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第二章 新領地への旅
第31話 道路整備とイーノス兄弟
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どうやら薬草は二日後の日没までに集まりそうだ。
夜になり、俺たちはフォー辺境伯の屋敷に招待され、宿泊させてもらうことになった。
ジロンド子爵たち南部貴族たちも一緒だ。
フォー辺境伯の屋敷はX字型の町の北部にある。
丘の上に建つ貴族らしい立派な建物だ。
町の雰囲気は西部劇だが、こういうところはしっかりと貴族をしている。
食事の後は、歓迎の宴で立食形式のパーティーになった。
ホストであるフォー辺境伯は、俺を地元の貴族や有力商人たちに紹介して回った。
一通り顔合わせが終ると、フォー辺境伯が参加者全員に呼びかけた。
「みんな! 聞いてくれ! こちらのエトワール伯爵から南部に対して提案があるんだ!」
フォー辺境伯からバトンタッチされ、俺は宴の出席者たちを見回しニコリと笑ってからプレゼンを始めた。
「こちらのドライフルーツを南部全体の名産品にしませんか? ドライフルーツの作り方は簡単で日持ちするのです。王国中央部や北部で売れると思うのです」
フォー辺境伯邸のメイドが皿の上に載ったドライフルーツを参加者に薦めて回った。
ジロンド子爵たち――俺と同行し旅してきた南部貴族たちは既にドライフルーツを知っているが、フォー辺境伯が呼び寄せた初顔の南部貴族たちはドライフルーツを口にすると驚きの声を上げた。
「ほう! これは美味しい!」
「へえ! これはプレッシュの実かい!? 味が濃縮されているね!」
「日持ちするのであれば、遠くまで運べるな……」
ここでも南部貴族の反応は良い。
俺はドライフルーツに、一層の手応えを感じた。
「このドライフルーツは、私の妹マリーが旅の間に作ったのです。マリーは八歳です。ドライフルーツ作りに力は必要ないので、子供やお年寄りの手伝い仕事に出来ます。各領地で採れる果物をドライフルーツにすれば、領地ごとの特色も出せます」
「なるほど! 素晴らしい提案だ! 商人たちはどうかな? 意見を聞かせてくれ!」
フォー辺境伯が俺の話を引き取り、地元の商人たちに意見を募った。
地元の商人たちは、四人参加しており、この町では大店の店主だ。
一番年輩の商人が、深く頭を下げてから、落ち着いた声で返事をした。
「素晴らしいご提案です! お話の通り北部や中央部で売れるでしょう! それにドライフルーツは、果物の皮がございません。嵩が減り運びやすいのもようございます!」
「ということだ! みんなやろう! 作り方はエトワール伯爵が無償で教えてくれるそうだ!」
「南部の皆さんへご挨拶代わりです」
大きな拍手が起り、『やろう! やろう!』、『これで領地の収入が増える!』と前向きな声が沢山聞こえた。
「エトワール伯爵。これだけの南部貴族が一堂に会することは滅多にない。他にも何かあれば提案してくれないか?」
フォー辺境伯の提案に、南部貴族の面々が俺に期待した視線を向ける。
他にねえ……。
そんな簡単に新商品のアイデアは浮かばないが、南部に来てから気になっていたことがある。
指摘すると気を悪くする人がいるかもしれないが、思い切って話してみよう。
「もう一つ提案があります。南部全体で道普請をやりませんか?」
「道普請!?」
フォー辺境伯が驚く。
俺はフォー辺境伯にうなずき、南部貴族の面々を見回しながら詳しい説明を始めた。
「王都から旅をしてきて気が付いたのですが、南部は道路がデコボコしていて馬車を走らせづらいです。馬車の車輪がぬかるみにはまって、動かなくなったこともありました」
俺の言葉に何人かの南部貴族が考え出した。
だが、ピンとこない人も多いようで、一人が首をかしげて発言した。
「道なんて、そんなものじゃないか?」
「王国中央部の道は平らです。もちろん、多少のデコボコはありますが、馬車を走らせるのに支障がない程度に整備されています」
「そういえば、王都に行った時にきれいな街道を見たな……」
南部貴族の面々が、『そういえば……』、『言われてみれば……』と、俺の指摘に思い至る。
フォー辺境伯が明るい声で、俺の指摘を婉曲に否定した。
「エトワール伯爵。南部貴族は騎竜に乗るだろう? だから道がデコボコしていても気にならないのさ!」
なるほど、騎竜は悪路に強い。
旅の道中、デコボコ道でも、ぬかるみでも、お構いなしに駆け抜けていた。
フォー辺境伯の言葉は、『南部貴族は騎竜に乗るから道なんてどうでもよい』ということだよね……。
これは俺の言いたいことを伝えるのは大変だぞ。
南部貴族の意識改革が必要だ。
俺は懐から地図を出して、手近なテーブルに広げた。
「みなさん! この地図をご覧下さい!」
なんだ? なんだ? と、南部諸侯がテーブルの上に広げた地図をのぞき込む。
「ここがルナール王国王都パリシィです。我々のいる南部へはアリアナ街道を使います」
俺は王都を指さした後、王都からスッとアリアナ街道をなぞった。
「王都からジロンド子爵の治める領都ギャリアまで、馬車で十日かかりました」
続けて俺はジロンド子爵の領地から最南端のフォー辺境伯の領地まで指を動かす。
「そしてジロンド子爵の領都ギャリアから、フォー辺境伯の領都デバラスまで六日かかりました。途中で一日休みを入れたので、十七日の旅程です」
俺の隣で地図を眺めていたフォー辺境伯が不思議そうな声を上げた。
「あれ? 早くないか? ここから王都まで一月ほどかかるが?」
「私の馬車は新型ですので早いのです。それに馬型のゴーレムが馬車を牽くので、馬を休ませる必要がありません」
「それで旅程を短縮できたのか……。いや、スマン。話を続けてくれ」
いや、フォー辺境伯の話は助かった。
普通の馬車なら王都まで一月かかると示せたのだから、話が進めやすい。
「今、フォー辺境伯がおっしゃった通り、普通の馬車なら王都まで一月、私の新型快速馬車でも十七日かかります。しかし、道路を整備すれば、この旅程を短縮可能です。そうすれば、南部で生産した商品を王都に持ち込みやすくなります」
俺の話を聞いてフォー辺境伯が感心し、何度もうなずく。
「なるほど……。南部の名産品としてドライフルーツを作る。次のステップが道路整備というわけか……」
フォー辺境伯は、道路の重要性を理解してくれたようだ。
フォー辺境伯は、南部に四人いる有力者の一人だ。
フォー辺境伯が道路整備をやると言えば、南部の道路整備はかなり進むだろう。
俺は南部の諸侯を見て、ここぞとばかりに力強く語りかける。
「そうです! 南部の経済を活性化するのです! 王都や王国中央部は人口の多い地帯です。商品を持ち込めば、持ち込むだけ売れます! 南部全体を豊かにしましょう!」
「ふむ! エトワール伯爵の意見には、聞くべき点があると思う。商人の意見も聞いてみよう? 発言を許す。どうだ?」
フォー辺境伯に促されて商人の一人が進み出た。
先ほど発言した年輩の恰幅の良い商人だ。
「道路整備のお話は、我ら商人にとって大変ありがたく存じます」
年輩の商人は、この領都デバラスの大店の店主だ。
商人によれば、南部は中央部に比べると人口が少ない。
つまりマーケットが小さいらしい。
道路事情が悪く、魔の森があちらこちらにあるため、商品の輸送に難儀する。
各領地で作られた作物は、作られた領地で消費されるか、せいぜい隣の領地で消費される程度らしい。
(もったいないな……)
王都を抱える王国中央部は一大消費地だ。
俺は領地で色々商品開発をして、ガンガン売りたい。
「我々商人も道普請に協力させていただきますので、ご領主様方におかれましては、何卒ご検討のほどをよろしくお願いいたします」
商人の協力も得られるなら資金面でかなり助かるだろう。
「いやいや、待てよ!」
「南部から王都へ? 道普請と気軽に言うが、予算がいくらあっても足らんぞ!」
異論が飛び出した。
大声を出した方を見ると、立派なひげを蓄えた二人だった。
一人はデップリとした太鼓腹で背も高い。
もう一人は小柄でこちらも太鼓腹だ。
俺の背後に控えていた執事のセバスチャンが、そっと教えてくれた。
「あれがイーノス兄弟です」
イーノス兄弟といえば、南部の有力貴族の一人だ。
大柄な方が兄で、ビッグイーノスと呼ばれている。
小柄な方が弟で、リトルイーノスと呼ばれている。
ビッグイーノスがイーノス男爵家の当主で、リトルイーノスが分家の騎士爵だ。
二人は意地の悪そうな目で俺を見ている。
イーノス兄弟より、俺の方が爵位は上だ。
だが、俺は南部で新参者。
余計な摩擦を起こすのは止めておこう。
俺は穏やかにイーノス兄弟の言い分を認めた。
「そうですね。道普請には予算がかかりますね」
「だろう? エトワール伯爵が全部出してくれるわけじゃないよな?」
「自分の領地の道普請にかかる費用は、それぞれの領地が負担するってことだろう? いくらになると思ってるんだ?」
イーノス兄弟は、俺の提案『道路を整備して、南部を活性化させる』に対して、色々と文句を言い出した。
新参者の俺に対する反発が大きいのだろう。
だが、聞くべき点もある。
イーノス兄弟によれば、王国中央部の主要な道路は人足が道路の元となる道を人力で整備し、仕上げに土魔法を使う魔法使いが道路を石化するそうだ。
予算が掛かるし、道路に破損があれば魔法使いを呼ばなければならない。
イニシャルコスト、ランニングコストともに高額になるのだ。
「うーん。イーノス兄弟は反対か?」
フォー辺境伯が腕組みをして、イーノス兄弟に対した。
イーノス兄弟は、両手を腰のポケットに突っ込み胸を反らす。
「そりゃ金がかかるからな!」
「そうだ! 人の財布だと思って気軽に言うんじゃねえよ!」
「だがな。南部の道は雨が降ればぬかるんで馬車は動けなくなる。商人が動けんのだ。このままじゃ不味いだろう? 中央部との差は開く一方だ!」
「南部は南部!」
「俺たちは、俺たちだ!」
フォー辺境伯とイーノス兄弟の論争は平行線だ。
俺は両者の間に割って入った。
「待って下さい! 低予算で道路を整備する方法に心当たりがあります」
「本当かい?」
「ええ。ただ、私も本で読んだだけですので、新領地で試してみます」
俺が試してみようと思ったのは、土嚢を使った道路整備だ。
前世ネット動画で見たのだが、アフリカやアジアの道路整備で実績のある方法だ。
現地住民で施工できて、保守も現地住民で可能。
お財布に優しい低予算工法なのだ。
俺の言葉にフォー辺境伯が力強くうなずき、挑戦的にイーノス兄弟を見る。
「だ、そうだ! イーノス兄弟! エトワール伯爵の領地で新しい道普請の方法を試してみて、上手くいったらやる! 良いな?」
「ああ。上手くいったらな」
「がんばってちょうだい」
イーノス兄弟が手をヒラヒラさせた。
夜になり、俺たちはフォー辺境伯の屋敷に招待され、宿泊させてもらうことになった。
ジロンド子爵たち南部貴族たちも一緒だ。
フォー辺境伯の屋敷はX字型の町の北部にある。
丘の上に建つ貴族らしい立派な建物だ。
町の雰囲気は西部劇だが、こういうところはしっかりと貴族をしている。
食事の後は、歓迎の宴で立食形式のパーティーになった。
ホストであるフォー辺境伯は、俺を地元の貴族や有力商人たちに紹介して回った。
一通り顔合わせが終ると、フォー辺境伯が参加者全員に呼びかけた。
「みんな! 聞いてくれ! こちらのエトワール伯爵から南部に対して提案があるんだ!」
フォー辺境伯からバトンタッチされ、俺は宴の出席者たちを見回しニコリと笑ってからプレゼンを始めた。
「こちらのドライフルーツを南部全体の名産品にしませんか? ドライフルーツの作り方は簡単で日持ちするのです。王国中央部や北部で売れると思うのです」
フォー辺境伯邸のメイドが皿の上に載ったドライフルーツを参加者に薦めて回った。
ジロンド子爵たち――俺と同行し旅してきた南部貴族たちは既にドライフルーツを知っているが、フォー辺境伯が呼び寄せた初顔の南部貴族たちはドライフルーツを口にすると驚きの声を上げた。
「ほう! これは美味しい!」
「へえ! これはプレッシュの実かい!? 味が濃縮されているね!」
「日持ちするのであれば、遠くまで運べるな……」
ここでも南部貴族の反応は良い。
俺はドライフルーツに、一層の手応えを感じた。
「このドライフルーツは、私の妹マリーが旅の間に作ったのです。マリーは八歳です。ドライフルーツ作りに力は必要ないので、子供やお年寄りの手伝い仕事に出来ます。各領地で採れる果物をドライフルーツにすれば、領地ごとの特色も出せます」
「なるほど! 素晴らしい提案だ! 商人たちはどうかな? 意見を聞かせてくれ!」
フォー辺境伯が俺の話を引き取り、地元の商人たちに意見を募った。
地元の商人たちは、四人参加しており、この町では大店の店主だ。
一番年輩の商人が、深く頭を下げてから、落ち着いた声で返事をした。
「素晴らしいご提案です! お話の通り北部や中央部で売れるでしょう! それにドライフルーツは、果物の皮がございません。嵩が減り運びやすいのもようございます!」
「ということだ! みんなやろう! 作り方はエトワール伯爵が無償で教えてくれるそうだ!」
「南部の皆さんへご挨拶代わりです」
大きな拍手が起り、『やろう! やろう!』、『これで領地の収入が増える!』と前向きな声が沢山聞こえた。
「エトワール伯爵。これだけの南部貴族が一堂に会することは滅多にない。他にも何かあれば提案してくれないか?」
フォー辺境伯の提案に、南部貴族の面々が俺に期待した視線を向ける。
他にねえ……。
そんな簡単に新商品のアイデアは浮かばないが、南部に来てから気になっていたことがある。
指摘すると気を悪くする人がいるかもしれないが、思い切って話してみよう。
「もう一つ提案があります。南部全体で道普請をやりませんか?」
「道普請!?」
フォー辺境伯が驚く。
俺はフォー辺境伯にうなずき、南部貴族の面々を見回しながら詳しい説明を始めた。
「王都から旅をしてきて気が付いたのですが、南部は道路がデコボコしていて馬車を走らせづらいです。馬車の車輪がぬかるみにはまって、動かなくなったこともありました」
俺の言葉に何人かの南部貴族が考え出した。
だが、ピンとこない人も多いようで、一人が首をかしげて発言した。
「道なんて、そんなものじゃないか?」
「王国中央部の道は平らです。もちろん、多少のデコボコはありますが、馬車を走らせるのに支障がない程度に整備されています」
「そういえば、王都に行った時にきれいな街道を見たな……」
南部貴族の面々が、『そういえば……』、『言われてみれば……』と、俺の指摘に思い至る。
フォー辺境伯が明るい声で、俺の指摘を婉曲に否定した。
「エトワール伯爵。南部貴族は騎竜に乗るだろう? だから道がデコボコしていても気にならないのさ!」
なるほど、騎竜は悪路に強い。
旅の道中、デコボコ道でも、ぬかるみでも、お構いなしに駆け抜けていた。
フォー辺境伯の言葉は、『南部貴族は騎竜に乗るから道なんてどうでもよい』ということだよね……。
これは俺の言いたいことを伝えるのは大変だぞ。
南部貴族の意識改革が必要だ。
俺は懐から地図を出して、手近なテーブルに広げた。
「みなさん! この地図をご覧下さい!」
なんだ? なんだ? と、南部諸侯がテーブルの上に広げた地図をのぞき込む。
「ここがルナール王国王都パリシィです。我々のいる南部へはアリアナ街道を使います」
俺は王都を指さした後、王都からスッとアリアナ街道をなぞった。
「王都からジロンド子爵の治める領都ギャリアまで、馬車で十日かかりました」
続けて俺はジロンド子爵の領地から最南端のフォー辺境伯の領地まで指を動かす。
「そしてジロンド子爵の領都ギャリアから、フォー辺境伯の領都デバラスまで六日かかりました。途中で一日休みを入れたので、十七日の旅程です」
俺の隣で地図を眺めていたフォー辺境伯が不思議そうな声を上げた。
「あれ? 早くないか? ここから王都まで一月ほどかかるが?」
「私の馬車は新型ですので早いのです。それに馬型のゴーレムが馬車を牽くので、馬を休ませる必要がありません」
「それで旅程を短縮できたのか……。いや、スマン。話を続けてくれ」
いや、フォー辺境伯の話は助かった。
普通の馬車なら王都まで一月かかると示せたのだから、話が進めやすい。
「今、フォー辺境伯がおっしゃった通り、普通の馬車なら王都まで一月、私の新型快速馬車でも十七日かかります。しかし、道路を整備すれば、この旅程を短縮可能です。そうすれば、南部で生産した商品を王都に持ち込みやすくなります」
俺の話を聞いてフォー辺境伯が感心し、何度もうなずく。
「なるほど……。南部の名産品としてドライフルーツを作る。次のステップが道路整備というわけか……」
フォー辺境伯は、道路の重要性を理解してくれたようだ。
フォー辺境伯は、南部に四人いる有力者の一人だ。
フォー辺境伯が道路整備をやると言えば、南部の道路整備はかなり進むだろう。
俺は南部の諸侯を見て、ここぞとばかりに力強く語りかける。
「そうです! 南部の経済を活性化するのです! 王都や王国中央部は人口の多い地帯です。商品を持ち込めば、持ち込むだけ売れます! 南部全体を豊かにしましょう!」
「ふむ! エトワール伯爵の意見には、聞くべき点があると思う。商人の意見も聞いてみよう? 発言を許す。どうだ?」
フォー辺境伯に促されて商人の一人が進み出た。
先ほど発言した年輩の恰幅の良い商人だ。
「道路整備のお話は、我ら商人にとって大変ありがたく存じます」
年輩の商人は、この領都デバラスの大店の店主だ。
商人によれば、南部は中央部に比べると人口が少ない。
つまりマーケットが小さいらしい。
道路事情が悪く、魔の森があちらこちらにあるため、商品の輸送に難儀する。
各領地で作られた作物は、作られた領地で消費されるか、せいぜい隣の領地で消費される程度らしい。
(もったいないな……)
王都を抱える王国中央部は一大消費地だ。
俺は領地で色々商品開発をして、ガンガン売りたい。
「我々商人も道普請に協力させていただきますので、ご領主様方におかれましては、何卒ご検討のほどをよろしくお願いいたします」
商人の協力も得られるなら資金面でかなり助かるだろう。
「いやいや、待てよ!」
「南部から王都へ? 道普請と気軽に言うが、予算がいくらあっても足らんぞ!」
異論が飛び出した。
大声を出した方を見ると、立派なひげを蓄えた二人だった。
一人はデップリとした太鼓腹で背も高い。
もう一人は小柄でこちらも太鼓腹だ。
俺の背後に控えていた執事のセバスチャンが、そっと教えてくれた。
「あれがイーノス兄弟です」
イーノス兄弟といえば、南部の有力貴族の一人だ。
大柄な方が兄で、ビッグイーノスと呼ばれている。
小柄な方が弟で、リトルイーノスと呼ばれている。
ビッグイーノスがイーノス男爵家の当主で、リトルイーノスが分家の騎士爵だ。
二人は意地の悪そうな目で俺を見ている。
イーノス兄弟より、俺の方が爵位は上だ。
だが、俺は南部で新参者。
余計な摩擦を起こすのは止めておこう。
俺は穏やかにイーノス兄弟の言い分を認めた。
「そうですね。道普請には予算がかかりますね」
「だろう? エトワール伯爵が全部出してくれるわけじゃないよな?」
「自分の領地の道普請にかかる費用は、それぞれの領地が負担するってことだろう? いくらになると思ってるんだ?」
イーノス兄弟は、俺の提案『道路を整備して、南部を活性化させる』に対して、色々と文句を言い出した。
新参者の俺に対する反発が大きいのだろう。
だが、聞くべき点もある。
イーノス兄弟によれば、王国中央部の主要な道路は人足が道路の元となる道を人力で整備し、仕上げに土魔法を使う魔法使いが道路を石化するそうだ。
予算が掛かるし、道路に破損があれば魔法使いを呼ばなければならない。
イニシャルコスト、ランニングコストともに高額になるのだ。
「うーん。イーノス兄弟は反対か?」
フォー辺境伯が腕組みをして、イーノス兄弟に対した。
イーノス兄弟は、両手を腰のポケットに突っ込み胸を反らす。
「そりゃ金がかかるからな!」
「そうだ! 人の財布だと思って気軽に言うんじゃねえよ!」
「だがな。南部の道は雨が降ればぬかるんで馬車は動けなくなる。商人が動けんのだ。このままじゃ不味いだろう? 中央部との差は開く一方だ!」
「南部は南部!」
「俺たちは、俺たちだ!」
フォー辺境伯とイーノス兄弟の論争は平行線だ。
俺は両者の間に割って入った。
「待って下さい! 低予算で道路を整備する方法に心当たりがあります」
「本当かい?」
「ええ。ただ、私も本で読んだだけですので、新領地で試してみます」
俺が試してみようと思ったのは、土嚢を使った道路整備だ。
前世ネット動画で見たのだが、アフリカやアジアの道路整備で実績のある方法だ。
現地住民で施工できて、保守も現地住民で可能。
お財布に優しい低予算工法なのだ。
俺の言葉にフォー辺境伯が力強くうなずき、挑戦的にイーノス兄弟を見る。
「だ、そうだ! イーノス兄弟! エトワール伯爵の領地で新しい道普請の方法を試してみて、上手くいったらやる! 良いな?」
「ああ。上手くいったらな」
「がんばってちょうだい」
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宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
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