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第一章 異世界と奴隷のサラと大儲け

第15話 電動スクーターで異世界を移動

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 ――木曜日、有給休暇明けのオフィス。

「峰山さん。何か良い事ありましたか?」

「えっ!? い、いや、何もないけど!」

「怪しいですね~。彼女でも出来ましたか~」

 有給休暇明け出勤で仕事をしていると同僚の若いOLさんにからかわれた。
 月火水とサラと甘い日々を過ごしたからか?
 色気が匂い立つのか?

 ちなみにサラは、俺の部屋で何も出来なかった。
 水道も、ガスも、電気も、冷蔵庫も、電子レンジも、オーブントースターも、俺の部屋にある物を、サラは見た事がないのだ。
 当然、使い方もわからないから、トースト一枚焼く事が出来ない。

 だから、生活トレーニングとでも言うのか、電化製品の使い方から、風呂の使い方まで教える事になった。
 特に楽しかったのは、トイレ・トレーニングだ。

「ご主人様! トイレは一人で大丈夫です!」

「いや。シャワートレイは使い方がわからないだろう? 高価な魔道具だからちゃんと使い方を指導するよ。では、排せつをしなさい。最初は小からだな。これは命令だ!」

 羞恥で真っ赤になりながら放尿するサラはとても可愛かった。
 
 四十歳独身貴族は、マニアックなのだ。
 これからも命令を発動しよう。
 奴隷の首輪のお陰で、どんなに恥ずかしい命令でもサラは逆らえないのだ。

「峰山さん!」

「はい~」

 年下上司の機嫌がはなはだ悪く、朝から八つ当たりされまくっているが、まったく苦にならない。

 ふっ……俺は家に帰れば、十八歳の可愛い性奴隷が待っているのだ。
 お帰りなさいのキスは義務付けてあるのさ。
 つまりは、圧勝なのだよ!


 ――土曜日になった。

 俺とサラは、手早く朝食を済ますとバルデュックの街へ向かった。

「わー! ご主人様! これ楽しいです!」

「そうか! そうか! 良かったな!」

 俺とサラは、電動スクーターに乗っているのだ。
 サラは大はしゃぎで、魔の森の中の細道を電動スクーターで飛ばしている。
 俺はそんなサラの様子を見守りながら、後ろを付いて行く。

 なぜ電動スクーターを投入したのかと言うと時間短縮だ。
 バルデュックの街へ行くのに、行き一日、帰り一日では、週末が潰れてしまう。
 往復歩きなので俺の体力的にもシンドイ。

 前回、魔の森の細道を往復してみてわかったが、自転車やスクーターなら通れそうなのだ。

 そこで電動スクーターですよ!
 電動ならガソリン補給が要らない。
 バッテリーは俺の家で充電出来る。

 電動スクーターは、マンションの玄関ドアを通れる横幅だった。
 そこで日本で電動スクーターを買って、一度俺の部屋に電動スクーターを入れて玄関ドアを閉め、部屋の内側から玄関ドアを開けて異世界に電動スクーターを持ち込んだ。

 日本のバイクメーカー『ワハハ社』の電動スクーターにしたので、なかなか良いお値段がした。


 電動スクーター本体:24万円
 スペアバッテリー:6万円
 リアキャリア:9000円
 後ろカゴ:5000円

 合計:31万4千円/1台


 なんと! 2台で62万8千円だ!
 大金貨四枚強だね!

 他にもヘルメットやら、U字ロックやら色々買ったので、結構な出費になった。
 まあ、それでも時間短縮が出来て、商売が円滑になれば、この投資は取り返せる。

 四十歳独身貴族は、投資するべき事をわかっているのだ。
 タイム・イズ・マネー!
 時間があれば、サラと色々と楽しめるからね!
 ムフッ!

 街までの距離は、恐らく25キロ程度じゃないかと見ている。

 人間が歩く距離は、一時間で4キロくらいだ。
 行きは、魔物に警戒して遅いペースで10時間。
 帰りは、ちょっと早いペースで7時間。
 途中休憩が入っていたから、25キロくらいじゃないかと。

 電動スクーターは、一回の充電で29キロ走行が可能だ。
 スペアバッテリーに交換すれば、58キロが走行可能。

 ギリギリ行って帰って来られるか……。
 まあ途中でバッテリー切れになったら歩くさ。
 護衛も出来るサラがいるし。

 今週、サラにママチャリで練習をさせていた。
 サラは運動神経が良いらしい。
 一日でママチャリに乗れるようになり、俺が仕事に行っている間も、魔の森の家の前でママチャリに乗って練習していそうだ。
 その甲斐あって初めての電動スクーターも問題なしだ。

 そうそう、俺の家を中心に空き地が少しずつ広がっている。
 もう、気にするのは止めよう。木を伐採する手間が省けたとポジティブに考えよう。
 
 バルデュックの街には一時間ちょいで到着した。
 メーターで走行距離をチェックすると25キロと表示されている。
 予想通りだな。
 帰りはスペアバッテリーに交換すれば大丈夫だ。

「ご主人様! スクーターは早いですね! もうバルデュックの街についちゃいました!」

「そうだね。本当に早いね! サラも上手に乗れていたよ」

「えへへへ。ありがとうございます!」

 バルデュックの街の中をゆっくりと電動スクーターで進む。
 音が静かなので気が付かない人もいる。

 だが、気が付いた人は目を丸くして、息を止め、俺とサラを見る。

「えっ!? 馬!? いや、ゴーレムか!?」

 ナイスリアクション!
 いや、良い気分だ!

 今日は商人ギルドでギルド長のサンマルチノと面会だ。
 先週お願いしておいた商売のネタを教えて貰う。

 商人ギルドに到着するとサンマルチノが直ぐに出迎えてくれた。

「これはミネヤマ様! さあ、どうぞ!」

 応接セットに向かい合って座り、商談を始める。
 サラは後ろに控えて立っている。座らせてあげたいけれど、けじめと言うか、公私の区別はつけないとね。

「早速ですが、こちらがミネヤマ様から仕入れたい商品の希望リストです」

 先週お願いしておいたのが、このリストだ。
 商人ギルドとしては、俺がパワーストーンなど金になる物を売るのは大歓迎だ。
 しかし、この街の商人が扱っている商品とかぶる物を、俺が売るのは困るのだ。
 例えば服とか。

 この世界は日本みたいに自由競争でなく、商人たちがお互いの領域を犯さないように、ある意味なあなあで商売するようだ。
 まあ、俺もこの街の商人と事を構えるつもりはないので、無理のない範囲で儲けさせてもらう。

「ありがとうございます。私はこの国の文字は読めないので、読んでもらえますか?」

「かしこまりました。ミネヤマ様にお願いしたいのは――」

 サンマルチノがリストを読み上げたが、俺は正直がっかりした。
 取引希望商品は前回と同じ宝石、つまりパワーストーン、それと布だけだった。

 他に何かないかな……。

 俺は少しの間考えて、この世界で使われている調味料の塩とコショウを思いついた。

「他に何か欲しい物はないでしょうか? 例えば……塩やコショウは?」

「塩はご領主様の専売でございますので、手を出すのは不味いですね」

 サンマルチノは渋い顔をして、俺を諫めた。
 なるほど。塩は専売か。
 それも領主の専売なら、ちょっかいを出すのは不味いな。
 権力者の商売の邪魔をしたら、どんな報復を受けるかわかったったもんじゃない。

「なるほど。塩はダメですね。コショウは?」

「コショウは安定供給されていますね。南の方から商人が定期的に持ち込んでいます。出来れば、今の商流は壊さないようにお願いしたいのですが……」

「うーん。なるほど……上手く行っているなら、変に手を出さない方が良いですね……」

 ダメか。
 仕方がない。それなら、この街の商人たちの希望通りにするか。
 このリストにあるパワーストーンと布を、日本で仕入れて異世界で売ろう。

「この布と言うのは、どういった布がご希望なのでしょうか?」

 布と言っても綿もあれば絹もある。
 色も様々だ。

「ミネヤマ様がお召しになっている、そのズボンのような生地が希望です。光沢があって素晴らしい!」

「あっ! これですか?」

 ジャージか!
 ジャージの生地が珍しいのか!
 そうか化学繊維が良いのか!

「服を取り扱う商人が、街でミネヤマ様をお見掛けしまして。珍しい生地なのでぜひ欲しいと申しておりました」

「なるほど。生地は手に入ると思うので、いくつかサンプルを持って来ましょう」

「よろしくお願いいたします!」

 そこからは服の話しになった。
 新品の服は貴族や金持ちの商人が、裁縫職人を抱えた商人に注文するらしい。
 
 この異世界にも四季があって、春夏秋冬とシーズンごとに貴族は装いを変える。
 毎シーズン最低でも一着は服を作るのだそうだ。

「特に貴族様は新しい物に目が無いのです。新しい生地は絶対に欲しがります!」

 ふうん。
 そう言う事なら、毎シーズン一定量の化学繊維が売れるかもしれないな。
 悪くない話だ。

 あらかた商談が終わって帰ろうとするとサンマルチノが引き止めた。
 まだ何か話があるらしい。

「ミネヤマ様。国王陛下に何か献上をいたしませんか?」

「国王陛下に? 献上?」

 俺は商人ギルド長サンマルチノの言う事が今一わからなかった。
 この国の国王に何か献上する。
 それはわかる。
 
 だが、それって俺にメリットのある事なのか?

「サンマルチノさん。国王陛下に献上品を贈る狙いは何でしょうか? 私に何か良い事ありますか?」

「ございます! ミネヤマ様は、外国の貴族で魔の森を開拓中です。この国では土地を開拓した者が領主になります」

「ええ、それは知っています」

先週サンマルチノから聞いたからな。

「領主は、みな貴族に列せられます」

 ほほう! 貴族とな!
 領地が認められ、さらにこの国の貴族にして貰えるのか!
 それは凄い!

 まあ、あんまり無知と思われるのも嫌だからとぼけておこう。

「ええ。そうらしいですね」

「とは言え! 領主として承認され、貴族に列せられるには、手続きやら何やら時間がかります。そこで……、国王陛下に何か献上をしてはどうかと」

「ああ……なるほど……」

 わかった!
 ワイロだな!

 日本でやったら犯罪だけれど、発展途上国なんかだと政治家や公務員に公然とワイロが送られているらしいからな。
 
 ふむ……、この世界では、ワイロがまかり通るのか。
 まあ、日本だったらまずいけれど、ここは異世界だ。
 なら……良いんじゃね?

「つまり、この国にもっと『お友達』を増やせと?」

「そうです! そうです! さすがご理解が早いですな! 王宮にはコネがございますので、僭越ながらわたくしが仲介の労をとらせていただきます」

 サンマルチノさんは自信あり気に笑ってから、頭を下げた。
 王宮にコネがあるなら話は早い。
 やった方が良いな。

「じゃあ、サンマルチノさんにお願いします。モノは何が良いでしょうか?」

「ミネヤマ様がお取り扱いになっている宝石がよろしいかと」

 パワーストーンを贈れば良いのか。
 それならお店に行けば、いくらでも手に入る。
 一個数百円と安いし。

 ちらりと腕時計を見ると、午前八時だ。
 今から電動スクーターで家に帰れば、午前九時。
 午後から日本へ買い物に出かけられるな。

「わかりました。それじゃあ、明日、この時間に布と宝石を持って来ます」

「早いですね! 承知いたしました。お待ちしております」

 商談は終わりだ。
 なかなか実りのある話が出来た。

 新しい商材としてジャージのような化学繊維。
 そして王宮に『お友達』を増やすべく、『贈り物』をする。
 俺の領地、領主の地位、貴族になる事を確定させないとな。

 電動スクーターのバッテリーを予備と交換して、魔の森にある俺の家へ向かう。
 魔の森の中で何度かホーンラビットと遭遇するが、戦闘せずに横をすり抜ける。
 足の速い電動スクーターならではの行動だ。
 買って大正解!

「ご主人様、もうお家に帰るのですか?」

「ん。日本で買い物をする」

「お買い物に行くのですか! 私も連れて行って下さい!」

「よしよし、わかった」

 サラは日本がすっかり気に入ったようだ。
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