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乃東枯 ナツカレクサカルル 6/21-6/26
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意識を失っていた。
時計を見ると7時前で意識を失っていたのはそんなに長くない。
──隣で貴嗣が寝ている。
携帯は無くなっていた。
深い溜め息が出る。
……正しい行動なんて分からない。
「おはよう」
貴嗣は睡眠が浅い。
「──おはようじゃないわ。今日はゆっくり睡眠をとって」
「仕事に行かず、鈴音さんを一日中抱いていいの?」
ベットに横たわったまま微笑む。
「違うわ──眠って。今日は寝る日よ」
「鈴音さんが仕事に行けと言うから行っていたのに、そんなことで休んでいいの?」
「そんなことじゃない──倒れてしまう」
「そうすれば君はこの監禁地獄から助かるよ?」
「──いいから──眠って。逃げないから……元から逃げられないけど。大丈夫。眠って」
髪を撫でる。柔らかい髪を指に絡ます。
貴嗣がゆっくり目を瞑る。
「なぜかな──鈴音さんの〈大丈夫〉はなんだか安心する」
鈴音からしたら自分の言葉ながら全く持って根拠のない言葉だ。
それなのに貴嗣は信じてくれる。
ベットから抜け出すと足に繋がれた鎖がチャリチャリと鳴る。
トイレにもキッチンにも届くこの鎖は玄関までは届かない。
けれど今はそれでいい。
届いてしまうと、きっと鈴音は逃げてしまう。
ご飯を作ろう。
ここに来てずっとテイクウサアウトだ。
材料なんてないかもしれない。
恋人時代もあまり部屋には入ったことは無かった。
今、こうして入り浸っているのが不思議な感じだ。
モデルルーム並みに私物が少ない部屋で……贈り物を嫌う彼の部屋に行くのはなんだか鈴音の居場所がなくてホテルの方が過ごしやすかった。
冷蔵庫の扉を開けるとやはりそんなに食材が入っている方ではない。
ないのだけれど──ビール、チーズ、お醤油──他にもたくさんの品が──冷凍庫にあるコーヒー豆も──どれも鈴音の好きなメーカーや美味しいと口にしたものばかりだ。
──そういえばかってきてくれたデパ地下のお弁当も貴嗣の前で食べてみたいと話したことがあるかもしれない。
知りたくない──だけど、知らなくてもこれが貴嗣の心だ。
昼前に彼が起きてきた。
「……おはよう。シャワー浴びてくる?その間にご飯の準備するね」
限られた食材だけれど、思ったよりはあった。
以前、2人で行った大分で鈴音が気に入ったヨーグルト。
お味噌汁は甘さの強い愛媛の麦味噌で鈴音の故郷の味だ。
オニオンサラダの玉ねぎは愛媛横の徳島・淡路の艶の良い黄金色の玉ねぎで、冷凍庫に入っていた北海道のいけだ牛はデートの時に食べて鈴音が絶賛した赤身だ。
お米も鈴音が今までで食べてきたお米の中で一番美味しいと豪語した島根の仁田米だ。
──どれも全て未開封だった。
消費期限的にも、この数日でかき集めたものではない。
いつから集めていたのだろう。
そして使われることなく廃棄され、そしてまた鈴音の何気ない言葉から鈴音の好きなものを集めるのかと思うと切なくなる。
「ホントだね……鈴音さんが絶賛するだけある。どれも美味しい」
食材はいいのだけれど、足りない調味料や食材も多い。
けれど美味しそうに食べてくれる。
牛のタタキは少し厚くなってしまったけれど、流石のいけだ牛だ。
赤身なのに程よく柔らかく美味しい。
テーブルを片付けてコーヒーを淹れる。
鈴音の好きな浅煎りしかないこの部屋は彼の為の物はない。
ソファに2人で座りコーヒーを飲む。
「幸せだな──」
その言葉に胸が締め付けられる。
貴嗣の過去に何があったのか、聞くつもりはもうなかった。
聞いても鈴音には何もしてあげられない。
別れようと思っていた鈴音が聞く方が失礼だと。
──話してくれないかもしれない。
けれど貴嗣の性質の元はそこにあると確信する。
「恋人だった頃、貴方は贈り物を頑なに拒否してた。どうして?──先日、長谷部さんにペンを渡したの見ちゃったの。私には絶対にない光景で──ショックだった」
だけどこうして蓋が開けば、この部屋には鈴音が好きなものが溢れていた。
クローゼットの中には鈴音の好きな映画のDVDに、サイズのぴったりなワンピースや靴、ハンドクリームもある。
「別に贈り物は確かに苦手だけど、社会生活レベルでは大丈夫なんだよ。ただ──君にだけは贈れなかった。それがどんどん強くなっていった」
「どうして?」
「君が好きだから」
好きな人に贈り物ができない苦しみを鈴音も知っている。この部屋にはそれが溢れている。
「母に──繰り返し言われていたんだ。
〈貴方は贈り物を貰えば送った相手を殺し、あげた相手も殺す〉って」
なに──それ。
「お母様は──」
「先日亡くなったよ。お酒の多飲が原因の肝硬変からの癌だった」
会社には忌引申請をしていなかったけれど、この前貴嗣が仕事を休んだのはその為?
「僕は優しい人間ではないからね。例えば長谷部さんにペンをあげても何も思わない。だけど──鈴音さんにはあげられない」
「なんでそんなことを──」
お母様は言ったの?
何があったの?
「父と妹を僕が殺したから──あぁ、母が狂ってしまったのも僕の所為なのかな」
時計を見ると7時前で意識を失っていたのはそんなに長くない。
──隣で貴嗣が寝ている。
携帯は無くなっていた。
深い溜め息が出る。
……正しい行動なんて分からない。
「おはよう」
貴嗣は睡眠が浅い。
「──おはようじゃないわ。今日はゆっくり睡眠をとって」
「仕事に行かず、鈴音さんを一日中抱いていいの?」
ベットに横たわったまま微笑む。
「違うわ──眠って。今日は寝る日よ」
「鈴音さんが仕事に行けと言うから行っていたのに、そんなことで休んでいいの?」
「そんなことじゃない──倒れてしまう」
「そうすれば君はこの監禁地獄から助かるよ?」
「──いいから──眠って。逃げないから……元から逃げられないけど。大丈夫。眠って」
髪を撫でる。柔らかい髪を指に絡ます。
貴嗣がゆっくり目を瞑る。
「なぜかな──鈴音さんの〈大丈夫〉はなんだか安心する」
鈴音からしたら自分の言葉ながら全く持って根拠のない言葉だ。
それなのに貴嗣は信じてくれる。
ベットから抜け出すと足に繋がれた鎖がチャリチャリと鳴る。
トイレにもキッチンにも届くこの鎖は玄関までは届かない。
けれど今はそれでいい。
届いてしまうと、きっと鈴音は逃げてしまう。
ご飯を作ろう。
ここに来てずっとテイクウサアウトだ。
材料なんてないかもしれない。
恋人時代もあまり部屋には入ったことは無かった。
今、こうして入り浸っているのが不思議な感じだ。
モデルルーム並みに私物が少ない部屋で……贈り物を嫌う彼の部屋に行くのはなんだか鈴音の居場所がなくてホテルの方が過ごしやすかった。
冷蔵庫の扉を開けるとやはりそんなに食材が入っている方ではない。
ないのだけれど──ビール、チーズ、お醤油──他にもたくさんの品が──冷凍庫にあるコーヒー豆も──どれも鈴音の好きなメーカーや美味しいと口にしたものばかりだ。
──そういえばかってきてくれたデパ地下のお弁当も貴嗣の前で食べてみたいと話したことがあるかもしれない。
知りたくない──だけど、知らなくてもこれが貴嗣の心だ。
昼前に彼が起きてきた。
「……おはよう。シャワー浴びてくる?その間にご飯の準備するね」
限られた食材だけれど、思ったよりはあった。
以前、2人で行った大分で鈴音が気に入ったヨーグルト。
お味噌汁は甘さの強い愛媛の麦味噌で鈴音の故郷の味だ。
オニオンサラダの玉ねぎは愛媛横の徳島・淡路の艶の良い黄金色の玉ねぎで、冷凍庫に入っていた北海道のいけだ牛はデートの時に食べて鈴音が絶賛した赤身だ。
お米も鈴音が今までで食べてきたお米の中で一番美味しいと豪語した島根の仁田米だ。
──どれも全て未開封だった。
消費期限的にも、この数日でかき集めたものではない。
いつから集めていたのだろう。
そして使われることなく廃棄され、そしてまた鈴音の何気ない言葉から鈴音の好きなものを集めるのかと思うと切なくなる。
「ホントだね……鈴音さんが絶賛するだけある。どれも美味しい」
食材はいいのだけれど、足りない調味料や食材も多い。
けれど美味しそうに食べてくれる。
牛のタタキは少し厚くなってしまったけれど、流石のいけだ牛だ。
赤身なのに程よく柔らかく美味しい。
テーブルを片付けてコーヒーを淹れる。
鈴音の好きな浅煎りしかないこの部屋は彼の為の物はない。
ソファに2人で座りコーヒーを飲む。
「幸せだな──」
その言葉に胸が締め付けられる。
貴嗣の過去に何があったのか、聞くつもりはもうなかった。
聞いても鈴音には何もしてあげられない。
別れようと思っていた鈴音が聞く方が失礼だと。
──話してくれないかもしれない。
けれど貴嗣の性質の元はそこにあると確信する。
「恋人だった頃、貴方は贈り物を頑なに拒否してた。どうして?──先日、長谷部さんにペンを渡したの見ちゃったの。私には絶対にない光景で──ショックだった」
だけどこうして蓋が開けば、この部屋には鈴音が好きなものが溢れていた。
クローゼットの中には鈴音の好きな映画のDVDに、サイズのぴったりなワンピースや靴、ハンドクリームもある。
「別に贈り物は確かに苦手だけど、社会生活レベルでは大丈夫なんだよ。ただ──君にだけは贈れなかった。それがどんどん強くなっていった」
「どうして?」
「君が好きだから」
好きな人に贈り物ができない苦しみを鈴音も知っている。この部屋にはそれが溢れている。
「母に──繰り返し言われていたんだ。
〈貴方は贈り物を貰えば送った相手を殺し、あげた相手も殺す〉って」
なに──それ。
「お母様は──」
「先日亡くなったよ。お酒の多飲が原因の肝硬変からの癌だった」
会社には忌引申請をしていなかったけれど、この前貴嗣が仕事を休んだのはその為?
「僕は優しい人間ではないからね。例えば長谷部さんにペンをあげても何も思わない。だけど──鈴音さんにはあげられない」
「なんでそんなことを──」
お母様は言ったの?
何があったの?
「父と妹を僕が殺したから──あぁ、母が狂ってしまったのも僕の所為なのかな」
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