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ルドルのダンジョン編

第39話 えっ!? いきなりラスボスと戦いに行くんですか!?

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「10階層のボスを、倒しに行く!?」

 俺は、サクラの提案に仰天した。

 今、俺達がいるのは、ルドルのダンジョン4階層だ。
 4階層の探索は、今日が初日だ。
 その俺達が、一気に10階層!?

 このルドルのダンジョンは、最下層が10階層だ。
 一気にラスボスを倒しに行こうとサクラは提案している。

「サクラ。何で、そんな急に、10階層のボス攻略なんて言い出すんだ?」

「わたしたちは、明日からヒロトルートと精霊ルートの探索をするからです。通常ルートの探索は、今日がラストですよね? なら、通常ルートのラスボスにアタックかけましょう!」

 サクラは胸を反らし、ふんすと鼻息荒く宣言した。

 サクラの言う通りで、双子からマジックバッグや無限の矢筒を貰ったんだ。
 明日からは、ヒロトルートと精霊ルートを、探索しない訳にはいかない。

 しかし、これから行った事の無い階層を踏破して、ラスボスまで撃破するのは無茶じゃないだろうか?
 パーティーのリーダーとしては、ちょっと認めづらい提案だ。

「うーん……」

「それに、情報は、ヒロトさんを待っている間に。仕入れておきましたよ」

 サクラは、ポケットから折りたたんだ地図を取り出した。
 ダンジョン入り口前の露店で売っている、ダンジョンマップだ。

 サクラが、地図を床に広げて解説を始めた。
 俺とセレーネも床に座り込んで、サクラの話を聞く。

「10階層までのルートは単純です。地図の下から上、上から下の順で移動すれば、下の階層への階段があります」

「ボス部屋が、4階層からあるだろう?」

「スルー出来る所は、スルーします」

「スルー? 通過するって事?」

「はい。各階層のボスのリポップ、ボスが再び出現するのは、30分に1回の割合です。他のパーティーが倒していれば、横を通らせて貰えます」

 確かにそれなら、各フロアボスとの戦闘時間が短縮出来る。
 セレーネが、身を乗り出してニヤッと笑った。

「面白そうじゃない!」

 また……。
 セレーネは、狩りモードに入ってしまったらしい。
 やたら好戦的な雰囲気を、漂わせ出している。

「10階層のボスは、オオヒクイドリ。魔法攻撃の耐性があるので、物理攻撃中心になります。弱点は細い首です」

「【スリープ】は、かからないのか……」

「試しては見ますが、ダメな前提で作戦を立てた方が良いと思います」

「じゃあ、サクラが、飛び回って囮になって、セレーネが矢で援護。俺がスキを見て、弱点の首に斬りつけるか……」

「それでイケると思います」

 何か、やれそうな感じだな。
 ヒクイドリは、転生前にオーストラリア旅行で見た事がある。
 カラフルなダチョウって感じで、確かに首は細い。
 あれを斬り飛ばせば、何とかなるか。

 待てよ!
 思い出した!

「あ! 師匠から6階層までにしておけ、って言われてたんだ」

「あ~!」

 セレーネも思い出したみたいで、がっかりした声を出した。
 サクラは、冷静に何枚かある地図をめくっている。

「それ、たぶん、7階層から、罠があるからですね」

「罠か! それで師匠は6階層までにしとけと言ったのか」

「大丈夫ですよ。この地図に罠の場所が書いてあるから、避けられますよ」

 サクラは、7階層以降の地図を床に広げて、印の付いた箇所を指さした。
 なるほど、これなら罠を回避して、先に進めそうだ。

「罠は膝丈くらいの落とし穴です。危険性は低いですよ」

「なら、いけるか……」

 しかし、それにしても……。
 勝算があるとは言え、いきなりラスボスは強引な提案と感じる。

 サクラには、何か考えがあるのかな?

「サクラ、狙いは何だ? 何か、考えや、狙いがあるから、ラスボス攻略の提案をしたんじゃないか?」

 サクラは、俺の目を見て、悪戯っぽく微笑みながら答えた。

「うーん、簡単に言うと、名を上げる、って事ですね」

「有名になるって事か?」

「実力のあるパーティー、冒険者であると認知される事ですね。今日、ヒロトさんが、冒険者ギルドで、暴れたでしょう?

「うん」

 サクラは、グッっと引き締まった顔をして続けた。
 口調は厳しい。

「やっぱり、ナメられているんですよ。わたしとセレーネさんも含めて。で、ヒロトさんが暴れたその日に、10階層ボスの攻略を達成すればですね……」

「なるほど。俺が暴れた噂と共に、俺たちのダンジョン踏破が知れ渡り、俺たちが実力あるパーティーとして噂が広まると……」

「はい。10階層とは言え、ダンジョン踏破ですからね。ラスボスのオオヒクイドリは、決して弱い魔物ではないですし。それに……」

「まだ、何かあるの?」

「明日からは、他のパーティーが、私たちを見かけなくなりすよね。でも、ヒロトルートや精霊ルートは、秘密にしておきたい……」

「ああ! 噂のヒロトパーティーが、ダンジョン内で見かけないとなると、不審がられるよな。詮索するヤツもいるかもしれない……」

「でも、10階層のボスを倒しておけば、ダンジョン踏破したので、ノンビリ遺品回収の依頼をこなしている、人のいないダンジョンの奥の方を探している、と言えますよ」

「なるほど!」
「良いじゃないですかね~」

 サクラの提案は、良さそうだ。
 セレーネも、賛成している。

 ただ、問題は時間だ。
 手持ちの食料は、お昼用のチアキママのサンドイッチとチーズレーションが少しだ。
 2食分しかない。

「うーん。水は、地図に水場が書いてあったので、補給が出来るとして、食料が2食分しかない。今から、夜までに10階層へ行って、戻って来るのは、時間が厳しいな……」

 俺が地図を睨みながらつぶやくと、サクラが失言した。

「わたしが飛行して、ヒロトさんがセレーネさんを、おんぶして【神速】で移動すれば、行けますよ」

(ちょ! サクラ! 【神速】の事セレーネに、まだ話していない!)

 俺は心の中で苦情をサクラに申し立てたが、サクラは俺に【意識潜入】していなかったようだ。
 サクラからの返事は、無かった。
 俺は、サクラをジトッと抗議する目で見つめた。

スキル【神速】は、悪魔と取引して得たカードのスキルだ。
スキル【神速】の事を説明するとなると、悪魔の事をセレーネに話さなきゃならない。

 それは、避けたい。
 俺が対応に困っていると、セレーネが事も無げに言い出した。

「それで、良いんじゃない? ヒロトには悪いけど、ヒロトの【神速】で時間を稼いで貰うのが一番良いよ」

 俺は驚いて、サクラからセレーネに視線を移した。
 何でセレーネが【神速】の事を、知っているのか?
 セレーネは、俺と目が合うとキョトンとした顔をした。

「ヒロト~、何~?」

「いや。セレーネ……。何で、俺のスキル【神速】の事を、知っているの?」 

「朝~。冒険者ギルドで、ヒロトのステータスチェックしたから」

「え!? セレーネは、俺のステータスがチェック出来るの?」

「当り前じゃない。同じパーティーに入っている者なら、お互いのステータスを見られるよ~」

「し、知らなかった……」

 俺は、セレーネのステータスを開くように念じてみた。
 すると、目の前にステータス画面が現れて、セレーネのステータスが表示された。

「ヒロトは、凄いよね~。やっぱり神速のダグの弟子だから、【神速】が付いたのかな~」

 あ……。
 俺のステータス変化は、セレーネに筒抜けだった訳ね。
 でも、不信がられなかったのは、俺が神速のダグの弟子だから……、か……。

 そうか、自分では色々心配していたけれど、神速のダグの弟子だから、この一言で押し通せるのか。
 なら、俺のステータスやスキルは、あまり隠さなくても問題ないな。

「あー、そう。やっぱ師匠の教え方が良いのかな~。スキルが沢山増えたんだよね~」

「うらやましいな~」

 本当は、悪魔との取引や、裏スキルのお陰なんだけどね。
 まあ、その事は黙っておこう。

 俺とセレーネのやり取りを見て、サクラがニヤニヤと笑っている。
 俺の考えている事が、大体分かっているみたいだ。

 俺は一つ深く息を吸うと、決断した。

「よし! これから10階層のボス攻略に向かおう。交戦はなるたけ避けて、移動速度優先で行く。昼食は、途中の水場で行う。この部屋に転がっている獲物を回収したら、移動開始だ」

「了解!」
「了解!」

 よ~し!
 オオヒクイドリを、ボコリに行きますか!
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