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あえかなる夜の知覚

x86_櫂_

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侑梨の携帯は繋がらず沙織とマンションに行く。
管理人に事情を話し開けてもらうが
「本当はダメなんですが、あの部屋の方は数日前に家具とか売られて今月には出ていかれる旨を言われたので……」
言い訳を言いながらでも、開けてくれる管理人に感謝しながら心臓が早鐘を打つ。
そんな話は聞いてない。
開かれた部屋は多少の荷物は残っていたが、
殺風景なガランとした空間になっていた。
「どこに引っ越しを?」
「そこまでは知りませんし、知っていても話せません」
そうだろう。
けれど、この管理人が仮に知っているのなら
どんなことをしても吐かせるのに。
侑梨は俺に何も言わずに去ったということだ。
壁を叩きつける。
腕が赤紫に染まるが、痛みを感じない。
パーティ前にあった時、確かに侑梨がおかしいと感じた。──あの時から去ろうとしていたのだろう。
「櫂、落ち着きなさい」
沙織が櫂のネクタイを引っ張る。
「聞きなさい。私は数日前に侑梨さんに会ったわ。その時とパーティ会場で会った彼女を見て確信的に言える。
今、彼女が櫂の側にいないのは彼女の意図ではないわ」
「じゃあなんでいないんだ‼︎」
「考えなさい」
あの最後の日、夫人の突然のお茶会騒動で俺たちは総出での対応だった。
夫人は夫と帰ったのを確認した。
マウロはパーティに来ていなかった。
けど、侑梨は消えた。
身辺整理もしている。
「あの日の夫人のお茶会騒動は櫂と侑梨さんを引き離す為の小細工だとしたら?」
──そうだとしたら──
「マウロ‼︎」
ヤツのオフィスよりも夫人の方が早い‼︎
夫人の携帯にかける。
コールは鳴るが出ない。
苛立ちが最高潮に達した時、夫人が出た!
「櫂さん、今日のお茶会。皆様に好評だったわ」
「そんなことより侑梨をどこにやった⁈」
「侑梨さん?」
夫人の惚けたような口調が最高にもどかしい。
沙織が携帯を取り上げる。
「高崎夫人。今日はありがとうございました。お話を戻しますが、侑梨さんの居場所が掴めません。夫人。何かご存知では?」
「さぁ。侑梨さんとはクリスマスパーティの時しか見かけていないわ。けれど心配ね」
「ではマウロは今どこです?」
「彼と契約解消したのは知ってるでしょう?わたくしは知らないわ……と言いたいけれど、彼の居場所は知ってるわ」
「どこですか?連絡取れます?」
流石に沙織にも焦りが見える。
「彼は今、イタリアよ」
「わたくしとの契約解消や、数日すればわかるけれど、マウロ家は少々立て込んでいるの。当分日本には来れないかもしれないわ」
「夫人。本当に侑梨さんを知らないんですね?私たちはこのままなら警察に相談しようと思ってます」
「ええ。もし本当に侑梨さんが消息をたったのだとしたらその方がいいわ」
時間だわ。ごめんなさい。と夫人は電話を切った。
手掛かりも、侑梨が行きそうな場所も分からない。
それから数日後、マウロの父や義兄の逮捕報道がワイドショーを飾った。
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