没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平

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第二章 新領地への旅

第26話 前世の転職男

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「ノエル様! 何をおっしゃるのですか!」

「お兄様!」

「ダメニャ!」

 俺がダークエルフを引き受けたいとジロンド子爵に告げると、執事のセバスチャンが真っ先に反対した。
 妹のマリー、ネコネコ騎士のみーちゃんも口を尖らせ反対する。

「ノエル様! 執事の立場で申し上げることではありませんが、このダークエルフを配下に加えるなどお止め下さい! 寝首をかかれますよ!」

 執事のセバスチャンが、物凄い勢いで反対と口にした。
 ここまで強い口調で物言うのは珍しい。
 よほど嫌なのだろう。

 それに、寝首をかかれる危険性は確かにある。

 続いてジロンド子爵が優しい口調で俺を諭す。

「エトワール伯爵。配下を増やしたい気持ちはわかるが、ちょっと心配だよ」

「……」

 俺としても不安があるので、反論出来ない。
 ダークエルフを仲間にするメリットがある一方、デメリットも大きい。
 寝首をかかれる……。
 仲間の反発がある……。

 メリットとデメリット。
 リスクとリターン。

 俺の頭の中で色々な要素がグルグルと回り、考えれば考えるほど分からなくなった。

 そもそもエトワール伯爵家は没落してしまった貧乏貴族で、先代の父上はギャンブル狂い。
 俺は帝王学など教育されていない。

 記憶にある前世日本でも、ごく普通の会社員だった。
 人事に関わった経験はない。

 ダークエルフを仲間に加えるか、否か。
 的確な判断が出来るわけがない。

 俺は考えることが嫌になって、判断を投げ出してしまおうかとも思った。

「お兄様……大丈夫ですか?」

 妹のマリーだ。
 俺が考え込んでいたのを心配して、そばによって俺の手を握った。

 そうだ……。
 俺はマリーを守らなくてはならない。
 父上も母上もいないのだ。

「大丈夫。よく考えなくてはならないことだから、ちょっと考え込んでいただけだよ」

 俺はマリーに向かって笑顔を作った。
 そして、一つ深呼吸をする。

 何か参考になる事例はないだろうか?
 前世の知識でも良い。
 ビジネス本で読んだことでも、職場で聞いた話でも……。
 何か参考になることはないか……。

 俺は自分の記憶を探った。
 すると一つの出来事が頭に浮かんだ。

 前世の勤務先で転職してきた男がいた。
 俺と同年齢で、超一流企業から転職してきたのだ。

『おい、お茶』
『これコピーして』

 転職してきた男は、女性スタッフや若い社員に威張るので、俺は眉をひそめた。
 嫌なヤツだと思った。

 ある日、俺は社長と話す機会があり、思い切って転職男の件を相談した。

『彼は問題があると思います。ウチの会社のカラーにもあっていません。なぜ、彼を採用したのですか?』

 怒られるかなと思ったが、社長は静かに答えてくれた。

『会社はね。同じタイプが揃っていると弱いんだ。だから、違うタイプが必要なんだよ』

『違うタイプ?』

『そう。君とは違うタイプで、気が合わないかもしれない。職場で浮いているかもしれない。けれど、色々なタイプを揃えていた方が会社は強いんだ』

『……』

 俺は社長のことを尊敬していた。
 社長の言葉に納得は出来なかったが、『そういうこともあるのか。社長が色々なタイプを揃えたいなら、それで良い』と矛を収めた。

 それから一年後、転職男が俺に話しかけてきた。

『お客様先でトラブルが起きた。力を貸して欲しい』

 転職男は営業で、海外から日本に進出してきた企業を担当していた。
 困っているらしい。

 俺は『感情と仕事は別だ』と割り切って、転職男に同行した。

 トラブル自体は解決することが出来た。

 驚いたのは転職男の行動だ。
 転職男は、お客様の職場で非常に腰が低く、床に額がつくほど頭を下げていた。

『あ、重そうですね。私がお手伝いしますよ』

 転職男は、クソ暑い日でもスーツの上着を絶対に脱がない。
 だが、客先では上着を脱ぎ、腕まくりをして、重そうな荷物を運ぶお手伝いをしていた。

 俺は会社にいる時とあまりに態度が違うので驚いた。
 同時に感謝をした。

 こんなにお客様先で頭を下げてくれているんだ。
 契約を切られないように、会社を守るために、荷物を運び、汗をかいてくれているんだと。

 社長が言っていた言葉の意味がわかった。

 俺は、転職男のように頭を下げたり、気を利かせて荷物を運んだりすることは出来ない。
 転職男のようなタイプがいたから、あの企業の契約が取れて、契約が続いていたのだ。


 社長の言葉を、今の俺たちにあてはめてみる。

 俺、妹のマリー、セバスチャンは、同じタイプだ。
 貧乏とはいえ、貴族家で生活をしていたので、物腰が柔らかく品が良い。

 ネコネコ騎士のみーちゃんは、元々猫であり女神様の使いである。
 日本の知識があるので、俺と重なる部分がある。
 俺と近いタイプだ。

 エルフのシューさんは、俺とは種族も違えば、生活していた環境も違う。
 違うタイプだ。

 違うタイプのシューさんがいたからこそ、毒や襲撃から生き残れた。

 俺の仲間には、違うタイプが一人しかいない。
 社長の言葉を参考にするなら、俺と違うタイプを増やした方が良い。

 さらに、先ほどの戦いで大活躍したシューさんが『仲間にしろ』と言うのだ。
 能力が高いに違いない。

 俺は腹をくくって、ジロンド子爵を真っ直ぐ見た。

「ジロンド子爵。お心遣いありがとうございます。まず、彼女と話をして、可能なら仲間に加わってもらおうと思います」

 ジロンド子爵は、俺の目をじっと見つめた。
 俺の覚悟を問うているようだったので、俺は『本気ですよ』と意志を込めて見つめ返した。

 やがてジロンド子爵が折れた。

「そうか……。エトワール伯爵が、そういうなら彼女の身柄は譲ろう。だが、くれぐれも気をつけて」
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