28 / 92
第二章 新領地への旅
第28話 エリクサーの原材料
しおりを挟む
俺はエリクサーを、どう入手するか考え始めた。
すると、それまで黙って成り行きを見ていたジロンド子爵が、ダークエルフのエクレールに話しかけた。
「エトワール伯爵の暗殺を依頼したのは誰だ?」
「貴族の使いだ。陰気な雰囲気の人族の男で、四十くらいだった」
エクレールは、素直に話している。
俺がエリクサーについて真剣に考えているので、態度が軟化したのだろう。
「ふむ。その男が、『エトワール伯爵を殺したらエリクサーをやる』と約束したのか?」
「ああ」
「空手形だと思うがね……」
「なに!?」
「エリクサーは貴族家当主や跡継ぎに万一の事態が起きた場合に備えた重要な保険だ。使ったら次はいつ手に入るかわからない。暗殺の報酬としては釣り合わないな」
「証文を受け取ったぞ! 腰のポケットに入っている!」
ダークエルフのエクレールが、キッとジロンド子爵をにらむ。
だが、ジロンド子爵は冷静だ。
エクレールが貴族の使いから受け取った証文を、エクレールのポケットから取り出し広げてみる。
「うーん……」
ジロンド子爵は、うなると証文を俺に渡した。
証文には、『仕事の成功報酬としてエリクサーを譲渡する。 ディング伯爵』と書いてある。
俺もこの証文は怪しいと感じた。
執事のセバスチャンに証文を見てもらう。
執事は貴族家の契約に関わることが多い。
セバスチャンなら、この証文の有効性がわかるだろう。
「これはニセの証文ですね……」
執事のセバスチャンは、一目見ただけで証文が偽物だと断言した。
ダークエルフのエクレールが目をむく。
「いい加減なことを言うな!」
「まず、この証文には印章が押してありません。貴族が契約を交す際は、必ず印章を押すのです。ですので、この証文に書いてある契約は効力を発揮しません。無効です」
「そんな――!」
「さらに、ディング伯爵とサインがありますが、ディングという伯爵家はありません。病気の妹さんのことは気の毒ですが……。あなたは、だまされましたね」
「クソッ!」
執事のセバスチャンの指摘に、エクレールが地面に足をドンと叩きつけて悔しがる。
ジロンド子爵がさらなる事情聴取を始めたので、執事のセバスチャンに聞いてもらうことにした。
俺はエクレールの側を離れ、エルフのシューさんに相談した。
「シューさんは、エリクサーを作れませんか?」
シューさんは、旅の道中で毒消し薬を作ったり、低級ポーションを作ったりしていた。
魔法薬を生成するスキルを得ているようだ。
ひょっとしたらエリクサーも作れるのではないかと思ったのだ。
「無理。私が作れるのは中級ポーションまで」
「そうですか……」
「エリクサーは一本持っているけど」
「えっ!?」
シューさんが、エリクサーを持っている!?
譲ってもらえれば、エクレールの妹が助かる!
「シューさん。お金は出しますので、エリクサーを売って下さい」
俺がシューさんに販売をお願いすると、シューさんは深いため息をついた。
「これは私の命綱。売ることは出来ない」
「ダメですか? エクレールの妹さんが助かるのですが……」
「私もエクレールには同情する。妹がかわいそうだと思う。我々エルフは、なかなか子供が出来ない種族だから、妹を救いたい気持ちは痛いほどわかる。エリクサーを二本持っていたら、一本譲ったと思う」
「なら――」
俺が説得しようとするのを、シューさんは手を上げて止めた。
心苦しそうに言葉を続ける。
「けれど、このエリクサーは、いざという時に私の命をつないでくれる大切な薬。旅は危険がつきもの。魔物や盗賊に襲われて瀕死の重傷を負うかもしれないし、流行病をうつされるかもしれない。ノエルも旅をして分かったと思う」
シューさんの言うことは理解出来る。
俺の場合は刺客に狙われた結果だが、命の危機に瀕した。
魔物に襲われるリスクや盗賊に夜襲される危険性は、身をもって経験したのだ。
シューさんは、女一人で旅をしていたと聞いているので、最後の最後に自分を助けてくれるエリクサーを手放すのは怖いのだろう。
俺は思考を切り替え、次の方法を考えた。
「わかります。無理を言ってすいません。では、エリクサーの現物を見せてもらえませんか?」
「えっ?」
シューさんが困惑した目で俺を見る。
「見るだけです。本当に見るだけ! 盗んだりしません!」
「見るだけ……。そりゃ、構わないけど……」
俺とシューさんは、ダークエルフのエクレールから見えないように馬車の裏に移動した。
シューさんが、いつも背中にしょっている袋から美しい瓶を取り出した。
「これがエリクサーですか……」
エリクサーは、細長い青いガラス瓶に入っていた。
しっかりとした作りの瓶で、両手で持つとズシリと重い。
俺はジッとエリクサーを見て、生産スキル『マルチクラフト』を発動した。
分析機能がエリクサーの原材料や作り方を解析していく。
エリクサーが高度な魔法薬だからだろう。
魔力がドンドンスキルに吸い取られていくのがわかる。
「なるほど……」
分析結果が出た。
俺がエリクサーを生成することは可能だ。
ただし、魔力をかなり使う。
おそらく一日一本生成するのが限界だ。
原材料は、意外とシンプルだった。
必要なのは、マンドラゴラの根、満月草の花びら、魔力水だ。
問題は量だ。
一本のエリクサーを生成するのに、マンドラゴラの根が百本、満月草の花びらが五十枚、魔力水は大樽五杯が必要になる。
この大量の薬草と魔力水をギュッと濃縮することで薬効が跳ね上がり、エリクサーが完成する。
もちろん、俺が生産スキル『マルチクラフト』を使えば、一瞬でエリクサーを生成出来るが、原材料はそろえなければならない。
俺はエリクサーをシューさんに返し、シューさんに手持ちの薬草を尋ねた。
「シューさん。マンドラゴラの根と満月草を持っていますか?」
「ある」
「何本くらい?」
「マンドラゴラの根は十本。満月草は五本。」
「魔力水は?」
「魔力水は必要に応じて生成する。なぜ、そんなことを聞く? まさか……エリクサーを作るつもり!?」
質問があからさま過ぎた。
シューさんに狙いがバレてしまった。
いや、この際、バレて好都合だと考えよう。
エリクサーの原材料を集める必要があるのだ。
必要量には足りないが、シューさんの手持ちを買い取らせてもらおう。
俺はシューさんの質問に笑顔で答えた。
「ええ。エリクサーを作れば、エクレールの妹が助かるので」
「いや、無理。エリクサーは、長らく修行を積んだ優秀な薬師でないと作れない」
「まあ、そうでしょうね。それで、マンドラゴラの根と満月草を売っていただけませんか?」
「売るのは構わないが……誰がエリクサーを作るの?」
「……」
「えっ!?」
俺は無言で自分を指さした。
シューさんが驚き、俺の顔を見つめる。
俺はスキルについて明言を避け、結果だけシューさんに告げた。
「エリクサーを作るのです……」
「プロセスを無視して結果を語るのは良くない」
「作るのです……」
「ノエルのスキルは、鍛冶生産系のスキルだと思っていた。薬師スキルも持っているの?」
「作るのです……」
「わけがわからない」
シューさんは、眉毛をへの字に下げて困惑顔だ。
俺は笑顔を崩さない。
エリクサーが貴重な魔法薬であることは理解している。
俺がエリクサーを生成出来るとわかったら、俺を囲い込もうとするヤツが出てくるだろう。
例えば、国王とか、宰相とか。
俺はエトワール伯爵家の当主だが、年が若く、俺の護衛はみーちゃんとシューさんだけだ。
それに妹のマリーという弱点もある。
俺を拉致し、マリーを人質にとって、俺に言うことを聞かせる。
国王と宰相ならやりそうだ。
籠の鳥にされるのは真っ平だ。
国王と宰相以外でも、欲に駆られて強硬手段をとる者が出現する可能性はある。
俺がエリクサーを生成出来ることは、秘匿するべきだ。
「シューさん。内密にお願いします」
「もちろん。こんなことは話せない。マリーやセバスチャンにも言わない方が良い」
「そうします」
妹のマリーや執事のセバスチャンが、悪気なくうっかり誰かに話してしまう可能性がある。
シューさんの忠告通りにしよう。
俺とシューさんは、ダークエルフのエクレールのところへ戻った。
ジロンド子爵の事情聴取は終ったようで、手持ち無沙汰にしていたジロンド子爵が声を掛けてきた。
「エトワール伯爵。急にいなくなってどうした?」
「エリクサーについて、シューさんと相談していました」
「なるほど、エルフなら色々知ってそうだな。こちらも事情がわかった」
ジロンド子爵は、ダークエルフのエクレールから詳しく話を聞いてくれた。
エクレールは、ダークエルフの里からエリクサーを求めて王都へ出てきた。
そこで、貴族の使いを名乗る男に声をかけられたそうだ。
「じゃあ、刺客としては素人ですか?」
「ああ。ダークエルフなら闇魔法が得意だろうからと声を掛けてきたらしい」
ジロンド子爵が聞き出した話によれば、エクレールも怪しいと思ったのだが、前金で金貨を渡されたので、本物の貴族の使いだと信じてしまったそうだ。
何だか、地方から出てきた女の子を、だまくらかしてスカウトする悪徳芸能事務所みたいだな……。
「シューさんが、刺客としては二流と言っていましたが、その通りでしたね」
「うむ。それで、刺客はまだ三組いるらしい」
「まだ、いるんですか!?」
俺はウンザリして声を上げた。
ジロンド子爵が苦笑する。
「まあ、だが、人族のチンピラみたいな連中だったそうだ。エクレールは、他の連中がノロノロ移動しているのだろうと」
「すぐに追いつかれるわけではなさそうですね。警戒は必要でしょうが……」
「ああ。それで、エリクサーはどうだ?」
「心当たりがあります」
俺の言葉を聞いて、ダークエルフのエクレールがパッと顔を上げた。
「本当か!?」
「本当だ。エリクサーを生成出来る薬師に心当たりがある。だが、エリクサーの原材料が必要だ。まず、原材料を集めないとエリクサーの生成を依頼できない」
「原材料はなんだ?」
「マンドラゴラの根を百本。満月草の花びらを五十枚。魔力水を大樽五杯」
エクレールが怪訝な顔をする。
「随分多いな……。エリクサーを一本欲しいだけだぞ?」
「ああ、わかってる。エリクサーを一本作るのに、これだけの原材料が必要なんだ。魔力水は、魔力と水があれば作れるので問題ない。問題は薬草の量が多いことだ」
「マンドラゴラの根を百……満月草を五十……。ダークエルフの里でも、それだけの量は見たことがない。それなりに希少な薬草だからな」
エクレールが難しい顔をした。
エクレールの望みを叶える可能性が高まったが、実現するためのハードルも高い。
かといって、マンドラゴラの根も満月草も実在する薬草なので、王国中探し回れば薬草をそろえるのは無理ではないだろう。
問題は、エクレールの妹が病に倒れる前に、エリクサーを生成するために必要な大量の薬草をそろえられるかどうか……。
時間との勝負なのだ。
「それならフォー辺境伯領へ早く行こう」
俺とエクレールの話を横で聞いていたジロンド子爵だ。
「マンドラゴラも満月草も魔力の高い場所に生える薬草だ。この辺りより、フォー辺境伯領の方が土地の魔力が高い。手に入る可能性は高いぞ」
なるほど。
それならば、明日からは少し急いでフォー辺境伯領へ向かおう。
俺はダークエルフのエクレールに笑顔で問いかけた。
「エクレール。エリクサーが手に入ったら、俺の仲間になってくれるか?」
「もちろんだ! オマエがエリクサーを手配してくれれば、オマエは妹の命の恩人だ。私はオマエに仕えよう」
すると、それまで黙って成り行きを見ていたジロンド子爵が、ダークエルフのエクレールに話しかけた。
「エトワール伯爵の暗殺を依頼したのは誰だ?」
「貴族の使いだ。陰気な雰囲気の人族の男で、四十くらいだった」
エクレールは、素直に話している。
俺がエリクサーについて真剣に考えているので、態度が軟化したのだろう。
「ふむ。その男が、『エトワール伯爵を殺したらエリクサーをやる』と約束したのか?」
「ああ」
「空手形だと思うがね……」
「なに!?」
「エリクサーは貴族家当主や跡継ぎに万一の事態が起きた場合に備えた重要な保険だ。使ったら次はいつ手に入るかわからない。暗殺の報酬としては釣り合わないな」
「証文を受け取ったぞ! 腰のポケットに入っている!」
ダークエルフのエクレールが、キッとジロンド子爵をにらむ。
だが、ジロンド子爵は冷静だ。
エクレールが貴族の使いから受け取った証文を、エクレールのポケットから取り出し広げてみる。
「うーん……」
ジロンド子爵は、うなると証文を俺に渡した。
証文には、『仕事の成功報酬としてエリクサーを譲渡する。 ディング伯爵』と書いてある。
俺もこの証文は怪しいと感じた。
執事のセバスチャンに証文を見てもらう。
執事は貴族家の契約に関わることが多い。
セバスチャンなら、この証文の有効性がわかるだろう。
「これはニセの証文ですね……」
執事のセバスチャンは、一目見ただけで証文が偽物だと断言した。
ダークエルフのエクレールが目をむく。
「いい加減なことを言うな!」
「まず、この証文には印章が押してありません。貴族が契約を交す際は、必ず印章を押すのです。ですので、この証文に書いてある契約は効力を発揮しません。無効です」
「そんな――!」
「さらに、ディング伯爵とサインがありますが、ディングという伯爵家はありません。病気の妹さんのことは気の毒ですが……。あなたは、だまされましたね」
「クソッ!」
執事のセバスチャンの指摘に、エクレールが地面に足をドンと叩きつけて悔しがる。
ジロンド子爵がさらなる事情聴取を始めたので、執事のセバスチャンに聞いてもらうことにした。
俺はエクレールの側を離れ、エルフのシューさんに相談した。
「シューさんは、エリクサーを作れませんか?」
シューさんは、旅の道中で毒消し薬を作ったり、低級ポーションを作ったりしていた。
魔法薬を生成するスキルを得ているようだ。
ひょっとしたらエリクサーも作れるのではないかと思ったのだ。
「無理。私が作れるのは中級ポーションまで」
「そうですか……」
「エリクサーは一本持っているけど」
「えっ!?」
シューさんが、エリクサーを持っている!?
譲ってもらえれば、エクレールの妹が助かる!
「シューさん。お金は出しますので、エリクサーを売って下さい」
俺がシューさんに販売をお願いすると、シューさんは深いため息をついた。
「これは私の命綱。売ることは出来ない」
「ダメですか? エクレールの妹さんが助かるのですが……」
「私もエクレールには同情する。妹がかわいそうだと思う。我々エルフは、なかなか子供が出来ない種族だから、妹を救いたい気持ちは痛いほどわかる。エリクサーを二本持っていたら、一本譲ったと思う」
「なら――」
俺が説得しようとするのを、シューさんは手を上げて止めた。
心苦しそうに言葉を続ける。
「けれど、このエリクサーは、いざという時に私の命をつないでくれる大切な薬。旅は危険がつきもの。魔物や盗賊に襲われて瀕死の重傷を負うかもしれないし、流行病をうつされるかもしれない。ノエルも旅をして分かったと思う」
シューさんの言うことは理解出来る。
俺の場合は刺客に狙われた結果だが、命の危機に瀕した。
魔物に襲われるリスクや盗賊に夜襲される危険性は、身をもって経験したのだ。
シューさんは、女一人で旅をしていたと聞いているので、最後の最後に自分を助けてくれるエリクサーを手放すのは怖いのだろう。
俺は思考を切り替え、次の方法を考えた。
「わかります。無理を言ってすいません。では、エリクサーの現物を見せてもらえませんか?」
「えっ?」
シューさんが困惑した目で俺を見る。
「見るだけです。本当に見るだけ! 盗んだりしません!」
「見るだけ……。そりゃ、構わないけど……」
俺とシューさんは、ダークエルフのエクレールから見えないように馬車の裏に移動した。
シューさんが、いつも背中にしょっている袋から美しい瓶を取り出した。
「これがエリクサーですか……」
エリクサーは、細長い青いガラス瓶に入っていた。
しっかりとした作りの瓶で、両手で持つとズシリと重い。
俺はジッとエリクサーを見て、生産スキル『マルチクラフト』を発動した。
分析機能がエリクサーの原材料や作り方を解析していく。
エリクサーが高度な魔法薬だからだろう。
魔力がドンドンスキルに吸い取られていくのがわかる。
「なるほど……」
分析結果が出た。
俺がエリクサーを生成することは可能だ。
ただし、魔力をかなり使う。
おそらく一日一本生成するのが限界だ。
原材料は、意外とシンプルだった。
必要なのは、マンドラゴラの根、満月草の花びら、魔力水だ。
問題は量だ。
一本のエリクサーを生成するのに、マンドラゴラの根が百本、満月草の花びらが五十枚、魔力水は大樽五杯が必要になる。
この大量の薬草と魔力水をギュッと濃縮することで薬効が跳ね上がり、エリクサーが完成する。
もちろん、俺が生産スキル『マルチクラフト』を使えば、一瞬でエリクサーを生成出来るが、原材料はそろえなければならない。
俺はエリクサーをシューさんに返し、シューさんに手持ちの薬草を尋ねた。
「シューさん。マンドラゴラの根と満月草を持っていますか?」
「ある」
「何本くらい?」
「マンドラゴラの根は十本。満月草は五本。」
「魔力水は?」
「魔力水は必要に応じて生成する。なぜ、そんなことを聞く? まさか……エリクサーを作るつもり!?」
質問があからさま過ぎた。
シューさんに狙いがバレてしまった。
いや、この際、バレて好都合だと考えよう。
エリクサーの原材料を集める必要があるのだ。
必要量には足りないが、シューさんの手持ちを買い取らせてもらおう。
俺はシューさんの質問に笑顔で答えた。
「ええ。エリクサーを作れば、エクレールの妹が助かるので」
「いや、無理。エリクサーは、長らく修行を積んだ優秀な薬師でないと作れない」
「まあ、そうでしょうね。それで、マンドラゴラの根と満月草を売っていただけませんか?」
「売るのは構わないが……誰がエリクサーを作るの?」
「……」
「えっ!?」
俺は無言で自分を指さした。
シューさんが驚き、俺の顔を見つめる。
俺はスキルについて明言を避け、結果だけシューさんに告げた。
「エリクサーを作るのです……」
「プロセスを無視して結果を語るのは良くない」
「作るのです……」
「ノエルのスキルは、鍛冶生産系のスキルだと思っていた。薬師スキルも持っているの?」
「作るのです……」
「わけがわからない」
シューさんは、眉毛をへの字に下げて困惑顔だ。
俺は笑顔を崩さない。
エリクサーが貴重な魔法薬であることは理解している。
俺がエリクサーを生成出来るとわかったら、俺を囲い込もうとするヤツが出てくるだろう。
例えば、国王とか、宰相とか。
俺はエトワール伯爵家の当主だが、年が若く、俺の護衛はみーちゃんとシューさんだけだ。
それに妹のマリーという弱点もある。
俺を拉致し、マリーを人質にとって、俺に言うことを聞かせる。
国王と宰相ならやりそうだ。
籠の鳥にされるのは真っ平だ。
国王と宰相以外でも、欲に駆られて強硬手段をとる者が出現する可能性はある。
俺がエリクサーを生成出来ることは、秘匿するべきだ。
「シューさん。内密にお願いします」
「もちろん。こんなことは話せない。マリーやセバスチャンにも言わない方が良い」
「そうします」
妹のマリーや執事のセバスチャンが、悪気なくうっかり誰かに話してしまう可能性がある。
シューさんの忠告通りにしよう。
俺とシューさんは、ダークエルフのエクレールのところへ戻った。
ジロンド子爵の事情聴取は終ったようで、手持ち無沙汰にしていたジロンド子爵が声を掛けてきた。
「エトワール伯爵。急にいなくなってどうした?」
「エリクサーについて、シューさんと相談していました」
「なるほど、エルフなら色々知ってそうだな。こちらも事情がわかった」
ジロンド子爵は、ダークエルフのエクレールから詳しく話を聞いてくれた。
エクレールは、ダークエルフの里からエリクサーを求めて王都へ出てきた。
そこで、貴族の使いを名乗る男に声をかけられたそうだ。
「じゃあ、刺客としては素人ですか?」
「ああ。ダークエルフなら闇魔法が得意だろうからと声を掛けてきたらしい」
ジロンド子爵が聞き出した話によれば、エクレールも怪しいと思ったのだが、前金で金貨を渡されたので、本物の貴族の使いだと信じてしまったそうだ。
何だか、地方から出てきた女の子を、だまくらかしてスカウトする悪徳芸能事務所みたいだな……。
「シューさんが、刺客としては二流と言っていましたが、その通りでしたね」
「うむ。それで、刺客はまだ三組いるらしい」
「まだ、いるんですか!?」
俺はウンザリして声を上げた。
ジロンド子爵が苦笑する。
「まあ、だが、人族のチンピラみたいな連中だったそうだ。エクレールは、他の連中がノロノロ移動しているのだろうと」
「すぐに追いつかれるわけではなさそうですね。警戒は必要でしょうが……」
「ああ。それで、エリクサーはどうだ?」
「心当たりがあります」
俺の言葉を聞いて、ダークエルフのエクレールがパッと顔を上げた。
「本当か!?」
「本当だ。エリクサーを生成出来る薬師に心当たりがある。だが、エリクサーの原材料が必要だ。まず、原材料を集めないとエリクサーの生成を依頼できない」
「原材料はなんだ?」
「マンドラゴラの根を百本。満月草の花びらを五十枚。魔力水を大樽五杯」
エクレールが怪訝な顔をする。
「随分多いな……。エリクサーを一本欲しいだけだぞ?」
「ああ、わかってる。エリクサーを一本作るのに、これだけの原材料が必要なんだ。魔力水は、魔力と水があれば作れるので問題ない。問題は薬草の量が多いことだ」
「マンドラゴラの根を百……満月草を五十……。ダークエルフの里でも、それだけの量は見たことがない。それなりに希少な薬草だからな」
エクレールが難しい顔をした。
エクレールの望みを叶える可能性が高まったが、実現するためのハードルも高い。
かといって、マンドラゴラの根も満月草も実在する薬草なので、王国中探し回れば薬草をそろえるのは無理ではないだろう。
問題は、エクレールの妹が病に倒れる前に、エリクサーを生成するために必要な大量の薬草をそろえられるかどうか……。
時間との勝負なのだ。
「それならフォー辺境伯領へ早く行こう」
俺とエクレールの話を横で聞いていたジロンド子爵だ。
「マンドラゴラも満月草も魔力の高い場所に生える薬草だ。この辺りより、フォー辺境伯領の方が土地の魔力が高い。手に入る可能性は高いぞ」
なるほど。
それならば、明日からは少し急いでフォー辺境伯領へ向かおう。
俺はダークエルフのエクレールに笑顔で問いかけた。
「エクレール。エリクサーが手に入ったら、俺の仲間になってくれるか?」
「もちろんだ! オマエがエリクサーを手配してくれれば、オマエは妹の命の恩人だ。私はオマエに仕えよう」
197
あなたにおすすめの小説
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる