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王都編
第81話 王都第三冒険者ギルド
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「サクラ! 二匹行った!」
「りょーかい!」
王都郊外の道で、俺、サクラ、セレーネは、ゴブリンの集団に襲われた。
ゴブリン単体は弱いのだが、何せ数が多い。
三十匹以上いる!
「セレーネ! 左!」
「任せて!」
俺はスキル【神速】を使った高速移動で、次々にゴブリンを斬り伏せる。
セレーネは、道沿いに生えている大木を上手くブラインドにして矢で狙撃だ。一匹一匹確実にゴブリンの数を減らす。
サクラは……。
「メリケンボルト!」
ゴブリン相手に必殺技を使っている。
効率悪いな……。
オーバーキルだろう。
戦闘を開始して五分ほどで、ゴブリンの集団を倒した。
三匹のゴブリンが逃げ去るが、俺たちは後を追わない。
「逃げた奴は、ほっとこう。それより第三冒険者ギルドへ行こう」
「そうしましょう」
俺たちは王都郊外にある第三冒険者ギルドへ向かっている。
第三冒険者ギルドはエリス姫の派閥に属しているので、王都では第三冒険者ギルドで活動するようにエリス姫に頼まれているからだ。
今日の午前中、王都の中心にある冒険者ギルドを尋ねたら『第一』冒険者ギルドだった。
王都では冒険者ギルドと言えば『第一』冒険者ギルドの事らしい。
第一冒険者ギルドで『第三』冒険者ギルドの場所を聞いたが、誰も知らない。
あちこちで聞いて回って、どうやら王都郊外北側に『第三』冒険者ギルドはあるらしい。
やっとわかった第三冒険者ギルドのある場所へ向かっていたのだけれど、王都郊外の道でゴブリンの集団に襲われたのだ。
セレーネが道一杯に倒れているゴブリンを指さす。
「ねえ。このゴブリンは、どうしようっか?」
ゴブリンねえ……。
食べられ……ないよなあ。
「ゴブリンから使える魔物素材は取れるのか?」
「聞いた事がないよ。それにルドルの近くでゴブリンは出なかったし……」
そうなんだよな。
俺たちが住んでいたルドルの街とその近辺にゴブリンはいなかった。
だから、この魔物が高く売れるのか、それとも安いのかわからない。
ただ、昔、他所の街から来た冒険者に聞いた話では――
『ゴブリンは食べられない』
『使える素材もない』
『魔石も小さくて儲からない』
――と言うありがたくない魔物筆頭格らしい。
「まあ、道に放置しておく訳にもいかないし。マジックバッグに収納しておくか……」
「そうですね」
「そうだね」
ゴブリンは、人間の子供くらいの大きさで、皮膚は緑色、目はぐりっと大きく口は顎の付け根まで裂けている。
控えめに言って醜い。不気味な人型の魔物だ。
流れ出る血は青かった。
俺たちは、ゴブリンをマジックバッグに収納すると、第三冒険者ギルドを目指し道を急いだ。
*
「あった!」
王都から三十分ほど歩いた野原の真ん中に、第三冒険者ギルドはあった。
大きめの丸太小屋で、屋根に『王都第三冒険者ギルド』と看板が出ている。
サクラとセレーネの足が止まる。
「えっ!? これですか!?」
「第一冒険者ギルドと差があるね……」
確かに!
王都の中心にある第一冒険者ギルドは、大きく立派な建物で冒険者や商人も沢山出入りしていた。
目の前にある第三冒険者ギルドは……、えっと……、山小屋か何か?
人の出入りもない。
だが、煙突から煙が出ているので、誰かしら人はいるようだ。
「入ってみますか……」
「そうですね」
「行ってみよう!」
階段を上がってポーチへ、木製のドアを開けると『カラン! カラン!』とドアに取りつけた鐘が鳴った。
「すいませーん」
第三冒険者ギルドの中は、ウッディーな喫茶店っ感じだ。
前世日本の別荘地にでもありそうだな。
入ってすぐのスペースに木製の頑丈そうな丸テーブルとイスが四セットほど、その奥にこじんまりとした木製カウンターある。
あれが受付カウンターかな?
「ヒロトさん、あそこに受付カウンターが――」
受付カウンターに目をやったサクラの言葉が止まった。
あれは――。
「「「ハゲール!」」」
ルドルの街の冒険者ギルドマスターだ。
なぜ、ここに?
しかし、ハゲールの様子がおかしい。
目を伏せ何かブツブツとつぶやいている。
ハゲールに近寄り耳を澄ますと何を言っているのか聞こえて来た。
「ウソだ……。ウソだ……。あり得ない……。こんな小さな田舎ギルドが王都のギルドだなんて……」
なんか……大丈夫かな……。
俺はハゲールの様子に心配したが、サクラとセレーネは容赦のないガールズトークを展開させた。
「どうしたんですかね? ギルドマスターは?」
「女の人にふられたんじゃない?」
「あー、それはありそう! 原因はなんだろう?」
「うーん……やっぱりハゲ?」
「体臭じゃないですかね?」
「あー。確かに臭い!」
もう、ひどい言われようだ。
女の子怖い。
こちらに意識を向けてくれないハゲールを前に、どうしようかと悩んていると奥からジュリさんが出て来た。
「あー! ヒロト君! サクラちゃん! セレーネちゃん! 来てくれたのね!」
「「「ジュリさん!」」」
ジュリさんは、ルドルの街の冒険者ギルドで受付をやっていた。
ハゲールにしろ、ジュリさんにしろ、何で王都の第三冒険者ギルドにいるんだろう?
「まあ、座って! 今、お茶を淹れるわね!」
ジュリさんに促されて、俺たちは丸テーブルの方へ座った。
いや、だって、カウンターでグシグシと愚痴をこぼすハゲールのそばは嫌だよ。
丸テーブルにつくと、すぐにジュリさんがハーブティーを淹れて来てくれた。
野草を乾燥したお茶はピンク色で、ちょっとすっぱい。
ハーブティーをいただいて落ち着いた所で、俺は質問を始めた。
「あの……ジュリさんとギルドマスターは、なぜここに?」
「エリス姫様が手配してくれたのよ。ギルドマスターに約束してたんですって。王都にある冒険者ギルドのギルドマスターにしてやるって」
そう言えば、そんな話しもあったような……。
ジュリさんは話しを続ける。
「それでね。私も王都のギルドで働かないかって、ギルドマスターに誘われたのよ。ほら! 何せ王都でしょ! 都会よね~! やっぱり行ってみたいし、憧れるわよ!」
「わかりますよ~。私は山の中で猟師をしていたから、都会って凄い憧れがありますよ~」
「そうでしょ! セレーネちゃん! やっぱり王都は違うわよね!」
「人も凄く多いし、お店も沢山あるし!」
「そうよ! お洋服が可愛いお店見つけたのよ! 今度一緒に行く?」
「「行きます!」」
サクラも加わり、あっと言う間にガールズトークに花が咲いた。
もう、こういう感じは慣れたよ。
こういう時は、黙って話しを聞いていれば良い。
下手に話しの腰を折ると女子の機嫌が悪くなるのだ。
異世界で女子の扱いをほんの少し学んだ俺は、賢者のごとく笑みをたたえ黙って茶をすする。
話しは服の話しから、食べ物の話しへ。
どこそこの店の菓子が美味しいとか、焼き栗屋台の食べ比べをしたいとか、知らんがな……。
「そう言えば、サクラちゃんたちは、いつ王都へ着いたの?」
「私たちは十日前ですね。ダグさんとチアキママさんと一緒です。ジュリさんは?」
「私は五日前。即仕事だったわよ」
「うわっ! すぐに仕事ですか! 引っ越しの片付けとかは?」
「まだよ……。サクラちゃんたちは?」
「私たちは、終わりました。と言うか……今度住むのは、使用人がいるお屋敷で……。私たちは使用人に指示するだけでしたよ」
「な、なんか凄いわね! ダグさんのお屋敷?」
「そーです」
そうなのだ。
師匠こと神速のダグ兼俺の父親は、王都にどでかい屋敷を買っていた。
四階建ての立派な広い屋敷で、部屋も沢山! 使用人も沢山!
おまけに大きな風呂もある!
お金の事が心配になったのだけれど、『大丈夫だ! 大船に乗ったつもりで任せろ!』と師匠は請け負ったのだ。
お約束の『大船が泥船』じゃなきゃ良いけど……。
それで、新居に慣れ、王都での新生活をスタートさせるのに十日かかった。
すぐに職場に出て来たジュリさんには頭が下がる。
俺は頃合いと見て、会話に加わった。
「ここのギルドはどうですか?」
「どうもこうもないわよ! 見ての通りよ! 職員は私とギルドマスターだけ! 所属している冒険者パーティーは一組だけ! ド田舎のギルドよりもお寒い惨状よ!」
「「「……」」」
職員二人と冒険者パーティー一組だけのギルド?
凄いと言うか、酷いと言うか……。
「それでハゲール――ギルドマスターが、ああやって現実逃避を?」
「そうよ~。そろそろしっかりして欲しいわ!」
まあ、ハゲールには、ちょっと同情する。
王都のギルドへ栄転と思ったら、こんな弱小ギルドでしたってオチがついたのだ。
「なんか弱小ギルドと言うより、マイクロギルドと言うか……」
「毛穴ギルド?」
「ハゲールだけに?」
サクラとセレーネが無慈悲な冗談をかっ飛ばした。
するとハゲールが動いた!
「貴様ら! 今! 何と言った!」
「「キャア~!」」
「弱小!? マイクロ!? 毛穴!? ふんっ! オマエたちは、そのちっぽけなギルド所属の冒険者になるんだぞ? せいぜいこき使ってやる……覚悟しておけ!」
ハゲールが復活した!
ハゲールゲージが怒りで満タンになったか!
「お手柔らかにお願いしますよ……」
「今度はダンジョンでなく、フィールドで戦ってもらうからな! 敵はゴブリンやオークだ! あいつらは集団でわらわらと出て来るからな!」
「知ってます。さっき戦いましたよ……」
復活したと思ったら、説教モードかよ。
なんか居酒屋で女の子と楽しく飲んでたら、隣のおじさんにからまれた気分だ。
「えーと、それよりギルドマスター。この第三冒険者ギルドの活動方針とか、そう言うのを――」
「いいだろう! 耳の穴をかっぽじって、よーく聞け!」
なんか、アレだな。
威張る相手がやって来て、変な張り切り方をしているんだな。
まあ、それでも、さっきの落ち込んだ状態よりマシだな。
そう考えよう。うん。
大威張りのハゲールが説明を始めた。
ハゲールによると――
・この辺り一帯、王都の北側には魔の森がある。
・ゴブリンやオークのような人型の魔物やフォレストウルフのような獣型の魔物が出没する。
・魔物は人や家畜を襲うので危険。
・王都第三冒険者ギルドは、これらの魔物が王都の生活エリアに入らないように防ぎ、魔の森に入り適切に間引くのが仕事。
――と言う事らしい。
俺は黙って聞いていたが、疑問がムクムクと湧いて来た。
「結構大事な仕事ですよね? それで一組しか冒険者パーティーがいないって言うのは……?」
「おかしいだろう? 例の! あの! ウォールが! 第一冒険者ギルドへ引き抜いたのだ!」
「あっ……王位継承争いの余波か……」
なるほどね。
冒険者の引き抜き合戦が、王都でも行われていたのか!
ルドルの街でも苛烈だったからなあ~。
「そこでだ! ギルドマスターとしてヒロトのパーティーに依頼するぞ! オマエら! ゴブリンやオークを片っ端から狩ってこい! あいつらは害虫だ! 今すぐ行け!」
「いや、ちょっと……今すぐとか――」
「これは! 王都の安全と王都民を守る重要依頼だ!」
「はあ……それはそうですが……」
「四の五の言わずに! さっさと行ってこい!」
俺たちは、第三冒険者ギルドから叩き出されるようにして送り出された。
「りょーかい!」
王都郊外の道で、俺、サクラ、セレーネは、ゴブリンの集団に襲われた。
ゴブリン単体は弱いのだが、何せ数が多い。
三十匹以上いる!
「セレーネ! 左!」
「任せて!」
俺はスキル【神速】を使った高速移動で、次々にゴブリンを斬り伏せる。
セレーネは、道沿いに生えている大木を上手くブラインドにして矢で狙撃だ。一匹一匹確実にゴブリンの数を減らす。
サクラは……。
「メリケンボルト!」
ゴブリン相手に必殺技を使っている。
効率悪いな……。
オーバーキルだろう。
戦闘を開始して五分ほどで、ゴブリンの集団を倒した。
三匹のゴブリンが逃げ去るが、俺たちは後を追わない。
「逃げた奴は、ほっとこう。それより第三冒険者ギルドへ行こう」
「そうしましょう」
俺たちは王都郊外にある第三冒険者ギルドへ向かっている。
第三冒険者ギルドはエリス姫の派閥に属しているので、王都では第三冒険者ギルドで活動するようにエリス姫に頼まれているからだ。
今日の午前中、王都の中心にある冒険者ギルドを尋ねたら『第一』冒険者ギルドだった。
王都では冒険者ギルドと言えば『第一』冒険者ギルドの事らしい。
第一冒険者ギルドで『第三』冒険者ギルドの場所を聞いたが、誰も知らない。
あちこちで聞いて回って、どうやら王都郊外北側に『第三』冒険者ギルドはあるらしい。
やっとわかった第三冒険者ギルドのある場所へ向かっていたのだけれど、王都郊外の道でゴブリンの集団に襲われたのだ。
セレーネが道一杯に倒れているゴブリンを指さす。
「ねえ。このゴブリンは、どうしようっか?」
ゴブリンねえ……。
食べられ……ないよなあ。
「ゴブリンから使える魔物素材は取れるのか?」
「聞いた事がないよ。それにルドルの近くでゴブリンは出なかったし……」
そうなんだよな。
俺たちが住んでいたルドルの街とその近辺にゴブリンはいなかった。
だから、この魔物が高く売れるのか、それとも安いのかわからない。
ただ、昔、他所の街から来た冒険者に聞いた話では――
『ゴブリンは食べられない』
『使える素材もない』
『魔石も小さくて儲からない』
――と言うありがたくない魔物筆頭格らしい。
「まあ、道に放置しておく訳にもいかないし。マジックバッグに収納しておくか……」
「そうですね」
「そうだね」
ゴブリンは、人間の子供くらいの大きさで、皮膚は緑色、目はぐりっと大きく口は顎の付け根まで裂けている。
控えめに言って醜い。不気味な人型の魔物だ。
流れ出る血は青かった。
俺たちは、ゴブリンをマジックバッグに収納すると、第三冒険者ギルドを目指し道を急いだ。
*
「あった!」
王都から三十分ほど歩いた野原の真ん中に、第三冒険者ギルドはあった。
大きめの丸太小屋で、屋根に『王都第三冒険者ギルド』と看板が出ている。
サクラとセレーネの足が止まる。
「えっ!? これですか!?」
「第一冒険者ギルドと差があるね……」
確かに!
王都の中心にある第一冒険者ギルドは、大きく立派な建物で冒険者や商人も沢山出入りしていた。
目の前にある第三冒険者ギルドは……、えっと……、山小屋か何か?
人の出入りもない。
だが、煙突から煙が出ているので、誰かしら人はいるようだ。
「入ってみますか……」
「そうですね」
「行ってみよう!」
階段を上がってポーチへ、木製のドアを開けると『カラン! カラン!』とドアに取りつけた鐘が鳴った。
「すいませーん」
第三冒険者ギルドの中は、ウッディーな喫茶店っ感じだ。
前世日本の別荘地にでもありそうだな。
入ってすぐのスペースに木製の頑丈そうな丸テーブルとイスが四セットほど、その奥にこじんまりとした木製カウンターある。
あれが受付カウンターかな?
「ヒロトさん、あそこに受付カウンターが――」
受付カウンターに目をやったサクラの言葉が止まった。
あれは――。
「「「ハゲール!」」」
ルドルの街の冒険者ギルドマスターだ。
なぜ、ここに?
しかし、ハゲールの様子がおかしい。
目を伏せ何かブツブツとつぶやいている。
ハゲールに近寄り耳を澄ますと何を言っているのか聞こえて来た。
「ウソだ……。ウソだ……。あり得ない……。こんな小さな田舎ギルドが王都のギルドだなんて……」
なんか……大丈夫かな……。
俺はハゲールの様子に心配したが、サクラとセレーネは容赦のないガールズトークを展開させた。
「どうしたんですかね? ギルドマスターは?」
「女の人にふられたんじゃない?」
「あー、それはありそう! 原因はなんだろう?」
「うーん……やっぱりハゲ?」
「体臭じゃないですかね?」
「あー。確かに臭い!」
もう、ひどい言われようだ。
女の子怖い。
こちらに意識を向けてくれないハゲールを前に、どうしようかと悩んていると奥からジュリさんが出て来た。
「あー! ヒロト君! サクラちゃん! セレーネちゃん! 来てくれたのね!」
「「「ジュリさん!」」」
ジュリさんは、ルドルの街の冒険者ギルドで受付をやっていた。
ハゲールにしろ、ジュリさんにしろ、何で王都の第三冒険者ギルドにいるんだろう?
「まあ、座って! 今、お茶を淹れるわね!」
ジュリさんに促されて、俺たちは丸テーブルの方へ座った。
いや、だって、カウンターでグシグシと愚痴をこぼすハゲールのそばは嫌だよ。
丸テーブルにつくと、すぐにジュリさんがハーブティーを淹れて来てくれた。
野草を乾燥したお茶はピンク色で、ちょっとすっぱい。
ハーブティーをいただいて落ち着いた所で、俺は質問を始めた。
「あの……ジュリさんとギルドマスターは、なぜここに?」
「エリス姫様が手配してくれたのよ。ギルドマスターに約束してたんですって。王都にある冒険者ギルドのギルドマスターにしてやるって」
そう言えば、そんな話しもあったような……。
ジュリさんは話しを続ける。
「それでね。私も王都のギルドで働かないかって、ギルドマスターに誘われたのよ。ほら! 何せ王都でしょ! 都会よね~! やっぱり行ってみたいし、憧れるわよ!」
「わかりますよ~。私は山の中で猟師をしていたから、都会って凄い憧れがありますよ~」
「そうでしょ! セレーネちゃん! やっぱり王都は違うわよね!」
「人も凄く多いし、お店も沢山あるし!」
「そうよ! お洋服が可愛いお店見つけたのよ! 今度一緒に行く?」
「「行きます!」」
サクラも加わり、あっと言う間にガールズトークに花が咲いた。
もう、こういう感じは慣れたよ。
こういう時は、黙って話しを聞いていれば良い。
下手に話しの腰を折ると女子の機嫌が悪くなるのだ。
異世界で女子の扱いをほんの少し学んだ俺は、賢者のごとく笑みをたたえ黙って茶をすする。
話しは服の話しから、食べ物の話しへ。
どこそこの店の菓子が美味しいとか、焼き栗屋台の食べ比べをしたいとか、知らんがな……。
「そう言えば、サクラちゃんたちは、いつ王都へ着いたの?」
「私たちは十日前ですね。ダグさんとチアキママさんと一緒です。ジュリさんは?」
「私は五日前。即仕事だったわよ」
「うわっ! すぐに仕事ですか! 引っ越しの片付けとかは?」
「まだよ……。サクラちゃんたちは?」
「私たちは、終わりました。と言うか……今度住むのは、使用人がいるお屋敷で……。私たちは使用人に指示するだけでしたよ」
「な、なんか凄いわね! ダグさんのお屋敷?」
「そーです」
そうなのだ。
師匠こと神速のダグ兼俺の父親は、王都にどでかい屋敷を買っていた。
四階建ての立派な広い屋敷で、部屋も沢山! 使用人も沢山!
おまけに大きな風呂もある!
お金の事が心配になったのだけれど、『大丈夫だ! 大船に乗ったつもりで任せろ!』と師匠は請け負ったのだ。
お約束の『大船が泥船』じゃなきゃ良いけど……。
それで、新居に慣れ、王都での新生活をスタートさせるのに十日かかった。
すぐに職場に出て来たジュリさんには頭が下がる。
俺は頃合いと見て、会話に加わった。
「ここのギルドはどうですか?」
「どうもこうもないわよ! 見ての通りよ! 職員は私とギルドマスターだけ! 所属している冒険者パーティーは一組だけ! ド田舎のギルドよりもお寒い惨状よ!」
「「「……」」」
職員二人と冒険者パーティー一組だけのギルド?
凄いと言うか、酷いと言うか……。
「それでハゲール――ギルドマスターが、ああやって現実逃避を?」
「そうよ~。そろそろしっかりして欲しいわ!」
まあ、ハゲールには、ちょっと同情する。
王都のギルドへ栄転と思ったら、こんな弱小ギルドでしたってオチがついたのだ。
「なんか弱小ギルドと言うより、マイクロギルドと言うか……」
「毛穴ギルド?」
「ハゲールだけに?」
サクラとセレーネが無慈悲な冗談をかっ飛ばした。
するとハゲールが動いた!
「貴様ら! 今! 何と言った!」
「「キャア~!」」
「弱小!? マイクロ!? 毛穴!? ふんっ! オマエたちは、そのちっぽけなギルド所属の冒険者になるんだぞ? せいぜいこき使ってやる……覚悟しておけ!」
ハゲールが復活した!
ハゲールゲージが怒りで満タンになったか!
「お手柔らかにお願いしますよ……」
「今度はダンジョンでなく、フィールドで戦ってもらうからな! 敵はゴブリンやオークだ! あいつらは集団でわらわらと出て来るからな!」
「知ってます。さっき戦いましたよ……」
復活したと思ったら、説教モードかよ。
なんか居酒屋で女の子と楽しく飲んでたら、隣のおじさんにからまれた気分だ。
「えーと、それよりギルドマスター。この第三冒険者ギルドの活動方針とか、そう言うのを――」
「いいだろう! 耳の穴をかっぽじって、よーく聞け!」
なんか、アレだな。
威張る相手がやって来て、変な張り切り方をしているんだな。
まあ、それでも、さっきの落ち込んだ状態よりマシだな。
そう考えよう。うん。
大威張りのハゲールが説明を始めた。
ハゲールによると――
・この辺り一帯、王都の北側には魔の森がある。
・ゴブリンやオークのような人型の魔物やフォレストウルフのような獣型の魔物が出没する。
・魔物は人や家畜を襲うので危険。
・王都第三冒険者ギルドは、これらの魔物が王都の生活エリアに入らないように防ぎ、魔の森に入り適切に間引くのが仕事。
――と言う事らしい。
俺は黙って聞いていたが、疑問がムクムクと湧いて来た。
「結構大事な仕事ですよね? それで一組しか冒険者パーティーがいないって言うのは……?」
「おかしいだろう? 例の! あの! ウォールが! 第一冒険者ギルドへ引き抜いたのだ!」
「あっ……王位継承争いの余波か……」
なるほどね。
冒険者の引き抜き合戦が、王都でも行われていたのか!
ルドルの街でも苛烈だったからなあ~。
「そこでだ! ギルドマスターとしてヒロトのパーティーに依頼するぞ! オマエら! ゴブリンやオークを片っ端から狩ってこい! あいつらは害虫だ! 今すぐ行け!」
「いや、ちょっと……今すぐとか――」
「これは! 王都の安全と王都民を守る重要依頼だ!」
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「四の五の言わずに! さっさと行ってこい!」
俺たちは、第三冒険者ギルドから叩き出されるようにして送り出された。
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父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
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