──どうしてこんなに素敵な夫婦に赤ちゃんを運んできてくれないのか。
神様はイジワルだ。
七十二候カレンダーは会社のデスクに鎮座され鈴音の日々を常に監視し、刻んでいる。
「今日は5月25日だから──蚕起食桑カイコオキテクワヲハムかな。暮らしと関係のある言葉で作られているから農期と深い繋がりのある言葉が多いの」
「へぇ。今なら仕事を決算とかで区切られているのと同じ感じかな。」
「それも嫌だね」
「せめて恋の七十二候とかにして欲しいよ」
それはそれでも鈴音は困ってしまう。
なんだか鈴音にはどれでも困ってしまう状態だ。
「っていうか年に七十二あるなら5日に一回、鈴音はナーバスになるつもり?」
そう言って和歌子は鈴音の前に茶色のクラフト袋を置く。正確にはその5日間がその時期を指すので一年中ということになる。
「……ありがと……開けていい?」
開くと珈琲の香りが鮮やかに香る。
中には珈琲豆と白い車のチョロQが入っている。
「和歌子~ありがとう!」
「浅煎りで酸味の強い豆なんて銘柄とか分かんないから店員さんに聞いたまま買っちゃったけど、美味しさは私にはわからないわ。試飲させてくれたけどコクと苦味が強い珈琲が私は好きだわ」
そう言いながら和歌子のくれた珈琲豆は見事に私好みに焙煎されている。
──そしてこのチョロQ──彼の車と同じ。
「……榊さんも酸味の強い珈琲は苦手みたい」
勿論、趣味嗜好は個人差がある。和歌子や榊さんに無理して飲んで欲しいと鈴音は思わない。その人その人のライフスタイルがあるだろう。だけど──
「今年も彼からのプレゼントはなし?」
鈴音は和歌子の言葉に曖昧に微笑む。
鈴音が榊さんと付き合って1年目になる。
課長の榊 貴嗣に恋をしたのは鈴音の方からだった。
当時26歳だった鈴音も今は27歳だ。
榊課長は36歳だけど未だに独身で一部では女性に興味がないのでは無いのではという噂もある。
実際は鈴音と付き合っているのだから違うのだけれど。
部下のフォローも当たり前のようにこなし男女問わず尊敬を集め怒ったり感情を激しく出した所を見たことがない。
「鈴音の話だとそんな人だと思わないのに。普段は部下と食事に行けば全額支払い、鈴音とのデートの時も高価な食事やイベントも全部出してくれるんでしょう?なのになんでプレゼントはなしなの?」
今までのクリスマスも誕生日もホテルや食事はどれも高価で鈴音が恐縮するレベルだった。
けれど彼は──私にはカタチに残るものをくれない。
初めてのクリスマスに私は榊さんにストールをプレゼントした。
「ありがとう。けれどごめん。僕は贈り物が苦手なんだ」
だからこれからは僕にもプレゼントは必要ないとの言葉に鈴音は傷ついた。
けれどその感情が子供っぽい気がして鈴音はそこでは何も言えなかった。
──高価なモノが欲しい訳ではないの。
彼が鈴音の為にくれるモノが欲しい。
例えばこのオモチャの車やコーヒーは和歌子が鈴音のことを考えて贈ってくれたものだ。
モノに固執するのは良くないと思うけれど、やっぱり自分は俗物なのだろう。
彼は鈴音に一切の所有を許してくれない。
一緒に映画を見ればチケットの半券は処分される。
「捨てておくよ」
優しく言われるが強迫と言ってもいい。
「──いるの?」
「……ううん……要らないわ」
「よかった。こういうの大事にする人、苦手なんだ」
以来、彼との時間の形として残るものは尽く処分されている。
「モノなんて必要ないよ。お互いがいれば十分だ」
彼の言葉にいつも寂しさが募る。
「奥さんがいるんじゃない?それで不倫バレ対策とか」
和歌子の言葉は鈴音も何度も思ったことだ。
「ううん。独身だよ──」
面倒な男ならさっさと別れたらいいのにと和歌子に何度も諭された。それでも別れない鈴音に言うのは諦めたらしい。後は鈴音が考えることだ。
「早めにプレゼント渡しちゃったけど──誕生日──楽しんでね」
和歌子の言葉にありがとうと小さく頷いた。
ねぇ榊さん──本当はね──指輪が欲しいの。
私との繋がりを見せて欲しいの──
貴方との未来を──見せて欲しいの──
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