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第六章 スタンピード
第105話 帰還(六章最終話)
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リックとマルテを回収すると、車内は一気に騒がしくなった。
「リックお兄ちゃん! 血が出てる!」
「大丈夫だよ。かすり傷だ。イテテ……」
「リック! 無理しないで! ほら痛いんでしょ!」
「今、ヒールで治しますよ。ジッとしていてね。ヒール!」
シスターエレナがリックに回復魔法ヒールをかけた。
緑色の柔らかい光が車内に満ちる。
「はい。大丈夫ですよ! よく我慢しましたね! リックは偉いです!」
チラッと横を見ると、シスターエレナは保母さんのような優しい笑顔でリックの頭を撫でていた。
頭を撫でられたリックは、顔を赤くしている。
シスターエレナにとってリックは孤児院の子供なのだろうが、思春期真っ盛りのリックにとってシスターエレナはきれいなお姉さん枠だろう。
俺はニヤニヤと笑いながら、移動販売車を一直線に走らせた。
外からフレイル団長の声が聞こえてきた。
「リョージ殿! 追っ手が凄いぞ! 魔法で削るか?」
俺はサイドミラーに目を移す。
「うおっ!」
思わず声がこぼれた。
走るオークの集団がサイドミラーいっぱいに映っているのだ。
オークの集団は、丘を駆け下り俺たちが乗る移動販売車を追ってくる。
もちろんオークの走る早さは、移動販売車の速度に及ばないので、ジリジリと距離が離れている。
俺はとりあえず安全と判断し、フレイルさんに大声で返す。
「大丈夫です! こちらの方が早い! 魔力を温存しておきましょう!」
「了解した!」
フレイルさんの声も弾んで聞こえる。
最後の一組を無事に回収出来たので、喜んでいるのだろう。
さて、移動販売車の車内はかしましい。
三人乗りのところに五人乗っているのだ。
子供が三人とはいえ人口密度が高い。
日本なら警察事案だが、どっこい異世界である。
ギュウギュウで狭苦しくて、騒がしい以外は問題なし!
「あー! お肉の回収を忘れちゃった!」
ソフィーは、移動販売車ではね飛ばしたオークを回収出来なかったことを残念がっている。
「まあまあ。大丈夫ですよ。お肉はいっぱいいますからね」
すっかり肉食女子となって、腹が据わったシスターエレナである。
本来オークは、中堅冒険者になるための壁という評価の強い魔物なのだが……。
オーク=食肉として定着してしまった。
「リックお兄ちゃん、マルテお姉ちゃん。ハイポーションの材料は見つかったの?」
「ああ! マルテ! 見せてやれ!」
「これだよ! ほら! ルナシル草!」
「「「おおっ!」」」
マルテが大事そうに腰の袋から薬草の株を取り出した。
ツヤツヤとした銀色の葉と艶めく黄色の花弁から生命力を感じる。
根まで掘り起こして丁寧に採取したのが、一目見てわかった。
リックとマルテは、ハイポーションの材料ルナシル草を見つけ、大事に大事に採取したのだ。
二人はルナシル草を採取に成功したが、オークに追われて非常に危険な状態だった。
俺は大人として二人に注意した方が良いかと一瞬思ったが、すぐに止めた。
二人は命を賭けて、リスクを取ったのだ。
町が危険な状態だから、少しでも自分たちが役立つ行動をとった。
そして結果を出した。
ならば叱ることはない。
少なくとも俺の仕事ではない。
先輩冒険者のガイウスや銀翼の乙女のクロエさんが、上手く言ってくれるだろう。
俺が今やることは、二人を褒めることだ。
俺は親戚のおじさんになったつもりで、リックとマルテを褒め称えた。
「凄いな! リックもマルテも凄いぞ! これでハイポーションが作れる! 町の人たちも、きっと助かるよ!」
「へへ! 俺たちだってヤルだろ? おっさん?」
「ああ! 大手柄だ! おっさんビックリだよ! 降参!」
「ふふん! ありがとう!」
リックとマルテはルナシル草を大事そうに抱えながら胸を張り笑顔になった。
俺たちは途中でゴブリンやオークと何度も遭遇したが、移動販売車の障壁ではねのけ無事に転移魔法陣に到着した。
一階層へ転移すると、ガイウスたち『豪腕』が俺たちを待っていた。
「ガイウス! お待たせ!」
「おおう! リックとマルテ! 無事だったか!」
ガイウスはリックとマルテを見つけると、イカツイ顔を緩めて喜んだ。
だが、再会の挨拶は後だ。
「ガイウス! 三階層はオークが溢れ始めてる。すぐに二階層、一階層にも来るぞ! 脱出しよう! 他に人はいないか?」
「いねえ! 『銀翼の乙女』は先に出た! 俺たちが最後だ!」
「よし! 乗ってくれ!」
ガイウスたち『豪腕』は、素早く荷台の箱の上に飛び乗る。
「これで全員回収だ! サイドクリークに戻るぞ!」
「戻りゅ!」
「戻りましょう」
いつもの調子でソフィーとシスターエレナが、俺に答える。
うん、良い感じだ!
リックとマルテの捜索とオークが溢れるスタンピードの発生で、俺はかなり焦っていたけど調子が戻ってきた。
俺はカーステレオのスイッチを入れてCDをかけた。
いつもの曲が車内に流れる。
「えーび♪ ランラン♪ ランラン♪ ランラン♪ ランラン♪」
「ランラン♪ ランラン♪ ランララン♪」
ソフィーとシスターエレナが歌い出した。
ダンジョンを出て魔の森の中を走る。
天気は良くて、森の木々の間から木漏れ日がさす。
外からフレイルさんとガイウスの会話が聞こえてきた。
「これは参った! 救出作戦のはずがピクニックになってしまった!」
「ははは! コイツらは、いつもこんな感じさ! 楽しくて良いだろ?」
「違いない!」
しばらくして、移動販売車は無事にサイドクリークの町へ到着した。
俺は無事に帰れたこと、冒険者たちを救出できたことに喜び、力を与えてくれた何者かに感謝した。
―― 第六章 完 ――
第七章に続きます。
「リックお兄ちゃん! 血が出てる!」
「大丈夫だよ。かすり傷だ。イテテ……」
「リック! 無理しないで! ほら痛いんでしょ!」
「今、ヒールで治しますよ。ジッとしていてね。ヒール!」
シスターエレナがリックに回復魔法ヒールをかけた。
緑色の柔らかい光が車内に満ちる。
「はい。大丈夫ですよ! よく我慢しましたね! リックは偉いです!」
チラッと横を見ると、シスターエレナは保母さんのような優しい笑顔でリックの頭を撫でていた。
頭を撫でられたリックは、顔を赤くしている。
シスターエレナにとってリックは孤児院の子供なのだろうが、思春期真っ盛りのリックにとってシスターエレナはきれいなお姉さん枠だろう。
俺はニヤニヤと笑いながら、移動販売車を一直線に走らせた。
外からフレイル団長の声が聞こえてきた。
「リョージ殿! 追っ手が凄いぞ! 魔法で削るか?」
俺はサイドミラーに目を移す。
「うおっ!」
思わず声がこぼれた。
走るオークの集団がサイドミラーいっぱいに映っているのだ。
オークの集団は、丘を駆け下り俺たちが乗る移動販売車を追ってくる。
もちろんオークの走る早さは、移動販売車の速度に及ばないので、ジリジリと距離が離れている。
俺はとりあえず安全と判断し、フレイルさんに大声で返す。
「大丈夫です! こちらの方が早い! 魔力を温存しておきましょう!」
「了解した!」
フレイルさんの声も弾んで聞こえる。
最後の一組を無事に回収出来たので、喜んでいるのだろう。
さて、移動販売車の車内はかしましい。
三人乗りのところに五人乗っているのだ。
子供が三人とはいえ人口密度が高い。
日本なら警察事案だが、どっこい異世界である。
ギュウギュウで狭苦しくて、騒がしい以外は問題なし!
「あー! お肉の回収を忘れちゃった!」
ソフィーは、移動販売車ではね飛ばしたオークを回収出来なかったことを残念がっている。
「まあまあ。大丈夫ですよ。お肉はいっぱいいますからね」
すっかり肉食女子となって、腹が据わったシスターエレナである。
本来オークは、中堅冒険者になるための壁という評価の強い魔物なのだが……。
オーク=食肉として定着してしまった。
「リックお兄ちゃん、マルテお姉ちゃん。ハイポーションの材料は見つかったの?」
「ああ! マルテ! 見せてやれ!」
「これだよ! ほら! ルナシル草!」
「「「おおっ!」」」
マルテが大事そうに腰の袋から薬草の株を取り出した。
ツヤツヤとした銀色の葉と艶めく黄色の花弁から生命力を感じる。
根まで掘り起こして丁寧に採取したのが、一目見てわかった。
リックとマルテは、ハイポーションの材料ルナシル草を見つけ、大事に大事に採取したのだ。
二人はルナシル草を採取に成功したが、オークに追われて非常に危険な状態だった。
俺は大人として二人に注意した方が良いかと一瞬思ったが、すぐに止めた。
二人は命を賭けて、リスクを取ったのだ。
町が危険な状態だから、少しでも自分たちが役立つ行動をとった。
そして結果を出した。
ならば叱ることはない。
少なくとも俺の仕事ではない。
先輩冒険者のガイウスや銀翼の乙女のクロエさんが、上手く言ってくれるだろう。
俺が今やることは、二人を褒めることだ。
俺は親戚のおじさんになったつもりで、リックとマルテを褒め称えた。
「凄いな! リックもマルテも凄いぞ! これでハイポーションが作れる! 町の人たちも、きっと助かるよ!」
「へへ! 俺たちだってヤルだろ? おっさん?」
「ああ! 大手柄だ! おっさんビックリだよ! 降参!」
「ふふん! ありがとう!」
リックとマルテはルナシル草を大事そうに抱えながら胸を張り笑顔になった。
俺たちは途中でゴブリンやオークと何度も遭遇したが、移動販売車の障壁ではねのけ無事に転移魔法陣に到着した。
一階層へ転移すると、ガイウスたち『豪腕』が俺たちを待っていた。
「ガイウス! お待たせ!」
「おおう! リックとマルテ! 無事だったか!」
ガイウスはリックとマルテを見つけると、イカツイ顔を緩めて喜んだ。
だが、再会の挨拶は後だ。
「ガイウス! 三階層はオークが溢れ始めてる。すぐに二階層、一階層にも来るぞ! 脱出しよう! 他に人はいないか?」
「いねえ! 『銀翼の乙女』は先に出た! 俺たちが最後だ!」
「よし! 乗ってくれ!」
ガイウスたち『豪腕』は、素早く荷台の箱の上に飛び乗る。
「これで全員回収だ! サイドクリークに戻るぞ!」
「戻りゅ!」
「戻りましょう」
いつもの調子でソフィーとシスターエレナが、俺に答える。
うん、良い感じだ!
リックとマルテの捜索とオークが溢れるスタンピードの発生で、俺はかなり焦っていたけど調子が戻ってきた。
俺はカーステレオのスイッチを入れてCDをかけた。
いつもの曲が車内に流れる。
「えーび♪ ランラン♪ ランラン♪ ランラン♪ ランラン♪」
「ランラン♪ ランラン♪ ランララン♪」
ソフィーとシスターエレナが歌い出した。
ダンジョンを出て魔の森の中を走る。
天気は良くて、森の木々の間から木漏れ日がさす。
外からフレイルさんとガイウスの会話が聞こえてきた。
「これは参った! 救出作戦のはずがピクニックになってしまった!」
「ははは! コイツらは、いつもこんな感じさ! 楽しくて良いだろ?」
「違いない!」
しばらくして、移動販売車は無事にサイドクリークの町へ到着した。
俺は無事に帰れたこと、冒険者たちを救出できたことに喜び、力を与えてくれた何者かに感謝した。
―― 第六章 完 ――
第七章に続きます。
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