没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平

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第一章 王都から追放

第13話 間話 ゴールドフンガー! 黄金便座を持つ男

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 ――ルナール王国の王都、『薔薇の都』パリシイ。

 薔薇の都に建つ壮麗《そうれい》なソレイユ宮殿で、国王ルドヴィク十四世は目覚めた。
 爽やかな朝である。

 召使いの手によって身支度を整えられ朝食を済ませる。
 優雅に朝食後のお茶を済ませると、宰相マザランが面会を求めてきた。

「国王陛下。おはようございます。今朝もご機嫌うるわしく」

「うむ。ご苦労。今朝は実にすがすがしい気分で目が覚めたぞ!」

「それは、ようございます」

 国王ルドヴィク十四世はご機嫌だった。
 エトワール伯爵家を王都から追放し、エトワール伯爵家の領地と王都屋敷を手に入れたからだ。

(これでルナール王国の中央部に王家の領地が増える……。後々、もめ事の種にならないように、エトワール伯爵家の人間を消せば完璧だ)

 エトワール伯爵家の当主は毒殺した。
 残るは、二人の子供だけだ。
 二人がこの世から消え去れば、後顧《こうこ》の憂《うれ》いがなくなる。

 幼い子供に手をかけるのは、心が痛む。
 ああ、私はなんと心優しい人間なのだろう!

 国王ルドヴィク十四世は、自分の優しさに満足し、ウキウキとした気持ちで宰相マザランに結果を確認した。

「して、首尾は?」

「申し訳ございません……」

「何? 失敗したのか?」

「はい。残念ながら。手の者が到着した時は、既に馬車が動いており逃げおおせたと……」

「うーむ……」

 国王ルドヴィク十四世は、腕を組みうなり声を上げた。
 だが、宰相マザランに責を問うことはなかった。

 国王ルドヴィク十四世にとって、宰相マザランは幼少の頃から帝王学を教わった教師であり、時に父代わりであった。
 父が早逝し、四歳の時に即位してから、自分を支え続けてくれた大切な臣下であり、悪巧みの相棒でもある。

「我が宰相よ。気に病むことはない。宰相の手配で失敗したのなら、誰が手配しても失敗しただろう」

「国王陛下のご寛容に感謝いたします」

「次の手は?」

「追っ手を仕向けます」

「良いだろう。我らが黒幕だと露呈《ろてい》しないように気を付けよ。国王が幼い子供に手をかけたとあっては、風聞《ふうぶん》が悪いからな」

「はい。足のつかない者を使いましょう。ところで陛下。そろそろ謁見のお時間でございます」

「うむ」

 これで邪魔者はいなくなる。
 国王ルドヴィク十四世は、爽やかな気持ちを取り戻し、謁見を行う太陽神の間へ向かった。

 太陽神の間――昨晩、ノエルとネコネコ騎士のみーちゃんが忍び込んだ部屋である。

 国王ルドヴィク十四世と宰相マザランが、太陽神の間に近づいた。
 おかしなことに太陽神の間に入る扉の前で、謁見予定の貴族と侍従がもめていた。

「なぜ、入れないのだ!」

「お待ち下さい! お部屋が整っておりません!」

「整ってないとは、どういうことか!」

「整っていないとは、整っていないということです!」

 侍従のハッキリしない物言いに、待たされている貴族は苛立っていた。
 そこへ国王ルドヴィク十四世が現れ、声を掛けた。

「何をしておるのだ?」

「こ、国王陛下!」

 侍従は真っ青な顔になった。

「謁見の時間であろう。国務は滞《とどこお》りなく進めねばならん。太陽神の間に入れよ」

「そ、それが……準備が整っておりませんので……。別のお部屋を……」

「なんだ? 掃除を忘れたのか? まあ、良い。以後、気を付けよ」

「ああ! お待ち下さい!」

 国王ルドヴィク十四世は、警護の兵士に扉を開けさせ太陽神の間に入った。
 軽やかな足取りで玉座へ向かう。
 そしていつものように黄金の玉座がある場所……、黄金の玉座であったであろう物に腰掛けた。

「さて――むっ! 座り心地が変だな……」

「国王陛下……」

 宰相マザランが言葉を失う。
 国王ルドヴィク十四世は、黄金の便座にどっしりと腰掛けていたのだ。

「な!? なんだこ!? れは!?」

 動揺する国王ルドヴィク十四世。
 便座から立ち上がり、自分が座っていた便座を二度見する。

 宰相マザランが侍従に詰め寄った。

「説明せよ!」

「そ、それが……。先ほど太陽神の間を清めようと扉を開けたところ、玉座が便座に変わっておりまして……」

「ええい! そんなバカな話があるか! なぜ陛下をお通ししたのだ!」

「ですから! 準備が整っていないと申し上げたのです!」

「馬鹿者ぉぉおおおお!」

 宰相マザランが侍従を叱りつけ、国王ルドヴィク十四世は仕方なく黄金の便座に腰掛けながら頭を抱えた。

 謁見予定の貴族は、その姿を見て必死に笑いを堪えた。
 貴族は国王と宰相から、度々圧力を受けていたので良い気味だと思ったのだ。

「はて? 陛下? なにゆえ太陽神の間に黄金の便座があり、陛下が便座に腰掛けられているのでしょう?」

「いや……これは……」

「用をお足しになるなら退出いたしますが?」

「違う! そうではない!」

 国王ルドヴィク十四世は、顔を真っ赤にして怒った。
 貴族は、その様子がおかしく、表面は澄ました顔をしたが、内心で大笑いしていた。

「いや、陛下のご趣味も変わられましたな。私も陛下に便座を献上いたしましょうか?」

「要らぬ! これはエトワール伯爵の仕業に違いない! あのノエルとかいう小僧め!」

「えっ!? エトワール伯爵!? ノエルとは……確かエトワール伯爵家の嫡男がノエルという名でありましたな?」

「そうだ! ヤツの仕業に違いない!」

「なるほど。エトワール伯爵家のノエル殿が、陛下に黄金の便座を献上したのですな。いや、これは……! そういう意味ですか! 陛下が少年趣味とは気が付きませんでした!」

「違う! あらぬ邪推をするな!」

 国王ルドヴィク十四世は、冷静さを失いメタメタであった。
 貴族は澄ました顔で会話を続けた。

「大変失礼をいたしました。しかし、何故、ノエル殿は、陛下に黄金の便座を献上したのでしょう? 陛下が『便座を愛する男』であるとは、寡聞《かぶん》にして存じませんが?」

「余は便座など好きではない! これはあの小僧の嫌がらせだ! 仕返しに違いない!」

「嫌がらせ? 仕返し? すると陛下はノエル殿に嫌がらせをされたり、仕返しをされたりすることを、何かなさったのでしょうか?」

「――っ!」

 国王ルドヴィク十四世は、仕舞ったと口をつぐんだ。
 エトワール伯爵家から領地や王都屋敷を取り上げたことは、まだ公表していない。

 表向きに発表する内容は――、

 先代エトワール伯爵のギャンブルと借金により、エトワール伯爵家は王都を追放になった。
 反省したノエル・エトワールは、領地と王都屋敷を国王に差し出した。
 国王の慈悲により爵位の継承が認められ、ノエル・エトワールは南部に新しい領地を賜った

 ――と、する予定なのだ。
 嫌がらせや仕返しをする余地のない筋書き。
 国王ルドヴィク十四世は、自分の言葉が失言であったと気が付いた。

「いや……何でもない。そういえば、太陽神の間を改装するのであった。きっと職人の手違いであろう」

(玉座と便座を間違える職人などいないわ!)

 貴族は内心で激しく首を振りながらも、表面は真面目くさって国王に暇乞《いとまご》いをした。

「なるほど。誰しも間違いはありますからな。では、また、日を改めさせていただきます」

「うむ」

 貴族は空とぼけて、国王の御前から退出した。
 だが、このビッグニュースを早く誰かに伝えたいとワクワクしていた。

(エトワール伯爵家の跡を継いだのは、ノエル・エトワール殿……。国王陛下と遺恨アリ! ふふっ……しかし、黄金の便座とは、なかなか楽しませてくれる)

 この貴族は、早速王都の親しい貴族に王宮での出来事を話した。
 話を聞いた貴族の口から、別の貴族へと『黄金の便座』の話は広まった。

 この事件で国王ルドヴィク十四世は、『便座王』、『金便王』と陰で呼ばれるようになった。

 一方、自室へ戻った国王ルドヴィク十四世の怒りは、収まらなかった。
 そこへ宰相マザランが飛び込んできた。

「陛下! エトワール伯爵家の王都屋敷ですが……」

「ん? どうした?」

「何もありません」

 国王ルドヴィク十四世は、首をかしげた。
 宰相マザランの言うことが理解出来なかったのだ。

「マザランよ。そちは何を言っているのだ?」

「ですから、エトワール伯爵家の王都屋敷がなくなったのです!」

 国王ルドヴィク十四世は、眉根を寄せる。

「それは……屋敷の中が空っぽ、もぬけの殻という意味か? ノエルたちが荷物をまとめて出ていったからであろう?」

「違います! エトワール伯爵家の王都屋敷が、更地になっていたのです!」

「……は?」

 国王ルドヴィク十四世は、宰相マザランの言葉を理解しようとした。
 だが、理解出来なかった。

「いや、待て! 立派な屋敷が建っていたはずだ! なぜ、更地になる?」

「私にもわかりません。ですが、部下の報告によれば、エトワール伯爵家の王都屋敷はなく、むき出しの土があるだけだと」

「そんなバカな!」

 国王ルドヴィク十四世は、宰相マザランを連れて、エトワール伯爵家の王都屋敷が『あった場所』へ向かった。

「ない! 本当にない!」

「ございませんね……」

 国王と宰相の前には、むき出しの土が広がる土地があるだけだった。

「売り飛ばす予定であったのに……。これでは土地だけではないか!」

「ですな……。魔法を使っても、こうはなりますまい。一体、どうやって?」

「知るか! おのれノエルめ! 余をコケにしおって! マザランよ! 追っ手を増やすのだ! 必ず仕留めるのだ!」

「かしこまりました! 国王陛下!」

 宰相マザランは、複数の追っ手を仕向けた。
 だが、足がつかないことを条件としたため、最精鋭を人選することは出来なかった。
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