没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平

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第五章 領地の拡大

第73話 道路整備スタート!

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 翌日から道普請が始まった。
 道普請を行うのは、我がエトワール伯爵領の領都ベルメールからフォー辺境伯の領都デバラスへ向かう道路だ。

 現在馬車一台が通れる程度の幅だが、馬車がすれ違うように拡幅を行う。
 さらに、土嚢工法で道路を整備するのだ。

 土嚢工法は、前世日本の動画サイトで知った工法だ。
 アフリカの貧しい国へ支援する時に実施された工法で、ブルドーザーやパワーショベルのような建設機械がなくても、土嚢とスコップがあれば現地住民でも作業可能なのがミソだ。

 見よう見まねではあるが、俺が指導を行った。

 俺、執事のセバスチャン、フォー辺境伯、フォー辺境伯の執事のウエストラルさん、護衛のシューさんの五人で、工事の状況を見て回る。

 最初は館に近い工事区画だ。
 ここはフォー辺境伯の領地からやって来た騎士爵の三男が指揮を執っている。
 荒くれだが力のありそうな連中を揃えているので期待大だ。

 だが、俺たちが視察に赴くと、工事現場は修羅場になっていた。
 荒くれたちが怒鳴り合っているのだ。

「おい! そこは違うだろ!」

「スコップ寄越せよ!」

「俺が使うって言ってるだろが!」

 大もめである。

 フォー辺境伯が腹を抱えて笑っている。

「エトワール伯爵。いやー、すまない。ウチの領地の連中は血の気が多くてな!」

「土地柄ですよね。上手にまとめれば、工事が進みそうですが――」

「あー、殴り合いが始まったな」

 ここのリーダーは、力のありそうな連中を揃えたまでは良かったが、使いこなせていない。
 まとまりのない人の集団が、いかにダメかを見せつけられた気がする。

「うん。勉強になる」

 執事のセバスチャンが、梅干しを食べたような渋い顔で俺をのぞき込む。

「いかがいたしますか? 止めますか?」

「いや、ほっとこう。この荒くれ集団をどうまとめるか? ここのリーダーの器が見たい」

「左様でございますか。では、次の工区へ」

 俺たちは次の工区へ移動した。

 次の工区も作業が止まっていた。
 リーダーの周りに人が集まり、みんな頭をひねっている。

「先に土嚢じゃねえか?」

「いや、土嚢に入れる土か?」

「こんなに地面が固かったら、土嚢に入れられないだろう」

「えっと……じゃあ、なにから手をつければ?」

 ここの工区は段取りを組めていないようだ。

 土嚢工法は、それほど難しくない。

 ・ツルハシやスコップを使って固い地面を砕く。
 ↓
 ・大きい石があれば、撤去する。
 ↓
 ・土嚢に土を詰め、道路に敷き詰めていく。
 ↓
 ・土をかぶせて、道路を平らにする。

 これだけだ。
 ツルハシ、スコップ、土嚢袋は、俺が【生産スキル】で生成し、各グループに十分な数を支給してある。

 だが、リーダーがしっかり段取りを組まなければ、道具があっても工事は進まない。

 ここのグループも、フォー辺境伯の領地からやって来た連中だ。
 どうもフォー辺境伯の連中は肉体派で頭を使うのは苦手なようだ。

 フォー辺境伯は、自領の出身者たちが二箇所続けて工事が上手く進んでいないのを見て苦笑いだ。

「エトワール伯爵。いや、面目ない。ウチの連中は力持ちなんだが……」

「フォー辺境伯。お気になさらず。ここは力持ちの若い男が多いですから、段取りさえ組めば、工事は一気に進むでしょう」

「そういってもらえると助かるよ! まあ、長い目で見てやってくれ。連中は騎士爵家の次男坊や三男坊だから仕切った経験が少ないんだ」

 なるほどね。
 リーダー経験が少ないのか。
 それでグループをまとめたり、ビシッと指示したり出来ないのだな。

 となると、この道普請は彼らにとって、良い経験、トレーニングになる。
 実地に勝る経験はないのだ。
 実際に人を率いて、あがいてもらおう。

 今回の道普請は、十三のグループに分かれている。

 リーダーは、ジロンド派が五人、フォー派が八人だ。
 それぞれ十人程度の人を率いている。
 俺たちは順番に工区を視察していくが、どこも上手く進んでいない。

 工区は五十メートルで一つの工区としている。
 受け持ち工区が終れば、プチボーナスを支給し、次の工区を割り当てる。
 そして最終的に一番沢山の工区を工事したチームが優勝でビッグボーナスを支給する。

 ボーナス支給で、みんなやる気はある。
 だが、上手く現場が回らない。

 視察を続けて、俺もちょっと焦ってきた。
 秀吉の割普請を真似して、グループを競争させる方式を取り入れたが、果たしてこれで良かったのか……。

 執事のセバスチャンと護衛のシューさんが先頭を歩き視察を続ける。

「次が最後ですね。おやっ!」

「「おおっ!」」

 俺とフォー辺境伯は、思わず驚きの声を上げた。
 最後に訪れた工区は、現場が上手く回っているのだ。
 土嚢が積み重ねられている。

「セバスチャン。ここのリーダーは?」

「ディー・ハイランド殿です。ジロンド子爵の寄子であるハイランド男爵の三男とうかがっております」

「ああ! 彼か!」

 ディー・ハイランドは、昨日俺が注目していた男だ。
 おっとりした印象の丸顔でちょっと太った男だ。
 ディー・ハイランドは、男だけでなく、老人、女、子供もグループに入れていた。

 工事現場は適材適所という感じで、上手く回っている。

 まず、ディー・ハイランドが、騎竜に乗りロープにつながれたツルハシを引く。
 ツルハシを若い男が上から抑えていて、固い土がみるみる砕かれていく。
 年寄りと子供が土嚢袋に土を詰めて、若い男が土嚢を運ぶ。
 女性は運ばれた土嚢を丁寧に並べる。

「なるほど。上手く人を使っているな」

 俺は感心して工事を見ていたが、フォー辺境伯が渋い顔をする。

「フォー辺境伯。何か?」

「いや、騎竜をあんな風に使うとは思わなかった」

「えっ?」

 ディー・ハイランドは、力のある騎竜を重機のように使っているのだが、不味いのだろうか?

「騎竜を作業で使っては、いけないのでしょうか?」

「いや、ダメではないが……。騎竜は人を乗せて移動するための生き物だ。戦で一緒に戦うこともあるし、旅をすることもある。いわば騎士の相棒だ」

「なるほど……」

「それに騎竜は値段も高い。まさか農耕馬のように使うヤツがいるとは思わなかったよ」

 ほうほう。
 つまりフォー辺境伯たち南部人の感覚では、高級車で荷物を運んでいるような感じなのだろう。

「私は合理的な判断で良いと思います」

「合理的か……。まあ、エトワール伯爵は中央の出身だからな。南部人では思いつかんよ」

「でも、あの方法なら固い地面を崩すのにもってこいですよ」

 騎竜が固い鉄で出来たツルハシを引っ張り、若い男がツルハシを上から抑えると、道の固くなった土がモリモリと掘り返されていく。

 ディー・ハイランドの工事の様子を見て、フォー辺境伯は苦笑いだ。

「確かに! あれなら早い! まあ、手札を使って最善を尽くす姿勢は嫌いじゃないよ」

 ディー・ハイランドの仕事ぶりをみて、俺は嬉しくなった。


 その日、一番工事が進んだのはディー・ハイランドのグループだった。
 俺は、ご褒美の酒を差し入れた。
 商人から買った上等なエールだ。

「俺たちが一番だぞ!」

 ディー・ハイランドが、旨そうにエールを飲み干していた。
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