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第五章 領地の拡大
第81話 領地分配 ディー・ハイランド
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リーダーたちに与える領地の下見ツアーは、いよいよ最後の一カ所になった。
最後は海から近い場所だ。
俺はリーダーたちに領地候補の概要を伝える。
「ここは海に近いが、海岸がない。切り立った崖になっているので、海を活用するのは難しいだろう。草地が広がっているが、ちょっと土が泥状になっているのだ」
この場所は草地が広がっていて、開拓がしやすそうだが、マイナス点もある場所だ。
西側は海だが、前世日本の北陸にあった東尋坊のような地形で、険しい崖が海と陸地を隔てている。
漁や交易に海を利用するのは厳しそうなのだ。
さらに草地のかなりの部分が泥状になっている。
冒険者からの報告によれば、八割程度が泥状態。
この泥状の土が、農業に良いのか悪いのかはわからない。
南部貴族のおっさんたちも首をひねる。
「この土は見たことがないな……」
「うむ、粘土に似ているが違うな」
「草が生えているということは、農業も出来なくはないであろうが……」
「やってみなければわからんな」
リーダーたちも渋い表情だ。
俺としては、ここに開拓村を作り海沿いを探索する中継基地にしたいのだ。
誰も名乗りを上げてくれなければ、俺が直轄の開拓村を作るが……。
おや?
ディー・ハイランドが、地面にしゃがみ込んでいる。
真剣な顔で泥状の土をつまみ上げ、手触りと臭いを確認している。
何をやっているのだろう?
俺は興味深くディー・ハイランドの様子を見た。
ディー・ハイランドは、草地の上をあちこち歩いてはしゃがみ込み。土をつまみ上げ確認する作業を繰り返していた。
俺は、護衛のネコネコ騎士みーちゃんを引き連れて、ディー・ハイランドに声を掛けた。
「ディー。先ほどから見ていたが、何を確認しているのだ? その泥状の土が気になるのか?」
ディー・ハイランドは、ニンマリと嬉しそうに笑った。
「これはピート! 泥炭ですね!」
「泥炭? えっ!? この泥が炭なのか!?」
「はい。南部では珍しいのですが、ここは泥炭が固まっている土地ですね」
「初めて聞いたよ」
俺は隣に立つみーちゃんを見る。
みーちゃんも、驚いていた。
「知らないニャ~。泥炭? 炭? 料理に使えるのかニャ?」
「そうですね。料理にも使えますが、木炭の方が炭の質が良いです」
「じゃあ、安い炭なのかニャ?」
「この泥炭……ピートはウイスキーに欠かせないのですよ!」
「ウイスキー! お酒ニャ!」
ああ、そういえば、ウイスキーでピートが使われると前世で聞いたことがある。
泥炭のことだったのか!
だが、俺はこの世界でウイスキーを見た記憶がない。
「ディー。私はウイスキーを見たことがないのだが……」
「この国では、あまり流通していないのです。ウイスキーは蒸留酒といって、生産するのに手間がかかるのです。エールやワインと比べると値段も高いです」
ああ、納得。
エトワール伯爵家は貧乏貴族だったから、俺はウイスキーを見たことがないのだ。
ディーは腰にぶら下げた物入れから金属製の水筒を取り出した。
前世映画で見たことがある。ウイスキーを携帯するヤツだ。
「これです」
「カッコイイ水筒だな」
「スキットルといいます」
ディー・ハイランドは、スキットルの栓を抜いて俺の方に差し出した。
俺はスキットルの口に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
ツンとしたアルコールの刺激とウイスキー独特の香りがした。
「ほう! キツそうな酒だな! だが、匂いは良い!」
「おお! わかりますか? いやあ、さすがです。このウイスキーは私の実家で作ったのですが、なかなかの出来です。スモーキー……煙くて旨いのですよ!」
ディー・ハイランドは、とうとうとウイスキーについて語り出した。
カスクが……。
樽が……。
甘さが……。
非常に饒舌で止まらない。
俺とネコネコ騎士のみーちゃんは、あっけにとられた。
「カスクって何だ? 樽? 甘さ? えっと、どうしよう?」
「知らないにゃあ……。まあ、ウイスキーにかける熱い思いは伝わったニャ」
「そ、そうだな」
俺は手を上げて、ディー・ハイランドのウイスキートークを止めた。
「わかった! ディーはウイスキー造りに並々ならぬ意欲を持ってるのだな? それで、ここをディーの領地にしたらウイスキーが生産出来るのか?」
「乗り越えるべきハードルはありますが……。ウイスキー造りの職人は実家から分けてもらいました」
ディー・ハイランドに詳しい事情を聞く。
ディー・ハイランドの実家であるハイランド家は、元々隣国の貴族だったそうだ。
二百年ほど前、政変がありハイランド家は一族郎党を率いて隣国から逃げた。
その時に、ウイスキーの製法を隣国から持ち出したそうだ。
「つまりウイスキー職人を引き連れて、逃げてきたのです。いやあ、ご先祖様は苦労したと思いますよ。おかげで私はウイスキーを嗜むことが出来るわけですから、ご先祖様に感謝です」
「なるほどな……。では、ご実家のハイランド家では、長い年月ウイスキーを生産されているのだな?」
「はい。二百年にわたり脈々と受け継がれています」
「ほう! では、すぐにでもウイスキーを生産出来そうだな!」
おや?
ディー・ハイランドが、難しい顔をしてガシガシと頭をかきだしたぞ。
どうしたのだろうか?
「ディー。ウイスキーに必要なピート……泥炭はあるし、ウイスキー職人も連れて来たのだろう?」
「後は設備ですね。ウイスキーはワインと違って、蒸留という製法を用います。ですので、ウイスキー造りには設備が必要なのです。鍛冶師の協力が必要でして……」
「なるほど設備か!」
あれか! 金属製のタンクから、ヒュッと首が九十度曲がっているヤツだな!
テレビのコマーシャルで見たことがある。
ウイスキーを生産出来れば、エトワール伯爵領の名産品が増える。
税収も増えるし、商人にとって魅力的な地域になるのだ。
ここは当主として後押しが必要だろ。
「わかった。必要な設備については、私が援助しよう。鍛冶はドワーフに依頼しよう」
ドワーフの連中も酒のためだと言えば、協力するだろう。
むしろ『早く酒を造れ!』と、秒より早く設備を整えそうだ。
「おお! ありがとうございます! 必ずやこの地をウイスキーの聖地といたします!」
こうしてディー・ハイランドの領地が決まった。
ドライフルーツ、オリーブオイル、ワイン、ウイスキー、配下の領地からも名産品が生まれそうだ。
エトワール伯爵領の名を国中に知らしめるぞ!
最後は海から近い場所だ。
俺はリーダーたちに領地候補の概要を伝える。
「ここは海に近いが、海岸がない。切り立った崖になっているので、海を活用するのは難しいだろう。草地が広がっているが、ちょっと土が泥状になっているのだ」
この場所は草地が広がっていて、開拓がしやすそうだが、マイナス点もある場所だ。
西側は海だが、前世日本の北陸にあった東尋坊のような地形で、険しい崖が海と陸地を隔てている。
漁や交易に海を利用するのは厳しそうなのだ。
さらに草地のかなりの部分が泥状になっている。
冒険者からの報告によれば、八割程度が泥状態。
この泥状の土が、農業に良いのか悪いのかはわからない。
南部貴族のおっさんたちも首をひねる。
「この土は見たことがないな……」
「うむ、粘土に似ているが違うな」
「草が生えているということは、農業も出来なくはないであろうが……」
「やってみなければわからんな」
リーダーたちも渋い表情だ。
俺としては、ここに開拓村を作り海沿いを探索する中継基地にしたいのだ。
誰も名乗りを上げてくれなければ、俺が直轄の開拓村を作るが……。
おや?
ディー・ハイランドが、地面にしゃがみ込んでいる。
真剣な顔で泥状の土をつまみ上げ、手触りと臭いを確認している。
何をやっているのだろう?
俺は興味深くディー・ハイランドの様子を見た。
ディー・ハイランドは、草地の上をあちこち歩いてはしゃがみ込み。土をつまみ上げ確認する作業を繰り返していた。
俺は、護衛のネコネコ騎士みーちゃんを引き連れて、ディー・ハイランドに声を掛けた。
「ディー。先ほどから見ていたが、何を確認しているのだ? その泥状の土が気になるのか?」
ディー・ハイランドは、ニンマリと嬉しそうに笑った。
「これはピート! 泥炭ですね!」
「泥炭? えっ!? この泥が炭なのか!?」
「はい。南部では珍しいのですが、ここは泥炭が固まっている土地ですね」
「初めて聞いたよ」
俺は隣に立つみーちゃんを見る。
みーちゃんも、驚いていた。
「知らないニャ~。泥炭? 炭? 料理に使えるのかニャ?」
「そうですね。料理にも使えますが、木炭の方が炭の質が良いです」
「じゃあ、安い炭なのかニャ?」
「この泥炭……ピートはウイスキーに欠かせないのですよ!」
「ウイスキー! お酒ニャ!」
ああ、そういえば、ウイスキーでピートが使われると前世で聞いたことがある。
泥炭のことだったのか!
だが、俺はこの世界でウイスキーを見た記憶がない。
「ディー。私はウイスキーを見たことがないのだが……」
「この国では、あまり流通していないのです。ウイスキーは蒸留酒といって、生産するのに手間がかかるのです。エールやワインと比べると値段も高いです」
ああ、納得。
エトワール伯爵家は貧乏貴族だったから、俺はウイスキーを見たことがないのだ。
ディーは腰にぶら下げた物入れから金属製の水筒を取り出した。
前世映画で見たことがある。ウイスキーを携帯するヤツだ。
「これです」
「カッコイイ水筒だな」
「スキットルといいます」
ディー・ハイランドは、スキットルの栓を抜いて俺の方に差し出した。
俺はスキットルの口に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
ツンとしたアルコールの刺激とウイスキー独特の香りがした。
「ほう! キツそうな酒だな! だが、匂いは良い!」
「おお! わかりますか? いやあ、さすがです。このウイスキーは私の実家で作ったのですが、なかなかの出来です。スモーキー……煙くて旨いのですよ!」
ディー・ハイランドは、とうとうとウイスキーについて語り出した。
カスクが……。
樽が……。
甘さが……。
非常に饒舌で止まらない。
俺とネコネコ騎士のみーちゃんは、あっけにとられた。
「カスクって何だ? 樽? 甘さ? えっと、どうしよう?」
「知らないにゃあ……。まあ、ウイスキーにかける熱い思いは伝わったニャ」
「そ、そうだな」
俺は手を上げて、ディー・ハイランドのウイスキートークを止めた。
「わかった! ディーはウイスキー造りに並々ならぬ意欲を持ってるのだな? それで、ここをディーの領地にしたらウイスキーが生産出来るのか?」
「乗り越えるべきハードルはありますが……。ウイスキー造りの職人は実家から分けてもらいました」
ディー・ハイランドに詳しい事情を聞く。
ディー・ハイランドの実家であるハイランド家は、元々隣国の貴族だったそうだ。
二百年ほど前、政変がありハイランド家は一族郎党を率いて隣国から逃げた。
その時に、ウイスキーの製法を隣国から持ち出したそうだ。
「つまりウイスキー職人を引き連れて、逃げてきたのです。いやあ、ご先祖様は苦労したと思いますよ。おかげで私はウイスキーを嗜むことが出来るわけですから、ご先祖様に感謝です」
「なるほどな……。では、ご実家のハイランド家では、長い年月ウイスキーを生産されているのだな?」
「はい。二百年にわたり脈々と受け継がれています」
「ほう! では、すぐにでもウイスキーを生産出来そうだな!」
おや?
ディー・ハイランドが、難しい顔をしてガシガシと頭をかきだしたぞ。
どうしたのだろうか?
「ディー。ウイスキーに必要なピート……泥炭はあるし、ウイスキー職人も連れて来たのだろう?」
「後は設備ですね。ウイスキーはワインと違って、蒸留という製法を用います。ですので、ウイスキー造りには設備が必要なのです。鍛冶師の協力が必要でして……」
「なるほど設備か!」
あれか! 金属製のタンクから、ヒュッと首が九十度曲がっているヤツだな!
テレビのコマーシャルで見たことがある。
ウイスキーを生産出来れば、エトワール伯爵領の名産品が増える。
税収も増えるし、商人にとって魅力的な地域になるのだ。
ここは当主として後押しが必要だろ。
「わかった。必要な設備については、私が援助しよう。鍛冶はドワーフに依頼しよう」
ドワーフの連中も酒のためだと言えば、協力するだろう。
むしろ『早く酒を造れ!』と、秒より早く設備を整えそうだ。
「おお! ありがとうございます! 必ずやこの地をウイスキーの聖地といたします!」
こうしてディー・ハイランドの領地が決まった。
ドライフルーツ、オリーブオイル、ワイン、ウイスキー、配下の領地からも名産品が生まれそうだ。
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